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「18歳選挙権と『選挙ばなれ社会』」(視点・論点)

埼玉大学社会調査研究センター長 松本 正生

総務省が公表した速報値によると、先日行われた参院選における18,19歳の投票率は45.45%でした。新有権者のうち、19歳は39.66%とやや低率であるのに対し、18歳は51.17%と半数を越え、有権者全体の54.70%をわずかに下回りました。この比率、とりわけ18歳については、まずまずだったと評価すべきではないでしょうか。18,19歳の約109万人が投票したのです。

高校生を中心に、自分たちが歴史的な新有権者として社会の注目をあびているという当事者意識が、かなりの広がりをみせたことを示しています。また、19歳に関しては、いわゆる住民票問題、つまり、実家を離れて一人暮らしをしている若者が、住民票を現住所に移していないことの影響が考えられ、早急な制度的対応が求められます。
昨年の公選法改正の経緯に明らかなように、「18歳選挙権」は、必ずしも若者の要求や働きかけで実現したわけではありません。実際、「自分たちが望んだのではないから」という消極的な反応や、選挙での投票と言われても「まだピンとこない」という態度が見受けられました。

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〔表〕をご覧ください。NHKが、2015年11月から12月にかけて、全国の18歳~19歳を対象に実施した意識調査の結果です。同調査で、「自分が選挙で投票することに、戸惑いや不安はあるか」と聞いたところ、「大いにある」=12%、「ある程度ある」=37%で約5割に及んでいました。「大いに」と「ある程度」あると回答した人たちに、その理由を問うと、「政治についてよくわからない」が36%、「どの政党や候補者に投票すべきかわからない」が30%と、双方で大半を占めていました。
今回の参院選では、明確な政策・争点が提示されず、大人も判断に迷うところがありました。投票に当たって、若者は、戸惑いや自信のなさをどのように乗り越えたのでしょうか。投票したことで、それなりの達成感は得られたでしょうか。一方、投票をしなかった約半数の人たちは、この結果をどのように受け止めているのでしょうか。
選挙の投票行動は、現実政治の有り様との対応関係において成立します。

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〔表〕は、同じくNHKの若者意識調査で、「今の日本の政治のあり方にどの程度満足しているか」を聞いた結果です。「大いに満足」はたったの1%で、これに「ある程度満足」の23%を加えても4分の1に達しない。これに対して、「まったく満足していない」の18%と「あまり満足していない」56%の合計は74%と大多数を占めています。投票経験を契機に、こうした政治へのネガティブ・イメージが、徐々に解消されていくことを期待したいと思います。
さて、若者の政治意識に関しては、ひとつの注目すべき傾向が存在します。政治への関心を抱くことが、政治へのネガティブなメンタリティの増大と表裏一体であるという傾向です。

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〔表〕は、埼玉大学社会調査研究センターとさいたま市選挙管理委員会が共同で実施した、さいたま市の市立高校4校の1~3年生925人を対象にした政治意識調査の結果です。「政党」への信頼度を聞くと、「わからない」比率が学年の上がるにつれて減少し、反対に増加するのは「信頼できる」ではなくて、「信頼できない」とする不信の方なのです。「政党不信」の比率は、1年生=47%、2年生=57%、3年生=66%と学年の上昇とともに顕著に増加していきます。
若者は、政治に対する認識や判断基準を持ち合わせる前段階で、すでに政治にマイナス・イメージを抱いています。現実の政治社会との関わりの薄い高校生だからこそ、いったん形成された政治への否定的な意識は、それを緩和させる機会のないまま先入観として定着してしまうのかもしれません。若者の内なる政治へのネガティブ・メンタリティが解消されることなしに、「一票のリアリティ」が活性化することはないように思われます。
一票の意義を強調する民主主義教育もさることながら、先ずは、「習うより慣れろ」で、選挙で投票することを当たり前の社会的マナーと実感するステージが不可欠です。

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ここで、〔表〕をご覧ください。NHKの全国調査における「家族と一緒に投票所に行ったことはあるか」に対して、「ある」が43%、「ない」は56%となっています。この結果と投票への志向性、つまり、「(投票に)行くか、行かないか」との関係を見ると、「ある」人たちの「行く」の割合が、「ない」人たちに比べ明らかに高くなっています。体験自体の比率がそれほど高くないのが気に掛かるものの、「親子で投票」の効果を示唆しています。
18歳選挙権にともない、高校をはじめとする学校現場では、アクティブ・ラーニングと総称される様々な主権者教育が展開されはじめました。継続は力なり、今後の進展が期待されるところです。ただ、模擬投票に代表される学校での「投票体験」の前に、子連れ投票による「投票所体験」が求められます。親の責任と家庭環境の影響は大きいのです。
先に見たように、18,19歳の若者には、知識や情報不足に加えて、有権者として投票することへの戸惑いや不安が存在していました。18歳選挙権の導入とは、大人の側に、高校生を同じ社会人として受け入れる準備と態勢を求めています。
昨今の深刻な問題は、その大人の投票率の低下にほかなりません。

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〔表〕は、過去2回の参院選における年齢別投票率を比較したものです。落ち込みの度合いは、若年層よりも60代をはじめとする実年世代が大きく、「選挙ばなれ」が全年代にわたっていることが分かります。今回のデータはまだ公表されていませんが、中高年層の低下傾向に歯止めが掛かったのかどうか、気になるところです。
選挙ばなれ社会の進行は、地方選挙においてはさらに深刻です。とりわけ、これまで高投票率を誇ってきた地域ほど、低落の度合いが大きく、「都市で低く、地方で高い」という日本社会の常識は、ここ10年足らずの間に大きく変容しています。投票率は、その推移という意味で、社会の無縁化の指標になった感があります。
ようやくにして実現した18歳選挙権も、それを受け入れ、支えるべきキャンパス全体が「選挙ばなれ」を引き起こしています。地域においては、これまで社会を支え続けてきた中高年の実年世代にエネルギー不足が生じています。さらに、高齢層における投票弱者のケアという社会的課題も加わります。
「下は上を見て育つ」の格言通り、若者は年長者を見習うのが世の常です。大人も行かない選挙に若者だけが行くはずはありません。政治と関わる姿を、若者に見せ続ける責任を果たすべく、大人社会の踏ん張りが期待されます。

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