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市民ネットワーク for TICAD 世話人 稲場 雅紀

先月27日と28日の二日間、第6回アフリカ開発会議(ティカッド シックス)が、東アフリカ・ケニアの首都ナイロビで開催されました。ティカッドの23年の歴史の中で初めて、アフリカで開催された首脳会議には、安倍内閣総理大臣など政府の要人に加えて、与野党の多数の国会議員や、日本の主要な大企業70社以上が参加し、安倍総理が基調演説で述べたように、さながら「日本の経済界がそのまま移動してきた」様相となりました。

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日本とアフリカの関係はこれまで、官民による援助や文化・スポーツ交流が先行してきました。私は国際協力に携わるNGO 非営利公益団体の立場から長らくアフリカに関わってきましたが、アフリカの課題に取り組む日本のNGOは現在、100団体以上に上っており、その中には、教育、保健、農村開発など、数十年も地元に根を下ろして働くNGOも少なくありません。
また、アフリカの音楽やダンスなどを愛好する人々による文化交流も、大きな広がりを持っています。「アフリカを愛する日本人」の広がりは、今後の日本とアフリカの関係の発展において、大きな資産であるといえます。
一方、日本の政財界は、必ずしも、アフリカを日本の主要な外交や貿易、経済の相手として認識してきませんでした。ティカッド シックスは、日本の政財界が、アフリカの大地に肌で接し、新たな目でアフリカを見るきっかけになったといえます。ティカッド シックスが、これまでのNGOによる国際協力や文化交流で深く、静かに培われて来た日本とアフリカの関係を踏まえて、日本とアフリカの新たな歴史を切り開くきっかけとなることを、私は願ってやみません。
では、ティカッド シックスを踏まえて、日本とアフリカが手を携えて新時代を作っていくためには、何が必要なのでしょうか。市民社会の立場から述べていきたいと思います。

アフリカは現在、二重の意味で転換点にあります。一つは時代的な転換点です。

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20世紀末まで「不遇の時代」にあったアフリカは、21世紀になって飛躍のチャンスをつかみました。アフリカは、教育や保健などの社会開発を中心におく「ミレニアム開発目標」によって息を吹き返し、国家基盤を整えました。
また、アフリカ連合や、アフリカの地域ごとの経済協力のための機関である地域経済共同体などの仕組みを発展させ、国を越えた大きな経済圏作りへと歩みを進めています。
2013年、アフリカ連合はこうした時代的趨勢を踏まえて、アフリカの今後50年間の開発の指針として「アジェンダ2063」を発表しました。

もう一つが、人口の急増という転換点です。

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グラフでは緑の線ですが、アフリカの人口は現在12億人。今後、人口増が急加速し、2020年には17億人、2050年には24億人となり、さらに増え続けます。アフリカはこの人口増に適応して、急速にその社会、経済、政治を変えていく必要に迫られています。アフリカの社会、経済、政治が、新たに労働市場に参入してくる数千万、数億の若者たちに開かれたものならなければ、アフリカはこれを「人口の配当」としていくことができないのです。マクロな意味でアフリカが直面する最大の課題はこれです。
ティカッド シックスでは、アフリカの「産業化」と「経済の多様化」がその主要議題の一つとして取り上げられました。これは議題の選び方として正しい選択だったといえます。しかし、その議論は、「日本とアフリカのビジネス促進」に偏り、アフリカの人口増という大きなチャレンジに対して、日本をはじめとする国際社会がアフリカとともにどのように向き合い、「人口の配当」にしていくか、という大局的な議論に欠けていました。安倍総理は、産業人材育成のための支援を約束しました。その方向性は正しいものの、アフリカに進出する日本企業で働ける人材を作るという以上の規模には達していません。
ティカッドはもともと、「日本の主導で、アフリカの開発について多国間で話し合う、開かれたフォーラム」として作られました。ティカッド シックスでは、むしろ「日本・アフリカ・ビジネス・サミット」という側面が強くなったといえますが、ティカッドが真にアフリカ開発のためのフォーラムであるとすれば、「日本の企業、日本のビジネス」からの視点を越え、「アフリカの開発」をどう進め、「アフリカ自身による開発」にどう協力していくかという視点が不可欠です。その点から、以下のことを提言したいと思います。
まず、大事なことがあります。アフリカには独自の課題があり、他地域の成長モデルをそのまま持ち込んでも有効ではありません。例えば、経済特区を作り、低廉な労働力を供給して大量生産、輸出するアジア型の経済成長モデルを、インフラが弱く、正社員の労賃の高いアフリカに適用することは難しいのが現実です。アフリカの現実から出発して、展望を切り開くしかありません。

