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「熊本地震 復興への財源確保は」(視点・論点)

関西学院大学教授 小西 砂千夫さん

4月の熊本地震からまもなく5か月を迎えます。地震発生直後に比べて、マスコミの関心は薄れがちですが、復旧・復興はむしろこれからが本番です。安倍首相は6月の被災地訪問で、「国としても、全面的に支援をしていきたい」と述べました。はたして、熊本地震からの復旧・復興は盤石なのか、財源面の課題を考えます。

熊本県災害対策本部の8月17日現在の発表で、死者は関連死を含み95人、地震による住宅被害は全壊が8124棟、半壊が2万8494棟となるなど、被害の規模は大きく、ピーク時には18万人を超えていた避難者数は、仮設住宅等への移転が進んだことで大幅に減りましたが、11市町村でなお1200人あまりです。

震度7を記録した益城町などの特定の地区では、倒壊した家屋が多数残され、屋根に張った防水用の青いビニールシートが目立ち、地割れしたままの農地が広がっています。8月半ば、お盆の時期を迎えながら、多くの墓石が倒壊したままの地区もありました。大規模な土砂災害で阿蘇大橋が崩落した南阿蘇村では、熊本県と大分県を結ぶ国道57号線の復旧のめどが立たず、県道28号線や149号線もトンネル崩落や土砂災害のため通行止めが続き、生活道路が至る所で寸断されたままです。南阿蘇村では、地震とその後の豪雨被害の影響で、簡易水道の回復が遅れており、700世帯近くで断水が続いています。このように、被害が集中した地区を中心に、なおも深刻な状況が続いています。

その復興を進める上で、最も重要な課題の一つが財源の確保です。これまで発生した大規模災害でも、復旧・復興にかかる財源確保は、常に大きな課題となってきました。過去の大きな災害を振り返ってみますと、阪神・淡路大震災では、道路などの公共土木施設や公立学校施設などの復旧に対して、激甚災害法によって財政負担の軽減を図ると同時に、激甚災害法の対象外の公園、街路などの都市施設や公立病院などについても、国の財政支援の対象を広げるための特別法を設け、復旧事業に手厚い財源措置を設けました。その一方で、復興事業については、市街地整備の一部を除いて、特段の財政支援はありませんでした。それでも、創造的復興を掲げて、事業を積極的に展開した結果、兵庫県や神戸市の財政状況は、地震発生から10年間以上も、厳しい状態に陥りました。

一方、東日本大震災では、復旧事業で阪神・淡路大震災の財源措置を拡充するとともに、復興事業でも使途の自由度の高い交付金を設け、自治体負担分について震災復興特別交付税を充てることで、復旧・復興事業で、事実上、地元負担をなくしました。地元負担なしは、前例のない措置でした。それを行った理由は、災害規模があまりにも大きかったことと、被災した自治体に財政力が弱い市町村が多かったという事情がありますが、それだけではなく、復旧・復興財源を捻出するために、復興増税という特別な増税を行ったことがあります。つまり、被災した地方自治体が負うはずの財政負担を、復興増税によって、国民全体が肩代わりしたことがあります。ただし、集中復興期間の5年間が経過した現在は、原則的には、被災自治体にも一定の地元負担があります。

それに対して、熊本地震では、どのように取り組まれてきたのでしょうか。熊本県が設けた「くまもと復旧・復興有識者会議」は、6月19日の最終提言で、「どのような復興を可能にするかは、なお、不分明である。熊本復興に真に必要な事業が展開されることを期待する」として、復興を具体的に実現するうえで課題が重いことを指摘し、熊本県と被災した市町村に、一層の奮起を求めています。また、復旧・復興財源については、東日本大震災の例を引き合いに、熊本地震についても、被災した地域が創造的に復興を進めるうえで、地元自治体の財政負担をなくし、それを今後の災害復興財政の一般方針とすることが、「国の国民に対する誠実さではあるまいか」と指摘しています。さらに、国の補助金頼みでは、地方の意向を踏まえた復興ができないことを踏まえて、地元主体の復興事業の財源として、東日本大震災でも設けられた復興基金の創設を求めています。

こうしたなかで、政府は、5月の補正予算で、熊本地震の復旧・復興財源として、熊本地震復旧等予備費を7000億円確保しました。それを活用して、災害で大量に発生したがれきの処理費用に対する自治体負担を、ゼロにこそしなかったものの、阪神・淡路大震災の特例措置を拡充して、事業費の2.5%以下に抑える方針としました。道路・河川などのインフラ等への災害復旧事業はもとより、中小企業等のグループが県の認定を受けて実施する施設復旧についても、地方債と地方交付税を組み合わせることで、事実上、地元負担の割合をゼロに近い水準に引き下げました。

また、地方の発意を活かした復興を確実にするための復興基金についても、政府の第2次補正予算案に盛り込まれました。基金を活用することで、単年度の予算の枠に縛られず、住民生活の安定、住宅再建支援、産業や教育文化の振興など、さまざまな事業が実施できます。基金を活用する際には、国ではなく熊本県が自主的に判断し、市町村事業に配慮した運用が期待されています。基金の規模は、東日本大震災の被災3県への復興基金への配分基準に準じて510億円となりました。財源確保のために必要な法律の改正案は秋の臨時国会で審議される予定です。

熊本地震では復興増税は予定されていませんので、東日本大震災の財源措置と同水準ではありませんが、阪神・淡路大震災以降の地震災害等と比較すると、最も高いレベルの財源措置が設けられました。事業費が多額となる復旧事業で、地元負担の割合を極力ゼロに近づけることと、復興基金の創設は、大きな成果といえます。その結果、被災した県や市町村が復旧事業で財政状態が大きく悪化することは避けられる見込みです。

ただし、今後の復興事業に必要な財源確保はこれからの課題です。益城町や南阿蘇村のような被害の大きな地域では、旧に復するだけではなく、災害を契機に新たな発想で豊かな地域を創造していかなければなりません。一例ですが、南阿蘇村の観光、益城町の農業を、いままで以上に盛り立てる方策を練って、人口減少社会にあっても、未来に希望が持てる地域づくりが求められています。そのためには、熊本県が前面に立って市町村と協力し、復興の未来図を描いて、政府に対して復興事業の財源確保を、今後も強く求めていく必要があります。

自然災害が多発するわが国では、災害に対応した財政制度の拡充は、重要な課題です。復旧事業の財政支援までは、段階を踏んで整備されてきたといえますが、復興段階の財政措置は今後の課題です。復興増税で特別な財政支援を実施した東日本大震災は、前例にはなりません。

熊本地震への取り組みを通じて、大きな災害を受けた地域が、災害を乗り越えて復興を成し遂げるための財政支援制度の整備が進むことを期待しています。

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