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「PKO新任務を考える② 一発の銃弾で失われるもの」(視点・論点)

日本国際ボランティアセンター(JVC) 代表理事 谷山 博史

政府は11月15日、南スーダンのPKOに派遣される自衛隊に駆け付け警護任務を付与することを閣議決定しました。これに対して政治情勢が混乱し治安が悪化する南スーダンへの自衛隊の派遣がPKO派遣5原則を満たしていないのではないか、駆け付け警護任務において武器を使用することは憲法で禁止する紛争当事者への武力行使にあたるのではないかとの議論があります。
駆け付け警護とは、昨年の通常国会で成立した安保法制のうち、PKO法の改正によって自衛隊に付与された新たな任務です。

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一方、PKO5原則とは、紛争解決の手段として武力行使はしないという憲法の要請を満たすため、紛争地への自衛隊の派遣及び紛争当事者への武器使用を避けるための決まりです。紛争当事者間の停戦合意の存在、紛争当事者の受け入れ合意、中立性の確保などがこれに当たります。PKO5原則が満たされており、駆け付け警護も武力行使には当たらないというのが政府の主張です。 
駆け付け警護を考える上で、私たちは南スーダンの現状を知る必要があります。

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日本国際ボランティアセンター・JVCは今年9月と11月、7月に大規模な戦闘があったジュバに人道支援のためにスタッフを派遣し、詳細な調査を行いました。

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現地では、諸外国のNGOから派遣された1,000人近くの外国人スタッフが今の人道危機に対応するために活動しています。
7月の戦闘は、昨年8月に締結された大統領派と元副大統領派の和平合意に基いて暫定統一政府が動き出した矢先に両派の間で発生しました。ジュバの非武装化の合意にもかかわらず双方が重火器を用いた激しい戦闘となり、300人以上の死者がでました。さらにジュバだけで4万人もの避難民が生まれたと言われています。

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ジュバの戦闘が収まった後も、戦闘は周辺のエクアトリア地域に広がり、政府軍や政府系民兵がエクアトリア人の住民に対する殺戮、略奪、レイプ、誘拐を行っています。「ニワトリを殺すように子どもたちを殺していた」と避難民は証言しています。これに対して、村人は自警団を組織して村を防衛したり、武装グループを組織して政府軍や政府軍の母体となっているディンカ人を襲撃したりしています。地方政府の一部には反政府に転じて元副大統領派に合流する動きが見られます。今南スーダンでは、軍事的な闘争にとどまらず、大統領派の民族グループであるディンカ人、元副大統領派のヌエル人をはじめ様々な民族が互いを殺戮しあう、憎悪と報復の連鎖が拡大しているのです。
ジュバも決して安定しているとは言えません。エクアトリア人に対するディンカ人の襲撃が起きるという噂が10月ジュバで広まり、住民がパニック状態で自宅に逃げ込むといった緊張が走りました。国連事務総長特別顧問が民族大虐殺が起こりかねないと警告しているように、いつ大規模な暴力事件や殺戮が起きないとも限らない状態です。

以上のような南スーダンの状況を考えるとき、自衛隊の派遣・駐留の前提となるPKO5原則が満たされていると考えることは難しいと言えます。

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事実をありのままに捉えれば、まず、大統領派と元副大統領派の統一政府は瓦解し、両者の和平合意は崩壊した。そして元副大統領派は北部のヌエル民族が多数を占める地域において一定の領域支配を行っている。さらに元副大統領のマシャール自身が和平合意は崩壊したとしており、現政権への武力攻撃の意思を表明している。加えて各地で武装組織が反政府の動きを示していることから、事実上の内戦状態にある、ということが言えます。

一方で、駆け付け警護任務を実行した場合、どのようなことが想定されるでしょう。
自衛隊の活動地の近くで国連関係者などが、武装勢力によって拉致・監禁されたり、襲撃されれば自衛隊は救援の要請を受ける可能性があります。この場合相手が誰なのか、またどの程度の兵力・装備なのかを見極めるのは難しいでしょう。そんな中、警告射撃で相手が逃げなければどうするか。自衛隊が突入するか、相手が発砲してくればただちに交戦状態となります。そうなれば拉致・監禁された人が殺害される危険は高まります。2010年アフガニスタンで米軍の特殊部隊が武装勢力に拉致されたイギリス人の援助関係者の救出作戦を行いましたが、救出するはずのイギリス人は殺害されました。アメリカの特殊部隊ですらそうなのです。
またジュバで駆け付け警護をする場合は政府軍を相手にする確率が高くなり、自衛隊は政府軍に対して発砲せざるを得ない緊迫した状態に置かれることになります。政府軍と交戦状態になれば、PKOそのものが政府と敵対関係に陥りかねません。政府軍を相手に交戦状態になれば憲法の制約を逸脱します。
群衆に囲まれて危険な状態にある人を駆け付け警護する場合はどうでしょうか。この場合、混乱した状態の中で一発でも銃を撃てば群衆は暴徒と化すでしょう。自衛隊は住民に危害を加えざるを得ない状況に陥ります。そして自衛隊や日本人に対する反感は一気に高まるでしょう。2005年、私自身が駐在していたアフガニスタンのジャララバードで群衆のデモに米軍が威嚇射撃を行った際、群衆は暴徒と化し、国連やNGOの事務所を焼き討ちするに至りました。

以上想定した全ての例でわかるように、南スーダンの現状は、武力行使が許され、かつ相手を鎮圧する訓練を受けたPKOの歩兵部隊であっても、駆け付けて救出するというのは極めて危険で難しい任務なのです。軍隊としての機能を持たず、武力行使が禁止されている自衛隊をこのような任務につかせるのは現実的ではありません。ジュバの新聞では「自衛隊は国連UNMISSのキャンプや市民を保護する、より危険な任務に従事する」と報道されており、自衛隊に出来ないことが期待されているのです。

憲法の制約と現場の事態を冷静に判断すれば、自衛隊の駆け付け警護はボタンを掛け違えたミスマッチであると考えざるを得ません。日本の平和貢献はまったく別の次元で考えるべきです。南スーダンではPKOだけで紛争を解決することは不可能です。なによりも重要なのは、紛争当事者を対話の席につかせ、紛争解決の方法を探る努力を続けることです。さもなければ、事態は悪化の一途をたどるでしょう。また和平を条件に対立する全ての勢力と住民に裨益する援助を打ち出すことも重要です。日本は対立するどの勢力からも信頼されている国です。また紛争に介入している周辺国全てと友好な関係をもっています。加えて市民は、アフリカでの植民地支配の歴史を持たない日本に欧米とは異なる親近感を抱いており、日本の民生支援に対しても高く評価しています。日本のNGOも、平和憲法に支えられて、世界の人々との信頼関係を築いてきました。一回の武器使用で日本への信頼が損なわれ、日本独自の平和貢献の基盤が失われてしまわないよう、武力によらない紛争解決の方法を模索し続ける必要があるのです。

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