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「アフリカを考える① 日本の役割」(視点・論点)

吉備国際大学大学院 教授 畝 伊智朗さん

第6回アフリカ開発会議、TICAD VI(ティカッド・シックス)は、8月27日、28日の両日、ケニアの首都ナイロビで開催されました。
アフリカ各国首脳級代表、国際機関などのトップが集いアフリカ開発をハイレベルで討議しました。日本からは安倍総理大臣、岸田外務大臣ほかが出席しました。これまで5回の会合は日本で開催されましたが、今回は初めてのアフリカ開催で、歴史的なことです。
アフリカ開発を自ら主導する意志、アフリカの主体性、オーナーシップを象徴するものとなりました。第6回アフリカ開発会議の成果をもとに、アフリカ開発における課題と日本の役割について、お話しします。

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今回のアフリカ開発会議で、日本はアフリカ諸国に多くのことを約束しました。官民あわせて3年間で300億ドル(約3兆円)の投資を行ない質の高いインフラ整備を進めること、1000万人の人材育成を行うことなどは大きく報道されています。
「約束は守る」という日本の強みを発揮する良い機会です。アフリカ諸国はこれまで高く評価してきました。その信頼を裏切ることはできません。日本はまず、約束したことを着実に実施する必要があります。
アフリカ諸国は常に政治的・経済的な困難にさらされています。政治的には、長く続くソマリアの内戦、南スーダンの混乱、西アフリカのサハラ砂漠周辺地域の不安定化、リビア問題、ナイジェリアなどにおけるボコ・ハラムのテロ活動など、アフリカは安全保障上の課題、難題を多く抱えています。
経済的には、2000年以降、アフリカ諸国は石油を含む第1次産品の輸出による経済成長が続いていました。最近の資源価格の下落により、ナイジェリア、アンゴラなどの産油国経済が悪化しています。中国経済の減速もアフリカ諸国にとっては経済的な痛手になりつつあります。
アフリカ諸国が政治的・経済的な困難を抱えているにもかかわらず、世界の関心はアフリカ以外に向けられています。シリア内戦と大量難民の発生、各地で起きるテロ事件が国際的に関心を集めています。そのため、アフリカ諸国の問題に対する、国際社会の関心が低下しているわけです。世界情勢が悪化する中、アフリカが世界から忘れられ、取り残されるのではないかという危機感が、アフリカ諸国のリーダーたちには強いのです。だからこそ、日本は、その懸念を払拭する役割を期待されています。「アフリカの成長なくして世界の繁栄はない」というメッセージを、日本はアフリカ開発会議を通じて効果的に発信しました。アフリカ諸国にとって「困った時の頼れる友人」を、日本は引続き担う必要があります。
日本人にとって、アフリカは物理的にも心情的にも遠くにあります。ともすれば、アフリカというひとつの国のように思いがちです。飢餓大陸、貧困大陸など、暗いイメージがありました。この認識は誤っています。

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アフリカはユーラシア大陸に次いで大きな面積を有し、その面積は3,037万平方キロメートル、世界の陸地面積の20%を占めており、日本の国土の約80倍あります。多様な気候、風土となっています。多くの資源にも恵まれています。この大陸には54の国があり、多様な民族、文化、言語が存在します。アフリカは多様性の大陸です。
人口は現在、約10億人おり、世界人口の13%ですが、2050年には、20億人を突破し、世界人口の5人に1人はアフリカ大陸の住民となります。その多くは若年層です。広大な面積、資源、人口を有する「希望の大陸」です。大きな経済市場になることが期待されています。
その一方で、開発課題は多い。行政能力の不足、インフラの未整備、人材の不足、遅々として定着しない平和と安定など、多くの課題があります。「未解決課題の大陸」なのです。
アフリカ諸国は、人口ボーナス期待、資源ブーム、地域経済統合の進捗により市場が拡大し、年率約5%の成長を維持してきました。その良い側面として、全人口に占める貧困人口の割合である、貧困人口率が低下しています。
その一方で、経済成長は、地域、国、コミュニティ、個人の各レベルにおいて、格差の拡大を招いています。これは経済成長の負の側面です。格差が拡大し、社会の脆弱性が高まると、ちょっとした政治的不安定や自然災害をトリガーとして、紛争が再発・再燃するのです。
従って、アフリカの経済成長を促進する協力を日本は遂行すべきですが、あわせて、「質の高い成長」を意識して協力をすべきです。
まず、包摂性の努力、つまり、成長の恩恵から排除される、取り残される人がない取組みをすることです。具体的には、若年層、特に女性の雇用を増やす協力、そのための人材育成の推進というソフト面があり、ハード面では、地域経済統合を念頭にした広域インフラ国境をまたぐ道路、橋などの整備に注力する必要があります。
次に、経済成長を持続可能なものにする必要があります。その具体的な方策としては、科学技術・イノベーションをアフリカ諸国がそれぞれの実情に応じて政策に取り込むことです。そして、それを日本は産官学連携で、共同研究のパートナーとして、積極的に支援する必要があります。この協力は日本の強みなのです。「課題なきところにイノベーションなし」とも言います。課題の多い大陸で日本自身も学ぶことは多いはずです。
そして、経済の多様化、高度化を通じた経済構造の転換により、経済の強靱性を高めたいとする要望が、アフリカ諸国から強く求められています。
留意すべき点としては、現実的なプロセスを一緒に考え実行していくことです。鉱物資源、農業を基盤とした経済社会が一朝一夕に、第2次産業、第3次産業に転換するのは難しいものです。
国家は農村社会の健全な発展に支えられています。地道ながらも、労働力の吸収余力がある農業開発に、日本はこれまで以上に協力をすべきです。生産性向上による食糧の増産、農民組織化を通じた市場志向型アプローチによる農業所得の増加、農産物加工・流通の奨励など、日本の強みを活かせる協力の範囲は広いのです。産業の多様化、高度化を支援し、その進展を見守りつつ、農業開発に注力することが重要です。
また、グローバル化が進んでいる現在、アフリカの課題は決してアフリカだけの課題ではなくなってきています。エボラ出血熱などの感染症対策、テロ対策を含む平和と安定への取組みが必要なのです。顔の見える、積極的な取組みが日本に求められています。紛争影響地域、その周辺国などへの積極的な協力など、日本としてできることが多いはずです。自衛隊が行っている、ジブチを拠点とした海賊対策や南スーダンのインフラ整備への貢献は高く評価されています。活躍の場は多いのです。いろいろな専門家が指摘しているように、この取組みは急ぐ必要があり、現在、国連安全保障理事会非常任理事国である日本に、その積極的外交努力が期待されています。
アフリカ諸国の自立は国際社会の責任でもあり義務でもあります。多くの投資と時間を必要とします。国際社会と協調し、日本はアフリカ諸国の課題解決にこれまで以上に協力すべきです。
それは日本政府並びに実施機関だけが行うことではなく、民間企業、市民社会、大学など多くの関係者・関係機関の協力のもと、積極的に進めていく必要があります。

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