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そこで重要なのが、国の単位を越えて、「線」から「面」へアフリカの大陸経済、地域経済の構築をサポートすることです。
植民地時代に由来し、今も残存する、国境線や、英語・フランス語といった言語圏による分断を越え、地域経済、大陸経済を作り出そうとするアフリカの努力を応援する必要があります。日本のアフリカへのインフラ支援は、これまで、「線」の発想を中心にしていました。つまり、内陸国と港を結ぶ「回廊支援」という考え方です。これを大胆に組み替え、東部、南部、西部といった地域を「面」としてとらえなおし、地域経済を有機的に構築・発展させていく起爆剤となるようなインフラ支援にしていくことが必要です。さらに、それぞれの地域同士の連携を密にし、大陸経済を組み立てていくことが大事です。
アフリカ連合の「アジェンダ2063」は、パン・アフリカニズム、「アフリカは一つ」という考えに基づいて、新たなアフリカの歴史を作ろうとしています。日本のインフラ投資は、こうした新たな発想をサポートするものとなる必要があります。
もう一つ、大切なのは、アフリカの「産業化」「経済の多様化」の担い手は民間企業だけではないということです。アフリカの大地に生きる現在12億の人々こそがその主人公です。だからこそ、「人への投資」が大事です。アフリカでは、数多くのNGOが今、若者や女性のアントレプレナーシップの涵養や起業家精神の育成、職業訓練に取り組んでいます。アフリカの人口の多数を構成する中小・零細の農家が、アフリカの「食」を支えており、生産性を伸ばす適正技術や、農産物を販売できるマーケットへのアクセスを切望しています。地場産業や、都市のインフォーマル・セクターにおける経済活動にも、見るべきものはあります。
人口増の下でのアフリカの経済成長は、<インクルーシブ>、すなわち、包摂的なものでなければなりません。
海外からの大規模な投資やインフラ整備と並行して、コミュニティに根差した経済活動の底上げをどうするか、そこにこだわることが大切です。NGO、市民社会、コミュニティは、こうした経済成長戦略の主人公になります。
市民社会やコミュニティを「産業化」の主人公にすることは、「産業化」の負の側面である、公害や環境汚染、格差の拡大などを予防するうえでも重要です。
昨年国連で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs エスディージーズ)は、包摂的で持続可能、かつ強靭で回復力のある経済成長の実現を求めています。残念ながら、アフリカの多くの地域で、児童労働や、海外の大企業の進出に伴って零細農民の土地が奪われる「土地収奪」などが多発しています。一般の人々の犠牲の上に立つ経済成長は、持続可能なものでないばかりか、治安の悪化やテロなど、社会の安定を損なうものとなりかねません。今回のティカッドでは強調されなかった、「人権」「ガバナンス」「人間の安全保障」の大事さを、もう一度思い起こすことが必要です。
ティカッド シックスは、日本とアフリカの主流社会に、新たな出会いを提供しました。ティカッド シックスによって育まれた芽を、日本とアフリカの新たな歴史として作り上げていくために、NGO、市民社会として最大限の貢献をしていきたいと思います。

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