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「熊本地震 現地調査で見えた課題」(視点・論点)

熊本大学 減災型社会システム実践研究教育センター長 松田 泰治

3ヶ月前、熊本県では、県中央部の日奈久断層と布田川断層を震源として、二度にわたる大きな地震が発生し、4月16日の本震ではマグニチュード7.3の地震により震度7を記録しました。その後も大きな余震が数多く観測されています。実は、熊本県では平成25年に策定した地域防災計画において、これらの断層が連動して動いた際の被害を予測し、市町村に対して地域防災計画の見直しを要請していました。
しかし、127年もの長い間、大きな地震が起きていなかった熊本地方を襲った今回の地震により、家屋やビルの倒壊をはじめ、高速道路や一般道、新幹線や在来線が寸断され、電力、ガス、水道などのライフラインも停止して、甚大な被害が発生しました。

熊本大学では震災直後から現地で被害調査を続けてきました。今日はその調査結果から、主に建物、道路や橋、などの構造物が受けた被害と、今後の課題についてお話したいと思います。
今回の地震では益城町の地表面で1000galを超える加速度が記録されました。阪神・淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震で観測された地震動に匹敵する強さです。この加速度は日常我々が感じている重力の加速度を上回っており構造物や人には自重より大きな力が水平方向に作用したことになります。
このような大きな力が構造物に作用したため一般の住宅やビルにも数多くの被害が生じています。特に益城町では二度の震度7の揺れを経験しました。

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4月14日の前震の揺れにより旧耐震基準により設計された老朽化した住宅が数多く被害を受けました。古いブロック塀なども数多く倒壊し、屋根瓦も飛散しました。

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新耐震基準により設計されたこの住宅は何とか前震の揺れには耐えました。
しかし、ご覧のように本震の激しい揺れには耐えきれず倒壊してしまいました。同様のケースが多く見られました。これは本震後の宇土市役所です。防災拠点であるべき市庁舎も被災し機能不全に陥りました。また,液状化の被害も至る所で発生しています。これは液状化で電柱が地面に沈んでしまう現象が起きた例です。
現在の耐震設計は、今回のような大きな地震が続けておこることは想定していません。
今後耐震設計の考え方をどうすればよいのかは大きな課題と言えます。
一般の住宅、ビルだけでなく高速道路の九州自動車道も高架橋が大きな被害を受けました。被害の大きかったエリアは九州自動車道の中でも最初に建設が行われたところで、旧耐震基準により設計されていました。しかし、兵庫県南部地震の被災経験を踏まえこれらの高架橋の橋脚に対しては断面を大きくするなどの耐震補強の工事が行われていました。そのため、阪神・淡路大震災のような橋脚の倒壊という最悪の事態は免がれました。

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一方で新たな問題点も顕在化しています。高速道路の上を跨いで架けられている跨道橋が落ちてしまう被害です。今回は本震の発生時刻が深夜だったため人命に関わる事故は起こっていませんが、もし混雑時に起きれば大惨事となる可能性があります。同様の形態の橋梁は全国各地に存在しており、今後の維持管理体制をしっかりと確立していくことが重要です。

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南阿蘇のエリアではトンネルを含む道路構造物が大きな被害を受けています。これまでトンネルは耐震性が相対的に高い構造物と考えられていました、しかし、今回の地震では活断層の変位に起因すると思われる力が作用して一部が崩落したり、ひび割れが生じたりしました。しかし、致命的な損傷ではなかったためすでに復旧工事が開始されています。また、トンネルに続く道路橋では橋を支える橋台の部分に同様の力が作用したと思われ、大きな被害が生じましたが、阪神・淡路大震災以降に新たに設置された落橋防止装置等の効果もあり、何とか落橋は免がれました。

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しかし、南阿蘇と熊本市内を結ぶ幹線ルートにある阿蘇大橋は、地震による大規模斜面崩壊により落橋してしまいました。地域にとって非常に重要な橋ですので、早期復旧に向けて、現在、下流側に架け替え位置が決定し、橋梁形式の検討が始まっています。

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調査した橋梁の一部では両側から大きな圧縮力を受けて壊れたと思われる被災例がありました。直線的な構造物と活断層が鋭角で交差している場合、活断層が右横ずれを起こして動くと、構造物の支点は、それに伴いお互い近づこうとし、大きな圧縮力が作用することになります。写真の俵山大橋ではちょうど橋の真ん中が屈曲しているのがわかります。現行の道路橋の耐震設計基準では、このような活断層に起因する地盤の変形により作用する力は考慮されていません。活断層近傍での構造物の設計に一石を投じる事例と考えられます。
現在、建物や橋などの構造物の設計をする場合、過去の地震発生頻度に基づき、地域ごとに定められた係数を使って耐震設計をしています。
しかし、近年,係数の小さな地域で大きな地震も発生しています。特に活断層による内陸直下型地震のように数千年単位の間隔で発生が予想されるものには、地域ごとの係数という考え方が対応していません。今後どうするのか、客観性と合理性の観点から、何らかの見直しが必要と考えます。
また、建築構造物や道路橋のような社会基盤施設には旧耐震設計基準で設計された構造物が数多く存在しています。そのような構造物の中には本来、防災拠点としての機能を期待されていたにも拘らず被災した庁舎や病院も含まれていました。
今後は、防災拠点となる公共の庁舎や病院といった建物は、一般的な建物より更に強く設計することが望まれます。
道路に関しては緊急輸送道路などのネットワークとしての機能が重要です。特に発災直後の救援ルートを確保するため、道路を通行可能な状態に戻す作業は最優先事項です。ネットワーク機能を早期に回復させることが容易になるよう、合理的に耐震補強を進めていくことが重要と考えられます。
今回の地震では阪神・淡路大震災以降の地震観測網の整備により膨大な地震観測データが得られました。また、衛星測位システムの活用や航空機を利用したレーザー測量技術の進歩により、地震後の地形の変化などを瞬時に知ることが可能になりました。これにより構造物の被災メカニズムの分析などは飛躍的に進むことが期待されます。
このような高度な技術を有効に活用するとともに、防災教育の充実により自助、共助、公助がうまく補い合える減災型の社会を実現することが、災害先進国である我が国の役割ではないでしょうか。各地方自治体では策定した地域防災計画がどこまで機能し、どこが機能しなかったのか、しっかりと検証作業を行い、それに基づき改善提案を行うことが減災型社会システムの構築へ向けての責務と考えます。
熊本はまだ復旧・復興への道のりを歩み始めたばかりです。これから安全・安心な熊本の再生へ向けて、被災経験の教訓を活かしながら、進んでいくことが必要と考えています。

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