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「三菱自動車は再建できるのか」(視点・論点)

自動車評論家 国沢 光宏

三菱自動車の燃費不正発覚から40日が経過しました。当初、どういった不正を行っていたのかすら解らない状況でしたが、ここにきて内容が判明し、今後についての動きも具体的になっています。改めて不正の詳細と背景、三菱自動車の今後を考えてみたいと思います。

 まず 不正の詳細からみていきましょう。カタログなどに掲載される『JC08』モードと呼ばれる燃費は『シャシダイナモ』という屋内の試験装置を使い、車両を固定。車輪でローラーを回して計測します。その際、基本として車重分の負荷を掛けます。シャシダイナモは車両を固定して計測しますから、空気抵抗による差が出ません。空気抵抗の低いスポーツカーも、空気抵抗が悪そうな背の高いミニバンも同じになってしまいます。
 御存知の通り陸上競技の100m走などは、追い風だと良い記録が出るため公認記録にならない規則です。自動車も同じで風の抵抗を減らすことにより、燃費はハッキリ良くなります。そこで車体の形状まで考慮した正確な燃費を出すため、空気抵抗やタイヤの転がり抵抗など含む「走行抵抗」を別個に計り、シャシダイナモの負荷に上乗せします。
 今回三菱自動車が行ったのは、上乗せされる走行抵抗を実際より少なく申請し、結果的にJC08燃費を良く見せるという不正です。本来なら公認されない強い追い風で出た100m走のタイムを正式記録として提出したことと同じだと思えば解りやすいと思います。
 なぜ三菱自動車は不正を行ったのでしょうか? 今回不正を行った車種の開発を行っていた当時、軽自動車業界は激しい燃費競争が行われていました。記者会見によると、企画段階で26,4km/Lだった目標燃費は、ライバル車の燃費情報が入ってくる度に上方修正され最終的に5回も引き上げられ29,2km/Lになったといいます。取材してみると、3回目の引き上げくらいから目標達成は難しいと感じた関係者が多かったようです。
 本来ならこの時点で目標達成が難しいという状況を企業として共有すべきでした。実際、ライバルメーカーの中には同じ時期に燃費競争で勝てないという判断を下し、燃費以外の魅力を訴求する方向を選んでいるところもあります。三菱自動車の開発チームは不可能な開発目標に対し意見具申することも出来ず、不正という自動車メーカーが絶対行ってはいけない選択をしました。
 不正を行った理由として、三菱自動車は「社内の強いプレッシャーが存在した」とコメントしています。御存知の通り三菱自動車は過去に2回もリコール隠しを行い、処罰を受けています。当時の状況を調べてみると、今回と同じく社内の強いプレッシャーを原因としており、残念ながら過去の教訓は活かされていませんでした。見えてくるのは、データを偽装して開発が順調なように見せかけることに代表される「都合の悪い情報を隠す」という企業体質です。
  三菱自動車は、軽自動車の燃費不正の他、販売している大半の車種で、国交省が定めた方法を守らず走行抵抗を申告したことも発覚しています。こちらは燃費不正でなく、開発工程のコストダウンをするためでした。燃費そのものの数字こそ変わらないということですが、やはり「規定を守らない」という行為は紳士協定を破る大きな失態です。
 三菱自動車の不正を受け、多くのメディアは「走行抵抗を自己申告するのはおかしいのではないか?」と、国交省の監督責任を追求しています。意見を受け、国交省は全ての自動車メーカーに対し、不正や法令違反があれば5月18日までに報告するように通達しました。するとスズキも法令違反を申告し大きな騒ぎになります。
 スズキの法令違反は軽自動車を除く三菱自動車の車種と同じくコストダウンのためでした。自動車業界の名誉のために付け加えておくと、不正や法令違反を行っていたのは三菱自動車とスズキだけで、他のメーカーは手順に沿った燃費計測を行っていました。
 参考までに紹介しておくと、世界的に見れば国の機関によって燃費を計測しているケースはありません。現実問題として国の機関が正確な燃費を計ろうとしたら膨大な手間が掛かるなど難しいと考えます。燃費計測方法については「国交省がより厳しい監視をしていく」という方向で決着すると思います。
 さて。三菱自動車は今後どうなっていくでしょう。すでに日産が2370億円を出し三菱自動車の株式の34%を得るということになり、6月下旬に開催される三菱自動車の定期株主総会で車両開発を担当する副社長を送り込むことを発表しています。
 多くのメディアは三菱自動車を傘下に置くことでトヨタ、VW、GMと同等の1000万台規模のグループにすることがゴーン社長の狙いだと報じています。私も気になったので三菱自動車への出資を決めた直後に日産ゴーン社長へのインタビューをしました。
 意外なことに三菱自動車を積極的コントロールするつもりはなく、当面サポートに注力するとのことです。考えてみればゴーン社長は十分過ぎる成功を収めている上、世界規模で見れば好調な業績の日産が火中の栗を拾いに行く理由も見当たりません。話を聞いていると、厳しい状況になった企業を立て直すことがゴーン社長のライフワークのようにも感じました。もちろんビジネスマンとしての判断もあるでしょう
三菱自動車は世界トップクラスの電気自動車技術を持っている上、かつて国際ラリーやパリダカで素晴らしい成績を収め、ヨーロッパや中東やアジアで抜群の知名度があります。直近の収益の大半は海外という状況を見ても、信頼性を取り戻すことが出来れば、日本の大切な財産になります。
 興味深いことに三菱自動車の不正問題は日産の登場によって解決したと思っている人も多いようですが、そう簡単ではないと考えます。軽自動車の生産拠点になっている水島工場の操業再開時期が全く解らないだけでなく、当面続く販売低迷により自動車販売ディーラー収益も大きく落ち込みます。燃費不正の対象となった軽自動車ユーザーに対する補償も必要になるでしょう。
 何より燃費不正問題を解決しなければなりません。現在三菱自動車は4千億円の手元資金を持っていますが、今回の不正問題の処理だけで使い切ってしまいそうです。
 加えてゴーン社長が立て直した時の日産は単なる業績不振でした。三菱自動車の場合、過去2回のリコール隠しによるブランドイメージの失墜もあります。過去のリコール隠しの後、徹底的な社内改革を行ったと説明されましたが、今回の燃費計測に於ける法令違反は1991年から行われていました。2回のリコール隠しは2000年と2004年なので「徹底的な社内改革」をくぐり抜けていたことになります。
 三菱自動車というブランドを残したいなら、今回が最後のチャンスでしょう。自動車メーカーにとって最も大切なのは社内事情や出世競争ではなくユーザーです。まずユーザーを向いた経営姿勢を徹底することが大事です。そして今度こそ企業風土の改革に全力を挙げてとりくまなければなりません。
三菱自動車が再建出来るかどうか、ここからが正念場だと考えます。

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