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「女性の活躍を阻む3つの壁」(視点・論点)

みずほ総合研究所主任研究員 大嶋 寧子

今年4月に女性活躍推進法が施行され、企業で働く女性も急速に増えています。しかしその中身をみると、正社員は増えずに、非正社員だけが増えています。 本日は、女性活躍が叫ばれるなかで、なぜ働く女性の増加が非正社員に集中しているのか、また、女性が希望に沿った働き方を選びにくい状況をどのように変えていけば良いのかについてお話したいと思います。

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まずは、働く女性の現状から見ていきます。2000年代に入って、法律による仕事と子育ての両立支援が充実されたほか、近年は女性社員の育成に力を入れる企業も増えています。しかし、そうした動きと、女性活躍の現状には大きなかい離が存在しています。

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グラフは、企業で働く女性の数が2002年からどのように変化してきたのかを見たものです。これによりますと、働く女性の数は、この10年余りで300万人以上増えています。しかし、雇用形態別にみると、正社員は増えておらず、非正社員が300万人以上増えています。つまり、この10年余りの働く女性の増加は、「非正社員だのみ」だったと言えるのです。さらにどの年収の女性が増えているのかをみると、年収100~149万円の非正社員に集中する傾向も見られます。

このように、働く女性が年収100~149万円の非正社員を中心に増えてきた背景として、大きく3つの点が指摘できます。
その一つが、税制や社会保険制度が、女性が一定の年収を超えないように働く、「就労調整」と呼ばれる行動を引き起こしている問題です。
まず、税制については、妻の年収が103万円を超えると所得税がかかり始め、夫の所得税について配偶者控除が適用されなくなります。税制上の配慮により、妻の年収が103万円を超えても、夫婦の手取り収入が急に減ることはありません。しかし、税による負担を回避したいという意識や、配偶者控除の適用があることを条件に、企業が配偶者の扶養手当を支給する場合が多いことから、パート女性の中では配偶者控除を受けられる範囲内で働く人が一定割合を占めています。
一方、社会保険制度では、サラリーマンの妻の年収が130万円以上になると、夫の扶養を外れて、自ら保険料を負担することになります。さらに、今年10月からは501人以上の事業所で年収106万円以上、週所定労働時間が20時間以上等の条件を満たす場合には、厚生年金・健康保険への加入が求められるようになったため、ここでも保険料負担が発生します。
このため、夫婦の手取り収入が減るのを避けて、社会保険上も夫の扶養の範囲内になるよう女性が働く時間を調整する問題が指摘されています。

働く女性が年収100~149万円の非正社員を中心に増えてきた2つ目の要因は、パート労働者の賃金の低さです。
先ほど述べたように夫婦の手取り収入は、妻に保険料の負担が生じるといったん減りますが、妻の年収が200万円程度になると、手取り収入の増加をはっきりと実感できるようになります。しかし、パート労働者の賃金で年収200万円を確保するためには、地方圏では週45時間近く働く必要があります。これは家事・育児が集中する女性には負担が大きい働き方です。

では、より賃金の高い正社員として働けば良いのではないか、と考える方もいるかもしれません。しかし、正社員は残業が前提となったり、子どもの病気等の時に休みづらい場合があるため、育児期の女性が希望しにくい状況にあります。2001年に行われた調査では、「自ら進んで非正社員となった」と回答した30歳代の女性の約半数が、子どもがいなかったら正社員を希望したと回答しています。いまの正社員の働き方は、育児中の女性たちの現実と合わず、女性が希望する働き方を実現できない要因となっています。

このように、パートとして働く女性の前には、「税・社会保険制度の負担」、「パートの賃金の低さ」、「残業の多い正社員の働き方」という3つの壁が立ちふさがっています。
このため、税や社会保険料の負担ができるだけかからないように、働く時間を抑えることが現実的な選択となり、非正社員として収入を抑えながら働く女性の増加につながっているのです。

国の将来推計人口によれば、現役世代の人口は2030年まで、年平均60万人減少します。これは5年に1度、大阪市と同じくらいの規模の都市が消滅するペースです。また、2人以上の勤労者世帯では、過去20年近くの間に世帯主の平均賃金が月7万円以上減少していますが、世帯主の妻の賃金は月に8千円程度しか増えていません。女性が希望する働き方を実現できるようにすることは、日本が少子高齢化の時代を乗り越えるために、そして日本の家族が所得の安定を図るために重要な課題となっています。

では、女性が希望に沿った働き方を実現できるようになるためには何が必要なのでしょうか。
まず税・社会保険制度の見直しが必要です。具体的には、配偶者控除や、企業の配偶者手当の見直しを進め、女性の働き方に影響しにくい制度としていくことが求められます。

また、社会保険については、より多くのパート労働者が厚生年金・健康保険に加入できるようにすることが求められます。今月から加入の基準が一部見直されましたが、この制度改正の効果は限定的で、社会保険上夫の扶養家族だった人のうち新たに厚生年金などに加入するのは10万人程度です。女性の働き方に影響しにくい制度とするために、さらに非正社員の老後所得の安定を図るために、社会保険の加入対象をさらに広げることが重要です。

パートなど非正社員の賃金の底上げも急がれます。仕事の範囲や責任の違いなどを踏まえても説明できないような、非正社員と正社員の不合理な賃金格差を見直していくことのほか、地方における最低賃金を着実に引き上げていくことが必要です。

さらに、残業や転勤が当たり前で、子どもの病気などで休み難い正社員の働き方も変える必要があります。そのために過剰な長時間労働について規制をしていくことや、残業がない正社員という働き方を推進していくことなどが考えられます。

最後に、女性が希望に応じて働く時間を延ばしたり、新しい仕事にチャレンジできるようにしていくためには、男性も家事育児を担うこと、これを私は女性の社会進出に対して男性の家庭進出と呼んでいるのですが、これが何よりも必要です。OECDの国際比較統計によれば、日本の女性は、収入につながる労働の時間は先進国並みであり、育児などの収入につながらない労働の時間は先進国平均を上回ります。この結果、日本の女性が睡眠と余暇に使う時間は先進国の平均と比べて年に500時間余りも短いのです。こうした状況のまま、女性の更なる活躍を促すことには無理があります。

男性の家庭進出には、「男性が働き、女性が家庭を守る」という社会の意識や、「男性は家庭を犠牲にしても仕事を優先すべき」という職場の意識を見直さなくてはなりません。社会、そして職場の意識を変えるためにも、政府は原則1年の育児休業の期間のうち父親のみが取得できる期間を設定するなどの方策を検討すべきでしょう。

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