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「都知事辞任と都政のゆくえ」(視点・論点)

中央大学教授 佐々木 信夫

6月21日、東京都の舛添要一知事が辞任しました。高額な海外出張、公用車の公私混同使用、政治資金の流用疑惑など、この春から都政を混乱させた一連の問題に対する責任をとっての辞任でした。
これで、都知事の任期途中での辞任は、国政に転ずるため辞任した石原慎太郎氏、医療法人から5千万円を受け取った問題で辞任した猪瀬直樹氏、それに続く、3人目の辞任となります。
舛添氏の在職期間はわずか2年4ヶ月で、1年足らずで辞めた猪瀬氏に次いで、歴代都知事の中で2番目に短いものでした。
東京都ではここ4年足らずの間に、3人もの知事が辞任するという異常な事態にあり、これは戦後都政の歴史においても、日本の地方自治の歴史においても例がありません。
1300万人が暮らす首都東京の政治に、いったい何が起きているのか、考えてみたいと思います。

舛添氏は2年半前、211万票をえて都知事に就任しました。そのとき、会見で「東京を世界一の都市にする」とし、国際金融センター構想や水素社会の実現、介護・医療・待機児童問題などに積極的に取り組むと宣言しております。

都知事には政治家、経営者、外交官という3つの役割が求められます。選挙公約をしっかり実現する政治家の役割、予算13兆円、16万人の職員をリードする経営者としての役割、そして世界の主要都市との友好関係を築く外交官としての役割です。

こうした観点から見たとき、舛添都政はどう評価できるでしょうか。
舛添都政は、オリンピック都政ともいえる特徴を持っていました。都政運営の大きな柱にオリンピック開催を据え、その準備として熱心に海外に出かけました。さらに新国立競技場をはじめ会場施設の計画を抜本的に見直し、経費を2千億円削減するなど、スリムなオリンピック開催を目指した点などは評価されましょう。

一方、舛添氏が政治家として都民に公約した医療や福祉、介護、子育て支援に取り組む姿勢は残念ながら弱かったように思います。自分の感心が高い美術館には頻繁に通うが、介護施設や、保育所などには一度も出掛けなかった。これに対する都民の批判は強いものでした。
4年前まで、13年余りにわたった石原都政が、都市開発など経済優先の都市づくりを進め、行政改革の名で医療や福祉を削減するなど、都民に冷たい面がありました。
それを変えることが、厚生労働大臣を経験した舛添氏への期待でした。経済より生活者優先、少子化・高齢化対策、社会保障の充実に力を入れてくれるものと期待されました。事実、彼も選挙で「世界一の福祉都市東京づくり」を公約しています。しかし、公約倒れに終わった感を否めません。

経営者としてはどうか。舛添氏には巨大な都政という官僚機構を動かす存在感や実力は見られませんでした。就任1年目は安全運転と称し慎重な動きでしたが、2年目以降は「高速道路を時速100キロで走る」と言い出し、自己中心の都政運営が始まり、職員との溝も深まっていったようです。

リーダーシップは部下とのフォロアーシップがかみ合ってこそ発揮されます。しかし、舛添氏は次第にワンマンになり、「裸の王様」状態になっていった。そうした中で、浮上したのが公私混同疑惑でした。以後この3ヶ月余り、経営者としての機能は完全に停止してしまいました。

都民からの強い批判、マスコミの追及など業を煮やした都議会は、この6月議会の最終日に不信任案を全会一致で可決することを決めました。その直前に辞表を出した舛添氏ですが、追い込まれた状況での辞任でした。
しかし、舛添氏は都民に対しても、マスコミに対しても、都議会や職員に対しても、一連の疑惑に関する説明は行わず、説明責任を果たすことなく都政を去っていきました。都民、国民の都知事に対する不信、不満、疑問は今でも残されたままです。

ところで、都政において短期間で辞任せざるをえなかった舛添、猪瀬両氏に共通するのは「政治とカネ」の問題です。舛添氏の公金の公私混同、猪瀬氏の5000万円問題と、カネにまつわる疑惑の性質は異なりますが、共通して言えるのは首都の知事、大きな権力を持つ都知事という、公職のポストを著しく汚してしまったことです。

これに対する信頼回復をどうするのか、次の都知事と都議会の役割には大変重いものがあると思います。

今回の事態は、必ずしも13兆円という一国に相当する財政規模や、職員16万人の巨大官僚制にありがちな「内部統制の欠如」に直結する問題とは言えませんが、しかし、その巨大さがトップの「慢心」や「傲慢」な態度を生み、「都民から遊離した」都政運営につながっていったのではないでしょうか。
都知事が「雲の上の存在」のように見えてしまう、コミュニケーションの欠如、コントロールの不能という状況が、こうしたトップの不祥事につながっているとするなら、この先、都政の大胆な刷新が必要となります。
「大きすぎる都政のあり方」に、財政面からも行政面から組織面からもメスを入れなければなりません。

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これから都政は、解決すべき課題が山ずみです。
1つは、公金の使い方を総点検するなど、信頼回復に向けた都政の刷新、スリム化が不可欠です。
第2に、4年後に迫った東京五輪・パラリンピックの準備を加速化することです。
第3に、少子化、高齢化対策にもっと本腰を入れて取り組むことです。
第4に、広がる格差、貧困、そして雇用問題の解決に積極的に取り組むことです。
また第5に、道路、橋、上下水道など古くなった都市インフラの更新にも優先的な取り組みが必要です。
そして、第6に、いつ襲われるかわからない、首都直下型地震など防災対策にも大きな投資が必要となります。
ただ、これらの課題解決には膨大な予算が必要です。都財政は13兆円もあり、「自主財源」が多く豊かであると報じられますが、実際には景気動向、企業収益に左右される法人2税の依存割合が高く、不安定なものです。景気が後退すると、1年間で1兆円も税金が減るという事態を過去何度も経験しています。
しっかりした財政計画のもとに、無駄のない、財政規律の保たれた都財政の運営が求められます。

7月31日には、都知事選挙が行われます。50億円もの巨額を投じて行われる都知事選挙ですが、ややもすると、都知事の資質や能力を問うより、人気や知名度が先行しがちな、人気投票のよう都知事選挙が行われがちです。しかし、もう私たちはこれには凝りました。
カネに対するクリーンさはもとより、最小のコストで最大の成果を上げる、強い改革力、優れた経営能力を持った人を新しい都知事に選びたいものです。

今回から、18歳、19歳の若者も都知事選挙に参加します。お年寄りの意見が多く出がちなシルバーデモクラシーではなく、未来志向の若者たち、働き盛りの人たち、そして女性ら生活者の意見が強く反映された、新しいスタイルの都政の誕生するよう望みたいものです。

禍い転じて福となす。今回の都知事選挙が政治不信を解消し、首都東京が世界に羽ばたき、日本をリードしていく転機となるよう、期待したいものです。

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