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「消費増税再延期④~消費者の立場から~」(視点・論点)

主婦連合会会長 有田 芳子

安倍総理大臣は、今年6月、来年4月に予定していた消費税率の10%への引き上げを2年半再延期することを表明しました。
しかし、私ども主婦連合会は、おととし4月から消費税率を8%に上げたこと自体に反対し、再三増税をやめるよう求めてきました。

消費税は低所得者ほど負担率が高く、応分負担、つまり経済力に応じた負担を原則とする本来の税制に逆行する不公平なものです。
しかも、消費者の生活実態は、不安定雇用、若者の就職難、給料減額、格差拡大、公共料金の継続的値上げ、社会保障制度の未整備、高齢者世帯の生活困窮など、依然として見通しの明るいものとなっていません。
消費税をアップすれば、現在の一般消費者の家計状況から見て、消費は冷え込み、いっそう経済は低迷し、低所得者層の困窮を助長することは明らかです。また、価格転嫁が困難な中小下請け・零細企業に、より多くのしわ寄せがかかり、地域経済は落ち込み、コミュニティの荒廃をさらに進めることにもなりかねません。
政策判断が朝令暮改で二転三転し、社会保障改革などの道筋をはっきり示せない現状での消費税増税は納得できません。

消費税の税率が8%になった2014年4月以降に行なわれた内閣府世論調査の結果や、日本生活協同組合家計簿調査結果をみてみますと、消費税増税が消費や将来不安へ与える影響が見て取れます。

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まず、消費税が8%になった直後の内閣府世論調査(平成26年度6月) で「去年と比べた生活の向上感」についての質問では、「向上している」と答えた人が6.0%,「同じようなもの」と答えた人は73%,「低下している」という答えは21%となっています。 
これを、消費税が上がる前の前年度の調査と比較してみますと、「同じようなもの」と答えた人が5ポイントほど減少し、「低下している」と答えた人が上昇しています。男女別・年齢別でみてみますと、「同じようなもの」と答えた人の割合は男性は20歳代から40歳代で高くなっている一方で、「低下している」と答えた人の割合は男性、女性にかかわらず、60歳代,70歳以上と高齢層で高くなっています。

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また、所得・収入について「満足」と答えた人の割合が3ポイント減り、「不満」と答えた人の割合が5ポイント近く増えています。

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資産・貯蓄の面で「満足」と答えた人の割合も減り,「不満」の割合が6ポイント上昇しています。耐久消費財の面でも、食生活の面でも同様に、「満足」と答えた人の割合が減り,「不満」と答えた人の割合が増えているのです。

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生活は、これから先どうなっていくと思うかの問いには、「良くなっていく」が9%,「同じようなもの」が63%、「悪くなっていく」が27%で、前回の調査結果と比較すると、「悪くなっていく」が上昇しています。

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また、日本生活協同組合の2015年家計簿調査結果では、一世帯当たりの年間消費税額は平均256,267円で、消費税が8%に引き上げられた2014年より15,374円増加しています。消費支出に占める割合は5.76%、収入に占める割合も3.83%と増加しています。低所得世帯ほど負担率が高い「逆進性」は家計簿調査からも明らかで、年収に占める消費税負担の割合は年収400万円未満世帯は5.4%、1,000万円以上の世帯は3.1%となっています。

家計簿調査に協力した方からは、「いつも大体1,000円を目途に買っていたお店での買い物が、消費税が8%になった途端に1,500円近い金額が毎回出て行く。それにも慣れっ子になってきたけれど、これが10%になると思うと頭が痛い。貧富の差がどんどん大きくなっていきそうで、国の未来まで不安になってきます。」という声があります。
主婦連合会では、これまでも消費税増税に一貫して反対を表明してきました。消費税3%導入時には廃止を、5%への引き上げの時には増税反対の意見を政府に提出してきました。そして、消費税8%の閣議決定時点では、まずは増税反対、しかし今後20%近くまで段階的増税を考えているという話も出ていたことから、生活必需品の軽減税率導入を求めていく考えになりました。
この軽減税率については、専門家の間でも意見が分かれています。しかし、消費税増税で将来の不安が解消されない、今後、社会保障の充実が確実に約束されていない、一部の人を除いて真面目に働いても賃金が上がらない現状では、軽減税率導入はありがたい話です。ただ、消費税率10%になった場合に導入予定の軽減税率は、現在の消費税率8%に据え置かれるだけで決して軽減とは考えにくいのです。私どもの会員からも、軽減税率はせめて5%程度に、という声も聞かれます。

総収入のうちに占める「生活必需品にかかる費用」は、必然的に低所得者ほど高く、高所得者よりも負担率は高くなります。
政府は、低所得者向けに一時金を給付する対策をとっていましたが、一時金などを給付する対症療法では無く、北欧の様に学費や医療費が無料であれば、税率が高くなっても政府を信頼し将来不安も感じないですむでしょう。
また、フランスの消費税率は20%を超えていますが(21.2%)、食料品の軽減税率は5.5%です。フランスは、食料品以外にも医薬品や新聞、電気料金などにも軽減税率を適用しています。増税した時も反対の声は無かったと聞いています。
その理由の一つには、消費税の財源が手厚い社会保障に回されていて、医療や失業保険、老後の社会福祉などが充実しているからという事です。また、イギリスは、消費税率20%ですが、食料品の軽減税率は0~5%です。食料品の中で、課税対象から外され0%という物もあるようです。 
今後、消費税増税が10%から15%になり、最終的に20%近くになった時でも食料品軽減税率8%は据え置かれたままなのでしょうか。イギリスのように品目によっては0%とする、例えばお米は軽減税率0%などです。学校給食も0%と出来ないものでしょうか。面倒な議論は最初だけです。他の国が出来ている事が、なぜ日本で出来ないのか不思議です。
社会保障のような重要な支出財源を景気の変動に左右されにくい消費税によって賄うというのは一つの考え方かもしれません。しかし、家計に占める食料品支出の割合が高くなってしまう低所者の世帯も安心して暮らせる世の中にしてほしい。庶民は、景気回復感も持てずに、年金がいつまでもつか不安を抱え、貯蓄は目減りするという将来不安を抱えたままです。
消費税10%は先送りになりましたが、その先送りした期間のうちに、軽減税率の議論を改めて行なってほしいと思います。
 

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