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「地震と防災」(視点・論点)

名古屋大学大学院 地震火山研究センター 教授 山岡 耕春

日本は風水害など自然災害の多い国です。とりわけ地震については、2・3年に一度の割合で、日本のどこかが大きな被害に見舞われています。今年4月には熊本で最大震度7を記録する地震が2度も発生し、大きな被害を受けました。2年前の2014年には長野県北部の白馬村が地震に襲われています。2011年には東北地方太平洋沖地震が発生し、関東から東北にかけて、津波によるおおきな被害を受けました。その前にも2008年に岩手宮城内陸地震、2007年には能登半島地震と新潟県中越沖地震、と顕著な地震被害が発生しています。
本日は、いつ来るかも分からない、地震に対する備えについて、改めてお話したいと思います。

まず、防災対策上重要な地震の性質を整理したいと思います。
最も重要な性質は、言うまでも無く、地震は突然発生することです。台風のように、前もって地震発生を予測して数日前から備えを始めるような事は、ほとんどの場合困難です。従って、地震は突然起きることを前提に、普段から備えておくことが必要です。
大きな地震が発生すると、たくさんの余震が発生します。その場合、最初に起きた地震の規模がもっとも大きく、引き続き起きる地震はそれよりも小さいのが普通です。しかし、まれに、最初の地震よりも大きな地震が起きることがあります。熊本地震では、4月14日にマグニチュード6.5の地震が発生し、28時間後にさらに大きなマグニチュード7.3の地震が発生しました。このようなことは、地震学的には不思議ではありませんが、珍しいことではあります。気象庁によると、このようなことは過去に5%の割合で起きていることがわかっています。また最初の地震よりも大きな地震は、ほとんどの場合、最初の地震発生後、1週間以内に発生してます。
これに関連して思い出すのは、2011年の東北地方太平洋沖地震です。巨大地震の2日前には、宮城県の沖でマグニチュード7.3の比較的大きな地震が発生しました。この地域では、大きな地震が発生した場合、それを上回る地震が1週間以内に発生する割合が約20%となるという研究結果があります。
大きい地震が発生した場合には、1週間程度は要注意です。
全ての地震に共通する最も大切な備えは、強いゆれに対する備えです。そのためには、建物の耐震化が基本中の基本です。熊本地震でも、1981年以降の新しい基準で建てられた耐震性の高い建物は、相対的に軽微な被害でした。
建物の耐震化と並んで重要なのは、家具や本棚の固定です。家具を固定して倒れにくくすることにより、家具の下敷きになって地震の犠牲になることを防ぐ事ができます。私は、これに加え、寝室には背の高い家具や本棚を置かないことをお勧めしています。睡眠中は、人はとっさに動くことはできません。先日発生したイタリアの地震も午前3時36分に発生し、多くの方が壊れた家の下敷きでなくなりました。未明の地震であったため、逃げる動作を始めるまでに時間がかかり、逃げ遅れてしまったものと想像できます。家具を完全に固定することはなかなか難しいことです。寝室には背の高い家具や本棚を置かないことが確実な災害軽減になります。
海で発生する地震に対しては、ゆれの対策に加えて、津波に対する備えが必要です。2011年の東日本大震災で経験したように、津波は沿岸の町に壊滅的な被害を与えます。近い将来発生するとされる南海トラフの地震でも大きな津波が発生することが予想されます。また津波の影響を受けない地域に住んでいる人であっても、たまたま海岸付近にいるときに津波に遭遇することもありえます。津波の知識は日本に住む人全てが持つべき知識です。
では、津波の被害軽減のためには何に着目したら良いのでしょうか。
津波については、とかく海岸での津波の高さが注目される傾向にあります。しかし津波の被害は津波によって海水が陸上に流れこんでくることによって生じます。したがって津波被害を考える上で重要なのは、陸上における津波の深さです。これを浸水深と呼んでいます。浸水深は、地形などに影響されますので、詳しく計算してみないと分かりません。
沿岸の自治体が津波ハザードマップを公表していますので、是非調べて下さい。

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浸水深で重要な数値は30cmと2mです。浸水深が30cmを越えると、人が流されます。2mを越えると、木造の家が流されます。強いゆれを感じたら、あるいは、津波注意報・警報が出された場合には、いち早く高台や高い建物の上の階など、安全な場所に避難しましょう。
地震発生直後に津波を確実に予測することは難しいですし、また地震によって停電すると最新の情報を受けにくくなります。まず、安全な場所に避難し、そこで情報を収集しましょう。「避難が先、情報収集はあと」です。
このような海で発生する海溝型の地震は、陸地で発生する活断層型の地震に比較して、繰り返しの周期が短いという特徴があります。南海トラフでは100〜200年間隔で巨大地震が繰り返しています。東北地方の日本海溝沿いでは、M8クラスの地震が数10年に一度程度発生していますし、東北地方太平洋沖地震のようなマグニチュード9クラスの地震は500-600年に1回の頻度とみられています。北海道の千島海溝沿いでも、M8クラスは数10年に一度,それを上回る超巨大地震は500年に1回程度起こるとされています。それ以外にも日向灘や西南日本海溝でも津波を引き起こす地震が発生します。
海溝で発生する地震として忘れてはいけないのは、津波地震の存在です。簡単に言えば、強くゆれない巨大地震です。海岸では余りゆれを感じなくても、しばらくして大きな津波が海岸に押し寄せます。1896年に発生して三陸海岸沿いの集落に多くの被害をもたらした、明治三陸地震は津波地震でした。現在では、気象庁の観測によって津波地震を捉えることができます。
海溝型の地震発生に関する確度の高い予測は、南海トラフであっても現時点では困難です。しかし、プレート境界で巨大地震の可能性が高まっている様子は、最新の研究・観測によって明らかになってきています。その最も重要な現象は、プレート境界がゆっくりとずれ動く現象です。

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南海トラフ沿いでは、トラフからもぐり込んだ海底のプレートが深さ30kmに達したあたりで、半年に1回程度の頻度で、プレート境界がゆっくりとずれ動く現象が観測されています。また浜名湖付近、紀伊水道付近、豊後水道付近の地下でも、時折、プレート境界がゆっくりとずれ動く現象が発生していることが観測されています。このような現象は地震の揺れを発生させませんが、巨大地震の震源域にエネルギーを蓄積させる現象そのものです。
海溝型の地震では、プレート境界のあちこちがゆっくりずれ動きながら、巨大地震の発生に近づいてきます。予測は難しくても、このような地震に近づく現象については、着実に捉えられるようになってきました。
日本に住む私たちは、このような地震の性質を知り、常に地震に対して備える意識を持つことが大切です。

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