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「世代を越えた『花育』のススメ」(視点・論点)

公益財団法人 日本花の会 主任研究員 和田博幸

皆さんは花育という言葉をご存知ですか。
「○○育」という言葉で、馴染みのあるものとしては、ややお年を召されている方でしたら知育や徳育が連想されるでしょうか。最近では食育という言葉をテレビやラジオで時々耳にし、新聞や雑誌などでもその関連記事を目にします。インターネットで「○○育」を調べてみると、水育、木育、街育などという言葉もヒットします。

どれも次世代を担う子どもを対象にしている活動です。食育に触発されたのか「○○育」が流行っているようです。

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冒頭で、皆さんにお尋ねした花育に私は携わっています。その活動は幼稚園とこども園の園児を対象にしたもので、植物という生き物を扱う活動なので、園児たちを相手にうまくいくのかなぁと思ったり、活動の準備に大変なことも時にはあったりしますが、子どもたちの真剣に取り組む姿やうまくいった時の誇らしげな笑顔が見られるなど、想像していた以上に指導する側にも楽しいことが多く、その結果、私にも子どもたちの元気がもらえます。私が携わっている花育活動は、花栽培をしたことのない方も一緒に参加できる活動なので、皆さんもこのような花育活動を一緒にしてみませんか。
その活動を紹介する前に、先ずは花育について概略をお話します。
花育は平成19年に、農林水産省の事業として始まりました。子どもたちが主には小学校や幼稚園、保育園などで、花や緑に親しみ、それらを育てる機会を通して、子どもたちに優しさや花の美しさを感じる気持ちを育む活動のことを花育といいます。最近では中学校や高校でも活動するところが出てきています。それだけ花育の良さの認知度が上がったのかもしれません。小学校では授業でアサガオやヒマワリの種を鉢に播いて育て、花の咲く様子を観察したりします。それも花育活動なのではと疑問に思われる方がおられると思います。花の観察は広く捉えれば花育といえないでもありませんが、どちらかというと理科教育の課程であって、花は教材のひとつといったほうがいいでしょう。

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むしろ、校庭の一部を使ってクラスのみんなで、水やり当番を決めて花壇づくりをする学級花壇の方が、協力体制が整い、花育活動的といえます。実際の花育活動では、種まきした花で花束やフラワーアレンジにしたり、寄せ植えを作ったり、コサージュを作ったりする活動が多いようです。
農林水産省では花育の意義を次のように謳っています。お役所言葉ではなく、私なりに解釈している言葉で言います。三点あり、まずは、幼児や児童に、やさしさや美しさを感じる情操を育て、植物を育てる体験教育の機会とする。二つ目は、花や緑を介して世代間交流を進め、地域コミュニティを継続・発展させる。 三つ目は、季節にあった花を生活のいろいろな場面で楽しむ日本独自の文化を引き継ぐとし、全国各地における活発な花育活動を推奨しています。
それでは、私が携わっている花育活動を紹介しましょう。場所は石川県小松市です。

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ここはある企業が所有する一般に公開されている公園で、ここを舞台にして昨年から花育活動をしています。指導者は私と園芸療法の専門家の二人です。この公園全体の管理と運営は、この企業の定年退職者らで組織するNPO法人が行っていて、花育活動以外にも市内の子どもたちを対象にした様々な体験をともなう活動を展開しています。
このNPOの活動コンセプトは子どもたちの体験を通した健全育成です。花育活動も同様で市内の幼稚園とこども園、それぞれひと園ずつですが、年長の園児らにこの場所に来てもらい、花づくりを体験してもらいます。

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春にはマリーゴールドとキンレンカ、秋にはストックとキンセンカの種子を鉢に播きました。鉢に土を入れ、小さな指先で土の表面に小さな穴をいくつか開けて、そこに小さな種を播きます。大人が見ると実に可愛らしい光景です。その後は発芽した苗を鉢上げし、園に持ち帰って、花壇づくりやフラワーアレンジをします。
また、咲いた花をドライフラワーにして、それを使ってコサージュをつくり、さらに子どもたちが育てた花をプランターに植えて、市内の福祉センターや介護老人福祉施設に寄贈したりもしました。活動する都度、園児たちに花の名前を教えてあげますが、園児たちはその名前をみんな覚えてくれます。この年齢の園児たちの、新しいものに対する吸収力と記憶力の良さには驚かされます。
活動の度にNPOの花育チームのメンバーらが、園児たちの活動を見守りながら、時にはわずかに手を差し伸べる程度のサポートをしています。
自分の孫よりも幼い園児たちなので、花育チームのメンバーにしてみたら、全ての仕草が可愛くて仕方ないらしく、園児たちの自ら花と関われる体験が重要なのに、ついつい手を出し過ぎてしまうということもありました。
実はこの花育チームのメンバーらも、花づくりは初めての人ばかりだったのです。企業の工場にお勤めされていた方たちなので、花づくりの経験は、自宅の庭に購入した花苗を植えて育てた程度しかなく、種から育てたことがないのです。

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ですから園児たちの活動をお手伝いする前には、事前に花の種まきや鉢上げ、コサージュづくりを自ら体験して学びました。その様子はさながらシルバー花育とでもいいましょうか。ケシ粒ほどの小さな種まきは、老眼のメンバーにはかなり大変だったようです。
その甲斐あって、園児たちの花育活動は全てうまくいき、最後には園児から感謝の言葉や手紙、歌の披露などがありました。花育チームのメンバーらはこれらのもてなしに感激し、今までの苦労が報われて、むしろメンバーらの心の中に、花育を通して良い事をした思いが植え付けられました。
花育は、本来は花や緑を介して子どもの情操を育む活動です。それが子どもたちと一緒にシルバー世代の方々が活動したことで、シルバー世代の人の心の中にも楽しみや生きがい、社会参加の気持ちが芽生えることになりました。そして世代を越えた交流ができたことで、地域とのつながりを互いに深められたことでしょう。
花育は活動の仕方によってですが、子どもの心だけでなく、それに関わる周辺の人の心も育てることができる活動で、このような取り組みをこれからも広めていきたいと思います。

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