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「OPEC減産計画の行方」(視点・論点)

日本エネルギー経済研究所 常務理事 小山 堅

9月28日に、アルジェリアの首都、アルジェで石油輸出国機構(OPEC)の臨時総会が開催されました。その結果、加盟14カ国の原油生産量を日量3250万バレルから3300万バレルの範囲まで減産する計画が発表されました。OPEC事務局が発表した9月の生産量は3340万バレルですから、最大で90万バレルの減産ということになります。OPEC減産合意は、リーマンショック後の原油価格急落に対応して実施して以来、ほぼ8年ぶりです。
この減産計画の発表はいわゆるサプライズのニュースとなりました。総会前、ほとんどの専門家や石油市場関係者は、OPECを始めとする主要産油国が生産調整に関して、実質的で中身のある合意をまとめることは非常に難しいだろう、と予想していたからです。

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原油価格は2014年前半まで続いた1バレル100ドルの高価格水準から下落し、半値以下の水準で低迷します。その状況の下、OPEC産油国は市場シェアを確保し、拡大することを重視し続けてきました。現在の生産量は歴史的に見ても高水準にあります。
また、OPECを代表する重要な産油国、サウジアラビアとイランの立場に大きな隔たりがあることも減産を難しくしている、と考えられていました。核合意によって経済制裁がようやく解除され、制裁によって落ちこんだ原油生産量の回復と今後の拡大に意欲を見せるイランに対し、イランも含め全ての産油国が一致して減産するのでなければ、減産そのものがありえない、との立場を取るサウジアラビア。この両国の隔たりは大きく、合意は難しいであろう、という予想が多かったのです。
ところが、予想外の減産計画が発表されたわけです。このサプライズで、原油価格は上昇に転じました。総会前の9月27日には、1バレル45ドルを割っていた米国産WTI原油の価格は総会の決定を受けて28日には2.4ドル、5%上昇し、47ドルを超えました。その後も値上がりし、10月には節目となる50ドルを突破しています。50ドル台の復帰は6月以来、4カ月ぶりとなりました。それだけ、OPECの決定が市場に影響を及ぼしたのです。
では、なぜOPECは今回、予想に反して、減産を合意したのでしょうか。一言でいえば、2014年の後半以降続いている原油低価格がボディブローのように、OPEC産油国の経済にダメージを与え、それが産油国に妥協を迫ったのでしょう。特にイランも含めた減産にこだわり続けたサウジアラビアでも、低原油価格の持続で経済状況が極めて苦しくなっていました。石油輸出に大きく依存するいびつな経済構造を持つサウジアラビアにとって、低原油価格は経済を直撃するインパクトを持ちます。国の財政を見ても、収支均衡のためには100ドル程度の原油価格が必要、とも指摘され、今の低価格状況では赤字とならざるをえません。これまでに蓄積した外貨準備や資産を取り崩して何とか対応していますが、苦しい台所事情であることは明らかです。

今回、もし、事前の予想通り、OPECが何も対応策を示せなかったとしたら、原油価格はさらに低下し、40ドルを割り込んだかもしれません。それだけはOPECとして、どうしても避けたかったのではないでしょうか。それが、立場の違いを超えて妥協を成立させ、減産合意発表につながった大きな原因になったのではないか、と考えられています。
さて、原油価格のさらなる低下を防ぎ、逆に50ドル台復帰まで価格上昇をもたらしたOPECの減産計画ですが、ここからが問題です。確かに、サプライズの発表に市場が反応し、一定の効果を持ったのですが、次に問題となるのは、本当にOPECやロシアなど他の主要産油国が減産を実施するのか、どうかという点になるからです。発表された3250万バレルから3300万バレル、という範囲まで減産するとすれば、どの国がどれだけ生産するのか、あるいは減産するのか、が明確にならない限り、掛け声倒れになる可能性があるのです。
実際、OPEC総会の後、10月に入って、OPECやロシアの石油大臣などがトルコのイスタンブールで非公式に集まって、今後の対応を協議しています。10日にはロシアのプーチン大統領もOPECによる減産に協力する用意があることを表明しました。これらの動きは、OPECやロシアなどによる減産が実効性を伴って行われることが大事であることを産油国自身が認識していることを示しているともいえるでしょう。11月30日に開催予定の次のOPEC定例総会に向けて、産油国の協議が続くものと思います。
しかし、OPEC全体の生産目標を決めることより、それを担保するために、産油国毎に生産目標や減産の程度を割り振ることは政治的にも極めて困難な問題です。2011年12月にそれまであった国別生産枠を撤廃し、全体(当時は12カ国)の生産水準を3000万バレル、と定めて以来、国別の目標は存在していません。これまでも、OPECは生産枠を定めるために様々な検討や議論をしてきましたが、各国の国益がぶつかり、紛糾を繰り返してきました。だからこそ、現在は全体生産水準の目標しかなくなっているのです。
現在も、基本的には各産油国は市場シェアを守り、拡大するため、競争し合う状況にあります。また、イランやイラクのように、中長期的には生産量を大きく拡大する計画を持つ産油国もあります。その中で、国別の生産枠を定めることは至難の技になるでしょう。また、協力を表明しているロシアについては、第1に、これまでOPECと協力するという政治的意思を表明しても、ほとんどそれが実行されてこなかった、という過去の歴史があります。その背景には、ロシアの石油生産は、民間も含めた複数の石油会社によって行われているため、中東のように国営石油会社1社が生産に責任を持ち、その結果、国の意思が反映しやすい構造になっていないという実態もあります。
こうした点を踏まえて、OPECやロシア等の減産計画の実効性が今後問われていくことになると思います。おそらく、国別の政策枠や減産目標を定めることは容易ではないでしょう。こうした、市場の見方を反映して、原油価格が50ドル台を復帰した後、一本調子で上昇を続けるのでなく、現在は一進一退の状況に戻っています。市場は、次のOPECの対応を見極めようとしているのです。しかし、可能性が低いと思われていても、まさに今回のように次のサプライズがまたあるかもしれません。11月のOPEC総会に向けて、世界の注目が再び高まっていくことになるでしょう。
原油価格が50ドル近辺で一進一退となる中、OPECにとって重要なライバルとなるアメリカのシェールオイルの生産がどうなるか、も市場は注目しています。原油価格下落でコスト削減が行われ、最近はシェールオイルを掘削するリグの活動も増加する兆しを見せています。原油価格が上昇する動きを見せれば、シェールオイルが息を吹き返し、再び生産拡大に向かうかもしれません。それもあって、原油相場は上値が重い展開が続きそうです。
しかし、OPECは今回のサプライズ決定で、再び世界の注目を集めることに成功しました。今後の原油価格を占う上で、やはりOPEC、中でもその盟主であるサウジアラビアの政策に注目していくことが今は最も大事になっているのです。

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