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「PKO新任務を考える① 駆けつけ警護の意義」(視点・論点)

拓殖大学 教授 川上 高司

政府は11月に南スーダンの国連平和維持活動(PKO)へ派遣する陸上自衛隊の部隊に新たな任務である「駆けつけ警護」等を付与することを盛り込んだ「実施計画」を閣議決定しました。
昨年9月に成立した安全保障関連法のうち、「改正」国連平和維持活動(PKO)協力法に「駆けつけ警護」が盛り込まれたためそれが可能となったからです。
その閣議決定を受け、稲田防衛大臣は部隊に対して命令を出し、新たな任務を付与された陸上自衛隊の先発隊が先月終わりに南スーダンの首都ジュバに到着しました。

新任務は12月12日から施行されます。部隊には「駆けつけ警護」の他、他国のPKO要員らとともに武装勢力から宿営地を守る「共同防護」も認められます。
「駆けつけ警護」は、現地の国連司令部の要請などを受け、離れた場所で襲われた国連職員やNGO関係者を助けに向かう任務です。今回は、現在、現地に派遣されている自衛隊の「施設部隊」が対応可能な範囲で、国連部隊や南スーダンの警察がいない場合に、警護、救出にあたります。
実施するかは、原則として現場の部隊長が要請内容を踏まえて判断することになります。「自らを守る」武器の使用ばかりでなく、「任務遂行」のための武器使用が可能となります。
南スーダンは、2011年7月に独立しましたが、それ以後、根強い民族対立を抱えてキール大統領と反政府のマシャル前副大統領との間で争いが発生しています。
そのため国連は、すぐに南スーダンの平和維持活動を主任務とする「国連南スーダン共和国ミッション (UNMISS)」を設立し、その司令部 を首都ジュバに置き、約7000名からなる「治安維持部隊」、「施設整備部隊」、それに「警官」約900人を加えた8000人規模で構成される部隊で活動を行ってきました。
その後、2015年8月に両派で和平合意が成立しましたが、今年7月になり首都ジュバで両派による大規模な戦闘が発生しました。戦闘は国連施設まで及び、避難してきた市民が巻き添えになり数百人が死亡しました。国連南スーダン派遣団も治安を「非常に懸念している」状態と認識するに至りました。
現在、国内難民は160万人とも言われ、国外へ脱出する人々も国連難民高等弁務官事務所によれば100万人とも言われ、それら難民が「近隣諸国に押し寄せて、混迷を極めている」と報告されています。
このような中、国連安全保障理事会は7月、UNMISSの任期を2017年6月まで延長し、部隊に4,000名規模の「地域防護部隊」を設置し、さらに兵員数を17,000名へと増やすこととしました。
日本は民主党政権の時に南スーダンへの自衛隊の派遣が決定され、2012年1月から司令部要員と「施設部隊」等を派遣しています。そして国連がUNMISSの任期を延長したため、日本政府も10月の閣議で、南スーダンへの陸上自衛隊派遣を2017年3月末まで5カ月間延長することとしました。
しかし、国会審議では野党からは、戦闘が続く南スーダンでの自衛隊のPKO活動は、その根拠となるPKO5原則の「紛争当事者間の停戦合意」がすでに崩れたのではないか」とか、「国家または国家の準ずる組織の間で戦闘行為が発生しているのではないか」、さらに「自衛隊員のリスクが高まる」などの指摘も出ています。 
これに対して政府は、「南スーダンの反政府勢力の中心人物であるマシャル氏は国外にいて」、「反政府勢力は系統だった組織とはなっていない。」「したがって反政府勢力は『国に準ずる組織』とはみなされず『紛争当事者』ではない」と述べています。
さらに、反政府勢力に支配が確立した地域があるとは考えていない。そうしたことなどから、PKO5原則は維持されている」との見解を示しています。そして、「現時点では、自衛隊員が安全を確保しながら、有意義な活動をできる状況にある」というのが政府の見解です。
一方、日本は今年1月から国連安全保障理事国の非常任理事国となっていて国際社会に対して大きな責務を負うようになっています。
また、岸田外務大臣は7月の国連安保理事会で「アフリカにおける平和構築」を取り上げ、日本の南スーダンへの積極的取り組みを宣言しています。さらに、安倍総理は8月にケニアで開催した日本主導の第6回アフリカ開発会議に出席しアフリカへの援助を打ち出しています。
そのような中で、南スーダンに展開する自衛隊に「駆けつけ警護」など新たな任務が付与されたわけです。海外での自衛隊任務が拡大されるのは初めてであり、自衛隊の国際平和協力の歴史の中で、新たな一歩となるものです。
自衛隊による国際平和協力活動は、過去20年間、常に大きな注目を受けてきました。自衛隊の海外派遣が国際社会の平和と安全に大きく貢献し、間違いなく平和国家「日本」の評価を高めてきました。
延べ1万人を世界各地に派遣した実績がある自衛隊は過去PKOに13回参加し、隊員の死者を1名も出していません。
現時点では自衛隊の活動拠点であるジュバ市内は比較的安定していますが、将来、いかなる事態が起きるかわかりません。そのため政府は、南スーダンの治安が悪化し「有意義な活動を実施することが困難な場合は、撤収する」としています。
南スーダンに派遣された自衛隊の役割は「施設部隊」としての活動であり、これは長期的な国造りのために欠くことのできないものです。その活動は文民保護支援や人道支援のための環境作りにほかなりません。自衛隊の道路整備などの活動の質は非常に高く、現地でも非常に定評があり、まさに自衛隊にしかできない責務であります。
閣議決定に合わせて出された、運用方針「新任務付与に関する考え方」でも、駆けつけ警護は「極めて限定的な場面で、応急的かつ一時的な措置」であり「能力の範囲内で行う」とされています。そして、活動範囲は「ジュバ及びその周辺地域」に限定し、「他国の軍人を駆けつけ警護することは想定されない」とも明示されています。
しかしながら、「駆けつけ警護」や「宿営地の共同防衛」を付与されたことから、自衛隊の武器使用権限が拡大することになりました。これまでの武器使用は「自己保存型」に限定されてきましたが、新たな任務が付与されたため「任務遂行型」に拡大されました。
任務遂行で必要な警告発射などは認められますが、正当防衛や緊急待避以外での危害射撃は禁じられているため、隊員は厳しい判断を緊急時に迫られる可能性があることは事実です。
南スーダンにおける自衛隊の平和貢献は期待しつつも、万が一の緊急事態における「駆けつけ警護」や「宿営地の共同防衛」に現場はどう対応するのか-。また、政府は南スーダンでの状況を見極めながら総合的な判断を迫られることになるでしょう。

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