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「『もんじゅ』を考える②廃炉と核燃料サイクルの見直し」(視点・論点)

長崎大学核兵器廃絶研究センター センター長・教授 鈴木 達治郎

9月21日、政府の原子力関係閣僚会議は、高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉を含め、今後の進め方について「抜本的な改革を行う」との決定を行いました。一方で、「核燃料サイクルを推進するとともに、高速炉の研究開発に取り組むとの方針を堅持する」と発表しました。はたして、この決定は今後の研究開発や核燃料サイクルにどのような影響を与えるのでしょうか。

今日は、大きく(1)高速炉研究開発の意義と進め方(2)核燃料サイクルの見直し (3)国際関係への影響、の3つの視点から論点を整理したいと思います。
第一に、高速炉研究開発の意義とその進め方についてです。

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そもそも「もんじゅ」は、「夢の原子炉」と呼ばれる高速増殖炉の実用化を目指した、日本の原子力政策にとって重要な柱でした。60年代は世界的にウラン資源が希少と考えられ、プルトニウムを利用する核燃料サイクルと高速増殖炉は原子力開発に不可欠と信じられていました。
しかし、80年代から90年代にかけて、ウランの埋蔵量は予想以上にあることが判明し、おそらく今世紀中は、急速に増加する原子力需要を十分に賄えるだけの資源量があるといわれています。いまや「プルトニウム増殖」の緊急性はなくなったといえるでしょう。また、技術的・経済的課題も多く、90年代にはアメリカ、フランス、ドイツ等世界の主要国が高速増殖炉の実用化計画から撤退しました。
「もんじゅ」はちょうどそのころ運転を開始し、95年にナトリウム漏えい事故を起こしたわけで、既に世界からは「1周遅れ」の開発となっていました。その後、トラブルが相次ぎ、日本でも実用化目標は、当初の「1980年代後半」から「2050年以降」と、大幅に遅れてしまいました。実用化が遅れて、「もんじゅ」の性格も少しずつ変化してきました。特に、福島原発事故以降は、プルトニウム増殖よりも、「廃棄物の減容」や「毒性低減」効果に焦点が移り、そのための研究開発を進めることが目的とされるようになりました。しかし、依然、高速炉開発と核燃料サイクルの実用化をめざすという、政府の原子力政策は、根本的には変わっておらず、「もんじゅ」はその「中核」をなす、とされてきました。
しかし、本来の研究開発の考え方からすると、実用化を前提にした「もんじゅ」が廃炉になるのであれば、計画は当然見直しとなるべきです。今後も高速炉の研究開発を進めるとしても、もう一度原点にもどって、基礎基盤研究から立て直すことが重要と考えられます。今後も実用化を目標とすれば、必要な費用も膨大になります。年間200億円という「もんじゅ」の維持費よりさらに少ない費用でも、十分有効な基礎基盤研究開発が可能です。福島事故以降の優先順位を考えれば、高速炉の実用化よりも、福島の廃炉や放射性廃棄物処分など、優先順位の高い研究開発課題に費用を振り向けることを考えるべきでしょう。

次に、核燃料サイクルについてです。日本では原子力を「準国産エネルギー」として、プルトニウムを有効利用する「核燃料サイクル」を原子力政策の中核に据えてきました。高速炉の実用化を前提に、六ケ所再処理工場を建設し、既存軽水炉でのプルトニウムを利用する「プルサーマル」計画を進めてきました。しかし、現実には軽水炉による「プルサーマル」は高速炉がないと、いずれ止まってしまいます。軽水炉では、プルサーマルから回収される劣化したプルトニウムでは、リサイクルが難しく、おそらくせいぜい1~2回しかリサイクルできないからです。また、プルサーマルに使われる混合酸化物(MOX)使用済み燃料の再処理技術は実用化しておらず、MOX使用済み燃料は行き先がなくなって、そのまま地層処分(直接処分といいます)するしかなくなるからです。高速炉のない「核燃料サイクル」はいずれ破たんすることが明白です。
また、増殖炉の必要性が薄れた現在、先に述べたように再処理は主に「廃棄物の減容」や「有毒性の減少」等が、高速炉サイクルのメリットとして強調されるようになりました。しかし、わが国ではその科学的・技術的検証は不十分なままです。再処理は新たな廃棄物を発生し、使用済みMOX燃料の処分はウラン燃料よりも毒性が高く、発熱量が高いため、再処理は廃棄物処分にとって必ずしも有用ではありません。経済性では、明らかに再処理は直接処分より劣っており、再処理を進める根拠はもはや崩れているのです。
今後、「もんじゅ」の廃炉を含め、高速炉開発の計画を見直すのであれば、再処理の必要性をはじめ、核燃料サイクル全体の計画を根本から見直す良い機会です。その際、重要なのは推進や反対の立場を超えた、独立で不偏不党の機関が、客観的な立場で評価を行うことです。例えば、米国では全米科学アカデミーという権威ある独立機関があります。日本でも独立機関として日本学術会議が存在します。また、米国では高レベル放射性廃棄物処分プログラムの再評価を、担当官庁のエネルギー省ではなく、大統領府に「ブルーリボンコミッション」を設置し、独立の立場から評価と政策提言をおこないました。そのような「第三者機関」による総合的な評価が今求められていると思います。政府に第三者機関の設置が難しいのであれば、国会や学会がそのような客観的評価を行うことも考えられます。

最後に、国際関係への影響です。実は、核燃料サイクルの継続は、今日本が抱える「大量のプルトニウム在庫量」との関係で、国際安全保障上、重要な課題と考えられています。2015年末現在、過去の再処理により既に48トン(長崎原爆8000発分)ものプルトニウムを日本は所有しています。これ以上プルトニウム在庫量が増えることは、テロリストに盗まれる恐れ等、核セキュリティ上極めて深刻な課題と認識されています。さらに、2018年に期限を迎える日米原子力協定にも影響を与える可能性があります。米国の専門家や一部政府高官は、協定の下で再処理が継続され、プルトニウム在庫量が増えることへ強い懸念を示し始めています。日米原子力協定で、日本は「事前包括同意」の下で、再処理・プルトニウム利用を30年間認められてきました。しかし、日本が公約している「余剰プルトニウムを持たない」政策の信頼性がもはや保たれなくなってきており、とくに福島原発事故以降、稼働する軽水炉基数も少なく、再処理したプルトニウムの需要が不透明になっています。こういった現状のまま、核燃料サイクル政策を堅持することの合理性が今、問われています。また、日本が核燃料サイクルを継続することで、他国もそれに倣って再処理を実施する国が増えることも懸念の的です。実際、韓国、中国で再処理に対する関心が高まっており、北東アジアでプルトニウム競争が起きるのではないか、との懸念が出てきています。

「もんじゅ」廃炉はこのような課題を表面化させることになります。日本の核燃料サイクル政策を根本的に見直すいい機会でもあります。ぜひ政府や国会、学会にて、客観的で総合的な評価検討を実施することを期待します。

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