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「貧困削減 新たな支援のかたち」(視点・論点)

米NPO コペルニク 代表 中村 俊裕

今日は「貧困削減 新たな支援のかたち」をテーマに、2015年に合意された、貧困削減に向けた国際目標と、途上国支援に関する新しい動きを3つ紹介したいと思います。国連の統計によると、2015年時点で、1日1.25ドル以下で生活する最貧困層の数は8億3千6百万人とされています。これは、1990年時点での最貧困層の数である19億人と比べて、半分以下という数字で、国際的には最貧困層の人々の数が大幅に減少しています。

一方、一日3.1ドル以下で生活をする貧困層の人口は21億人いるとされ、まだまだ貧困削減に向けては長い道のりがあります。
まだ多くある途上国の課題の解決に向けて、去年の9月、ニューヨークの国連本部で「国連持続可能な開発サミット」が開催されました。150を超える各国首脳が参加し、SDGSと呼ばれる2030年に向けた17の「持続可能な開発目標」が採択されました。

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採択された目標の例としては、たとえば
・ 貧困に終止符を打つ、であるとか、
・ 公平で質の高い教育を提供する
・ 水と衛生へのアクセス
・ 近代的なエネルギーへのアクセス
などがあります。
これには国々の間の格差をなくし、貧困を削減していくということを、国際社会全体の最重要案件として合意したという意義があります。
このような大きな目標について合意ができましたが、課題がまだまだ多岐にわたることと、世界経済の低迷などにより、先進国政府が途上国政府を支援するというODAの仕組のみに頼る伝統的な援助の方法には限界が感じられています。

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その中で、新たな支援の形が出てきており、今日はそのなかでも、1)イノベーションの促進、2)ODA以外のお金の流れの増加、3)科学的な効果の測定の3つを紹介したいと思います。
新たな支援の形の一つ目は、今までにないやり方で貧困削減の支援をしていく、という「イノベーションの促進」です。貧困削減に向けたイノベーションの例として、太陽の光で明かりをもたらすソーラーライトが挙げられます。

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世界では、総人口の5人に一人にあたる、約14億人の人々が、いまだに電気のないところで生活しています。こういった場所では、いわゆる電球からではなく、灯油を燃やして火をともすことによって明かりを取っているのです。この灯油ランプは、常に灯油を購入しなければいけないため、貧困の世帯にとっては経済的に負担が大きくなると同時に、灯油を燃やすことから排出される黒煙による健康被害が発生します。
こういった途上国の貧困地域で使えるソーラーライトが出てきた背景には、ソーラーパネルの値段の減少と低燃費のLEDライトの開発、そしてバッテリー技術の向上といった近年の成果があります。
私が代表を務めるアメリカの非営利団体・コペルニクが行った調査では、東ティモールで、世帯の支出額の約20%にあたる1400円ほどの毎月の灯油への支出が、ソーラーライト導入後100円以下になったという調査結果もあります。また、インドネシアで二人の娘を一人で育てる母親のロビナさんは、日没後のイカ取りにソーラーライトを使っており、世帯の収入の増加にもつながっていると教えてくれました。

イノベーションの二つ目の例として「燃焼効率のよい調理用コンロ」があります。

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世界中で30億人がいまだ大量の薪を使う伝統的な方法で調理を行っていますが、薪を燃やすことから出る大量の有害な煙を吸い込むため、それが原因となる疾病によって、年間400万人の人々が死亡するにいたっています。この課題を解決するものとして、燃焼効率の高い「改良コンロ」が世界中のベンチャー会社によって開発されて、途上国での普及が進んでいます。燃焼効率が良い改良コンロを使えば、使う薪の量が減るため、主に女性や子供の仕事である、薪集めという負担も減少します。
このように、科学技術の発展や、途上国向けのデザインが進化したことで、貧困削減の解決の方法の幅が常に広がっているのです。これがイノベーションの意義です。
貧困削減の支援における新たな流れの二つ目は資金の流れです。SDGsの達成は、従来のODA(政府開発援助)のお金だけでは不可能だといわれており、それ以外のお金の流れに期待が高まっています。
その中でも注目を浴びているのは、インパクト投資という新たなお金の流れです。インパクト投資とは、貧困やインフラ、水の供給といった途上国の大きな社会問題に与える影響が大きい企業に対して、長期的視点から投資を行うという特徴を持っています。例えば、インパクト投資の先駆けとされている「アキュメン・ファンド」は2001年に設立され、アフリカ、アジアの国々でソーラーライトを製造する会社や、インドでの小学校の先生を教育する会社などを財政的に支援しています。ODAの主な支援対象が国際機関、途上国政府や非営利団体といった公的機関であるのに対して、インパクト投資の主な対象は社会的な目的を持った民間企業です。

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この社会的企業に対するインパクト投資の総額は2010年時点で約5兆円ですが、ある証券会社の予測によれば、2020年までには40~100兆円規模にまで膨れ上がると予想されています。2014年のODAの総額が約13.5兆円なので、これを大きく上回ります。先ほど紹介したソーラーライトや改良コンロを製造する会社に対しても、インパクト投資の資金が流れており、ODA以外のお金が、貧困削減のためのイノベーションの促進にもつながっていると言えます。
貧困削減への新たな支援の形の3番目の例として、「科学的な効果測定」が挙げられます。つまり、支援したお金が、有効に貧困削減に貢献しているかを判断するために、貧困層の人々たちの生活状況のデータを集め、行った援助の成果が出ているかを科学的に分析するという流れです。アメリカのマサチューセッツ工科大学のJ-PALなどの大学の研究機関を中心にこの新しい流れが加速しています。

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たとえば、コペルニクも、アジア経済研究所とパートナーシップを組んでバングラデシュにおける支援の効果を測定しました。ソーラーライトを導入した436世帯と、導入しなかった436世帯を比較した結果、導入した世帯の灯油に対する支出が7割以上削減し、家での夜の勉強時間が伸びたという結果が報告されました。
このような、科学的な支援の効果測定という新たな流れは、今後さらに加速すると思われます。
最後になりますが、私たちの活動もこうした新しい動きから大きな影響を受けています。

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コペルニクは、現地のニーズにマッチするようなシンプルなテクノロジーを、企業や財団などの資金を使って現地に届けています。途上国向けのテクノロジーは常に進化するため、イノベーションの促進にもつながります。さらに、ODA資金のみならず、企業や財団、個人からの資金を使うことで、新たな資金の流れを作っています。さらに、インパクト評価を行うことで、支援の効果を測定しています。
今までの伝統的な援助を進めるだけでは、野心的な国連の開発目標・SDGsの達成は難しいと考えられています。
テクノロジーの発達や、途上国における企業の活動の増加により、国際機関や政府だけに頼らない新たな支援のかたちが表れています。伝統的な援助に加え、この流れが太く、大きくなることが今求められています。

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