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「『もんじゅ』を考える①エネルギー社会ともんじゅ」(視点・論点)

法政大学大学院客員教授 宮野 廣

今、国のエネルギーの在り方に大きく影響を与える重大な局面を迎えようとしています。
経済産業省が主導して「高速炉開発会議」が設置され、高速増殖炉「もんじゅ」の扱いと今後の高速炉開発の進め方の方針を議論して、決めようとしています。
そこで、今日はその論点を明確にしたいと思います。

まず、“なぜ「もんじゅ」の開発が進められなくなったのか”、
ここに「もんじゅ」問題の本質があると思います。
つまり、責任者が不明確であったことが重要な点と考えます。今もそうですが、「もんじゅ」の開発、高速炉の開発の責任を誰が担っているのか、明確でないことです。
なぜ、文部科学省が今後の対応の結論を出すことなく、経済産業省が主導することになってしまったのでしょうか。
この突然の主導者の変更の不透明さに疑問と不安を感じるのは、多くの研究者、技術者であろうと推察するところです。
今回の動きでは、原子力の安全研究や開発に一体性、統一性がなくなるのではないか、そこが不安なところです。
 

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さて、高速増殖炉の原型炉である「もんじゅ」は、高速増殖炉の実用化に向けた国家プロジェクトとして研究開発が推進されてきました。しかし、1995年にナトリウム漏えい事故を起こし、それ以降、一時、運転を再開した期間もありましたが、約20年の長期にわたり運転を停止している状況が続いています。
ナトリウム漏えい事故は、発電のための高速増殖ナトリウム炉の原型炉として初めて造られた「もんじゅ」、での不具合であったのです。その後に起きた様々な不具合も、この“初めて”という取り組みであることから生じたものが多い、と言えます。
このような不具合を分析し、次の実証炉、すなわち発電用の高速増殖炉として運用する第1号炉の、設計や運用に反映することが、この「もんじゅ」という原型炉の重要な役割としてきたはずです。
「もんじゅ」に発生した“ナトリウム漏れ”という不具合は、そう言う意味では想定されたものとも言え、そのような事故、不具合に対応する設備などの策はしっかりと機能し、設計や運用の経験を積むことができたと言えます。
次の実証炉の設計、運用への貴重なデータとなったのです。
もちろん、「安全確保」は最優先ではありますが、一方で解決できる不具合を許す姿勢もなければ、恒久的な「安全確保」という成果は得られないとも言えます。

昨年、原子力規制委員会の勧告を受けて、文科省では、『「もんじゅ」の在り方検討会』を設置して、「もんじゅ」の運営主体の備えるべき要件をまとめてきました。
その重要なポイントは、-「もんじゅ」は研究開発段階炉であるということです。
保守管理規定を段階的に定め、運転の進展に従い得られた経験、実績を基に、その見直しを行い、次の段階の規定、計画を定める、段階的な取り組みとすることが適切、というものです。

私は、「もんじゅ」に課せられた本質的な問題の論点は、以下の点にあるのではないか、と考えます。

東日本大震災により、わが国のエネルギー問題は大きく変わってきたと考えられます。今後どのようにエネルギーを整備、確保して行くべきか、についての方向性の議論が重要なのではないでしょうか。
原子力発電の環境、そのものも停滞している現在、「もんじゅ」だけではない、全体の見直しの適切な時期と考えます。
将来を見たエネルギー確保への取り組みと、どのようにエネルギー技術を確保して行くべきか、また環境問題と合わせた原子力発電やエネルギー全体への取り組みについての議論など、根本的なエネルギー問題の議論を行うべきでしょう。
その上で、もう一度、高速増殖炉、また「もんじゅ」の位置づけを明確にしなければなりません。

過去に議論の末、高速増殖炉としてナトリウム炉が採用され、将来の発電炉として地震国日本にふさわしい“ループ型”の「もんじゅ」の形式を採用しました。
これは、今、議論となっているフランスの“タンク型”炉のアストリッドとは大きく異なるものです。
その判断の経緯を再確認するとともに、現在の世界のエネルギー事情、わが国のエネルギーの長期戦略を再考した上で、改めて「もんじゅ」の役割を明確にしなければなりません。

2050年には、世界の人口は今の72億から96億人にまで増える予想です。エネルギーの使用は少なくとも今の1.5倍にまで増え、更に、電力の使用量も文明の発展と共に飛躍的に増大することは必定でしょう。
そのような状況の中で、日本のエネルギーは、ほとんどを輸入に頼っており、セキュリティーの上でも厳しいものがあります。

高速増殖炉の議論の当時は、エネルギー問題、エネルギーの確保のみが論点でありました。しかし、最近の世界の状況をみると、最も重要な論点は、地球温暖化対策、環境問題と考えられます。
エネルギーへの対応の仕方、そのものに課題が突きつけられていると考えます。
化石燃料への依存からの脱却、が重大な論点となっているのです。
すなわち、環境問題への対応を考えると、原子力エネルギーの大幅な採用に転換せざるを得なくなるのではないか、と推察されるのです。

高速増殖炉を開発すべきか、軽水炉の高度化を図るべきか。
この議論は簡単ではありません。コンセンサスを得るまでには時間を要するでしょう。
しかし、まずは、選択肢を確保することが大切です。それが、「もんじゅ」の役割の完遂です。
新しい原子力発電のためのナトリウム高速増殖炉の、原型炉としての「もんじゅ」の役割は、安全を確保しつつ運用し、その中で運転の技術や保守保全のノウハウを獲得し、発電炉として長期に運用する上での、安全性を確実にするための実証炉の設計に反映すべきこと、実証炉の運用に反映すべきことを確認することにあります。
このプロセスを踏まないまま、実証炉の開発に移ったとしても、同様の問題を繰り返すことになりかねません。「もんじゅ」が担ったこの役割を確実に果たすことが必要なのです。
今後のもんじゅの運営は、このような考えを基に、具体的に検討されるべきでしょう。

その上で、資源の投入は必須と考えます。適切に資源を投入し、設備を充実して、安全を確保することはもちろんですが、まず、その基盤となる適切な品質管理、運用管理の確保を行わなければなりません。
どのように資源を投入すれば、安全、安定な研究開発段階炉の運用ができるのか、重大な経営判断となります。そのためには、運営主体を資源投入の権限を有する経営権を持った、責任ある組織とすることが必要と考えられます。
安全対策への投資を含め、高速増殖炉の実用化には、多額の資金が必要です。
しかし、それに見合うだけの価値があると考えます。
資源投入の決断ができなければ、そもそも将来のエネルギーの確保はできません。
どのような道を進むにしろ、開発の「ロードマップ」-すなわち、どのような手順で進め、いつ、だれが責任を持って、なにを達成するのか-という、道筋を明確に示すことが必要です。それがなければ、今回と同様、安易に途中で投げ出す選択をすることになるではないでしょうか。

高速増殖炉の開発を含めて電源の確保は重要な国家プロジェクトです。
社会との対話を通じて、ロードマップへの理解を得て、取り組むべきと考えるものです。

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