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「地球外生命探査時代の幕開け」(視点・論点)

東京薬科大学教授 山岸 明彦

ごく最近まで、地球外生命などというと、全く空想上の存在でした。ところが昨年の秋、アメリカ航空宇宙局NASAが開催したシンポジウムで、数十年以内に地球外生命が発見されるのではないかと、NASAの高官が地球外生命発見の可能性に言及しました。ここで言う、地球外生命とは、宇宙人の様な発達した文明を持つ生物ではなく、ごくごく単純な微生物の事を意味しています。微生物であれば、地球以外にもいるのではないかというわけです。

いま、研究者達はその可能性を真剣に検討し初めています。私も現在、地球上空400kmを周回している国際宇宙ステーションで、生命の起源を探ろうとする宇宙実験、たんぽぽ計画を実施しています。この計画では、地球外生命ではありませんが、地球から脱出する地球微生物がいるかどうかを宇宙で探査しています。
本日は、近年急速に検討が進んでいる、地球外生命探査についてお話したいと思います。

地球外で生命がいる可能性のある場所としては、主に3カ所が考えられています。それらは火星、氷衛星、それに太陽系外の惑星です。それではこの3つについて、一つずつ説明していきましょう。
先ず、火星です。これまで火星には探査機が十台以上送られて、多くの情報が得られています。その結果、火星の環境はたいへん厳しく、高等な生物はとても生存できない環境であることがわかりました。
ところが、さらに研究がすすんで、微生物であれば火星で生存できるのではないかという可能性が高まっています。例えば火星の気温は大変低いのですが、夏の昼間には摂氏20度を超えます。つまり地球の微生物が増殖可能な温度になります。火星の大気は地球の1%以下と大変低いのですが、地球の微生物のなかには、火星の大気圧でも増殖できる種類が発見されています。火星は大変乾いた砂漠の様な環境ですが、氷は地下に大量に保存されています。

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この写真は、火星のクレーターの写真で中程少し下に沢山見える黒い筋は、春と夏に現れて秋になると消えてしまいます。この黒い筋は、地下の氷が溶けて流れ出た跡なのではないかと推定されています。

火星表面での放射線の強さも地球とそれほど変わらないので、微生物の増殖には全く問題ありません。
さらに、生物と関係があるかもしれない、メタンガスや有機物も極微量であれば火星表面に発見されました。つまり、火星表面には水も有機物もあって、温度や気圧、放射線の点からも、微生物の増殖可能な環境があるのではないかと考えられるようになりました。
火星で生命が誕生したかどうかも大きな問題です。この点でも、できて間も無い火星の北半球は、海に覆われていたことが分かって来ました。当時の火星には厚い大気があり、磁場があったことも分かって来ました。つまり、40億年前の火星は当時の地球と大変良く似た環境だったのです。したがって、もし地球で生命が誕生したのであれば、火星で生命が誕生してもおかしくないといえます。
こうしたことから、ヨーロッパやアメリカの宇宙探査機関では、過去の生命の痕跡を探る探査機を、ここ数年の内に火星に送る計画を進めています。日本ではまだこうした計画はありませんが、生命を探査する装置の開発が進んでいます。火星は地球に近く、探査も比較的容易で、地球に最も似た惑星です。その意味で、火星は最も重要な生命探査の対象と言えます。
次ぎに注目されているのが氷衛星と呼ばれる天体です。火星のさらに外側には木星と土星が回っています。この木星と土星は太陽から遠いために温度が大変低く、ガスの塊でできていて、ガス惑星と呼ばれています。ガス惑星に生命のいる可能性は低いのですが、木星と土星の回りには沢山の衛星が回っています。その中には氷で覆われた衛星があり、それらは氷衛星と呼ばれています。氷衛星の表面は氷で覆われていて、温度も大変低いのですが、いくつかの氷衛星の地下には海があることが分かってきました。氷の下に海があるという事は、衛星の内部から熱が出ていることを意味しています。
実際、土星の衛星の一つ、エンケラドスでは、摂氏90度以上の熱水が地下の海にわき出ていることも分かってきました。

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この写真は、エンケラドスから海水が宇宙空間に吹き出ている様子です。これはプルームと呼ばれていますが、プルームの中には有機物があることも分かってきました。
地球の海底には熱水が吹き出ている場所があって、海底熱水地帯と呼ばれています。海底熱水地帯には、沢山の微生物が生育していることも分かっています。そこで、氷衛星に海底熱水地帯があれば、そこに微生物が生育している可能性があるのではないか、そう考える研究者が増えています。
地球外生命の可能性がある三番目の場所として、太陽系外惑星があります。二十年ほど前まで、惑星といえば太陽系の惑星に限られていました。夜の空をみると沢山の星が見えますが、これらは太陽と同じ様に自分で光り輝く星です。これらの星にも、惑星があることが分かって来ました。今や、2000個もの惑星が太陽系以外に見つかっています。
太陽系外の惑星も、惑星それぞれの太陽の周りを回っています。太陽系外惑星の太陽を中心星と呼びます。中心星に近い距離を回る惑星は高温で、中心星から遠い距離を回る惑星は低温です。あまり高温の惑星では水は蒸発してしまいます。あまり低温の惑星では水は凍ってしまいます。中心星から丁度良い距離を回る惑星は、丁度良い温度となり、液体の水、つまり海をもつ可能性がでてきます。

こうした惑星は生命生存可能惑星、英語ではハビタブル惑星と呼ばれています。2000個の惑星の中には、ハビタブル惑星も複数見つかっています。ハビタブル惑星といっても、本当に海を持っているかどうかは分かりません。しかし沢山のハビタブル惑星の中には、実際に海を持つ惑星があるかもしれません。するとそこに生命が誕生する可能性もあるのでは無いかと、研究者達は考え始めています。
太陽系外の惑星は大変遠いところにあるので、直接探査機を送ることはできません。そこで、望遠鏡や電波望遠鏡による観測で、生命がいるかどうかを確認できないか。生命探査方法の研究が行われています。例えば、太陽系外の惑星の大気に、酸素が有るかどうかを調べる事ができないか。もし大気中に酸素が高濃度にあれば、そこでは地球の光合成反応の様な、反応が起きている可能性があります。あるいは、光合成をおこなう植物が、系外惑星に誕生したら、その植物の光合成色素を検出する事ができるのではないか、という検討も行なわれています。
火星と氷衛星、それに系外惑星。どこで最初に地球外生命が見つかるかは分かりません。もし見つかれば、それはおそらく人類の生命観を変える大変大きな発見となります。

いまや地球外生命が単なる空想だった時代はおわり、科学的な探査の対象となりつつあると言えます。今この時代は、その意味では地球外生命探査時代の幕開け、といっても良いかも知れません。

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