NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「東京パラリンピックへ向けて」(視点・論点)

日本体育大学 教授 田中信行

 オリンピックに引き続いて開催されたリオデジャネイロ パラリンピックが11日間の熱戦を終え、先日18日に閉幕しました。皆さんは、このパラリンピックをどのように見られたでしょうか? そこには、勝負にかける選手の姿、勝っても負けてもやりきったという笑顔、激戦の末に敗れて悔しく涙する姿も見られ、スポーツの感動を率直にあじわうことができたのではないでしょうか?
 いよいよ4年後、この世界最大の障害者スポーツの祭典が東京にやって来ます。
リオでの感動を2020年へと繋げ、東京大会を盛り上げていく必要があります。そのために、どのような大会を東京は目指すのか、その課題にはどのようなものがあるのか、私なりの視点でお話をさせていただきたいと思います。

どのような大会を目指すのか、大きくは3つあります。それは、まず開催国としての選手の活躍。次にきめ細かい安全対策、そして大会のレガシー遺産です。

 まず選手の活躍ですが、やはりメダルの獲得になるでしょう。
 もちろんメダル獲得が絶対では無いのですが、やはりメダルの数は、国民の盛り上がりに
影響しますので重要です。

s160923_1.png

 この表は「パラリンピック過去3大会における総メダル獲得数の国別順位」を示したものです。ご覧のように上位の中国、イギリス、アメリカとオーストラリアはほぼ固定されています。また今回、ドーピング問題でロシアが不参加でしたが、実はロシアも上位国であり、北京大会6位、ロンドン大会3位の成績でした。そのため、ロシアも含めた上位国は、ビック6といえ、これらの国が全メダル数の半分近くを獲得しています。
 今回の開催国ブラジルは、リオでは奮闘して6位となりました。日本は、北京大会で16位、ロンドン大会で24位、そしてリオ大会で16位と復活しました。次回は、開催国として、この順位をどこまで上げられるかが国民の盛り上がりにも影響するかもしれません。
 ところでメダル獲得を目指すには、選手の強化とその発掘が必須です。
 選手強化について、例えば柔道では、今回のリオパラリンピックに向けて 昨年から全日本柔道連盟がパラリンピック選手の強化にも関わるようになり、映像分析なども取り入れた技術指導や練習相手の確保など、これまで培われてきたノウハウや資源の提供を行ったとのことでした。 結果、前回のロンドン大会では金メダル一つであったものが、今回、銀1つ、銅3つと向上しています。 もちろん選手自身の努力や日常的なサポーターも大きな要素ですが、加えて一般の競技団体との連携も非常に重要ではないでしょうか。
 選手の発掘ですが、やはり選手数が多いことは競技レベルの向上にもつながります。
例えば日本ボッチャ協会では、今年はじめて特別支援学校の生徒を対象にした全国特別支援学校ボッチャ大会を東京で開催しました。この様なことが、センスのある選手の発掘にも繋がるわけです。
 選手の発掘事業は、日本パラリンピック委員会が、パラリンピックスポーツの体験会として各地で開催していますが、さらに積極的に高校や大学も含めた教育の場、リハビリテーションセンターや福祉施設にも情報提供の協力を得たり、候補者に対して体力などの適性評価を行ったりする取り組みも必要でしょう。

 次にきめ細かい安全対策です。これは選手や観客の安全環境の構築です。例えば、東京大会では暑さ対策がよく話題に上がります。このことに加えてパラリンピックでは、別の問題にも注意する必要があります。

s160923_7.png

 この表は、開催月である9月の「過去3回のパラリンピック開催都市と東京における気候データ」です。暑さ対策に関しては、一番上の東京と過去の開催都市の平均気温などを比較して、あまり問題はないといえます。しかし、降水量を見ますと、東京だけが著しく多いことが分かります。さらに9月は台風の影響もあります。 
 雨が降れば、例えば自転車のロードレースや、車いすマラソンなどでスリップ事故も置きやすくなります。また夏季大会は、ボート、カヌーやヨットの水上スポーツがあります。急な豪雨や台風の接近、さらに大地震も忘れてはいけません。その時に競技をどうするのか、観客などへの情報提供やその誘導など、その対応に抜けが無いように具体的なシミュレーションを防災や障害のある人全般に詳しい各分野の専門家も含めて検討し、その対応準備が必要でしょう。
 最後に大会のレガシー 遺産です。ところで、パラリンピックは、国内の障害のある人やその関係者に広く注目されているのでしょうか? 実は、重度の障害のある子ども達にとっては敷居が高いことから、あまり盛り上がってはいないことを特別支援学校の先生から伺ったことがあります。パラリンピックには、非常に重度の脳性麻痺の人が参加できるボッチャ競技がありますが、重度の障害のある子ども達にとって、パラリンピック選手は異次元の人なのかもしれません。

s160923_10.png

 ただ重い障害があっても、みんなでスポーツを行うことは非常に楽しいことです。この写真は、東京都の特別支援学校の先生方と子ども達が作り上げてきた「非常に重度の障害のある人も参加できる団体球技 ハンドサッカー」の一場面で、横になったまま乗る車いすの子どもが、サッカーでいうペナルティーシュートを行うところです。現在では、卒業生の人達もこのスポーツの大会を開催しています。インターネット上に動画もありますので、是非ご覧ください。

s160923_11.png

 この写真は、今年の学会のワークショップで、そのハンドサッカーを行った時の一場面です。この場にドイツオリンピックスポーツ連盟の副会長が、電動車いすに乗って参加してくれました。中央右よりのオレンジ色のジャケットを着ている女性です。 学会での講演の後に、ワークショップに来られたため参加していただいたのですが、スポーツ先進国のドイツでは、障害者スポーツということではなく、スポーツの一つとして捉えていることから気軽に参加いただいたのだと思います。
 これらのことから、パラリンピックをもっと身近に感じる意識が持てるように、大会期間中、観戦者なども含めて、いろいろな障害のある人のスポーツが体験できるスポーツフェスティバルのような催しを、幾つかの会場近くで開催してはどうでしょうか? これは障害の有無に関係なく、誰にでも体験してもらえるようにし、そのことであまり堅苦しいこと無しに障害や障害のある人への理解を進めることができるのではないかと思います。
 これまで日本で開催した大会において、1964年の東京パラリンピックでは、2部として、当時のパラリンピック競技対象外の障害種類のある選手も参加する大会を開催し、現在のパラリンピックの原型になったともいえます。また1998年の長野冬季パラリンピックでは、知的障害のある選手を正式に競技に参加できるようにし、結果、知的障害のある選手も参加する現在のパラリンピックに結びつけました。
 2020東京は、何を残すのか? ぜひ、世界にも誇れるレガシーを残してもらいたいと思います。

キーワード

関連記事