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「土砂災害への備えを」(視点・論点)

砂防・地すべり技術センター 専務理事 大野 宏之
 
熊本地震では熊本県や大分県で多くの土砂災害が発生しています。これから雨の季節に向けてさらに災害が発生し、犠牲者が出るのではないかと心配されます。今日は、最近の土砂災害の傾向をみながら、防災対策を考えたいと思います。

近年、我が国では多くの土砂災害被害が発生しています。過去5年を振り返ってみましても平成23年には台風12号で紀伊半島に大雨が降り、地中の深い層から山が崩れる大規模な土砂の崩壊がありました。また、平成24年には九州北部豪雨が発生し、阿蘇山周辺などで多くの土石流やがけ崩れが発生しました。さらに、平成25年には伊豆大島で広い範囲で山が崩れ土石流が発生しておりますし、平成26年には広島市の安佐南区、安佐北区の住宅密集地を土石流が襲い、多くの人命と財産が失われました。そして、今年は熊本での震度7の地震により阿蘇山などで山や斜面が崩れ大きな被害が発生しています。
土砂災害は一般に3つの種類に分類されています。土石流、がけ崩れ、地すべりです。
 
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土石流はその文字通り、水分を含んだ土石が流動化して低い方へ流れていきます。がけ崩れは斜面などが崩壊し土砂がそのまま人家などに衝突し家などの構造物を破壊します。地すべりは地中のすべり面という弱い面に沿って大地がそのまま滑る現象です。
土砂災害は人命に関わる恐ろしい災害です。どうしてこのような土砂災害が頻繁に起こるのでしょうか。ここ10年の平均をとりますと、日本全体では年間1000件を超える土砂災害が発生しております。

土砂災害が起こる原因は3つです。大雨と地震、そして火山活動という自然現象です。もともと断層が多く有り、地質が脆弱で、活火山も数多く存在する我が国は土砂災害の起こりやすい場所に多くの人が住んでいます。
国土交通省や都道府県の調査によりますと土砂災害の危険性のある箇所の数は全国で65万箇所以上も存在しています。雨が多く降りますと、山や急な斜面が崩れ、土砂がそのまま人家に衝突し被害を生じさせたり、水を含み土石流となって生活の場を押し流したりします。速度を持った土砂の塊は大きなエネルギーを持ち、容易に人家を破壊し、人の生命を奪います。また、地震によっても土砂災害は発生します。山や斜面が揺れることで地盤の液状化と言われる現象も起こります。地震の震動で地盤が緩んで崩れやすくなるのです。平成7年の阪神・淡路大震災でも地震の震動で多くの斜面が崩壊しました。そして、その後の雨で緩んだ斜面がさらに多く崩れたのです。

震度7の地震が発生した熊本県の災害の状況を見ますと、火山灰の積もった阿蘇山周辺など数多くの箇所で斜面の崩壊や地すべり、土石流が発生しています。
 
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阿蘇大橋付近では大規模な斜面崩壊が発生しました。また傾斜のゆるい斜面でも崩壊や地すべりが発生するなど火山地域ならではの土砂移動現象が起こっています。また、揺れの激しかった場所では極めて多くの亀裂が地表面に発生しており、今後、雨が降るとこれらの亀裂に雨が染み込みやすく容易に土砂が崩れたり滑って移動することがあるのです。

国土交通省では災害直後から土砂災害緊急点検を1155箇所で実施し、危険度の分類を行ないました。その結果、応急的な対策が必要な危険度Aの箇所は54箇所、当面は巡視等の警戒強化が必要な危険度Bの箇所は77箇所となっています。また、今まで危なくなかった地域でも地盤が緩み、土砂災害の危険性が増えていると考えられますので注意が必要です。

ではこの土砂災害からどのように身を守れば良いのでしょうか。ポイントは3つです。
1点目は、自分の住んでいる場所がこの土石流、がけ崩れ、地すべりの3種類の災害のどの現象によって危ないのかという事を知る事が重要です。現在都道府県では「土砂災害防止法」という法律に基づいて土砂災害の危険な箇所を調査し、土砂災害警戒区域、土砂災害特別警戒区域として分類し、その箇所と範囲をホームページなどでハザードマップとして公表しております。
 
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まずはこの危険な箇所の情報を自ら見て、自分の住まいや普段いる場所が危険な範囲に入っているのかどうかを知っておくことが大事です。
2点目は、いつこの土砂災害が起こりやすいかということを知ることです。これは専門家でもなかなか難しいことです。土砂災害の前兆現象もあるのですが、この前兆現象を見に行くことはきわめて危険ですのでおすすめできません。現場を見に行くよりも、テレビ、ラジオやインターネットなどで天気予報を聞いて情報を集める方が効果的です。いつ危なくなるかということについては気象台や都道府県が発表する「土砂災害警戒情報」が大事な情報です。住んでいる場所によっては携帯電話のエリアメールで情報が入手できます。いつ土砂災害が起こるか、現時点ではこの「土砂災害警戒情報」を基準に考えるのが一番良いと思います。

危ない箇所とその原因、そして土砂災害が起こるタイミングがわかれば後は避難行動を的確に行えば人命は守られます。これが3点目です。土砂災害が多い日本ですが、このレベルまで警戒避難の技術が進んできているのです。行政は「土砂災害警戒情報」が出た場合などためらうことなく避難勧告、避難指示を出し、住民はそれに従うのは基本です。土砂災害による危険な範囲に住まわれている方はこの情報が出た時に避難すれば土砂災害から身を守ることができます。この避難がスムーズに行われるためには、普段から避難場所や避難経路をしっかり把握する必要があります。大雨の時に避難するのは決してたやすくありません。普段からその訓練をしっかりしているのとしていないのでは当然その行動に大きな差が生じます。是非日頃からしっかりと避難行動をとれるような訓練をすべきです。特に老人や子供、ハンディキャップがある人々に避難してもらうためには平常時の準備が必要なのは言うまでもありません。また、市町村はこの「土砂災害警戒情報」を活用して、早めの避難勧告、避難指示を出す努力をしなくてはなりません。
熊本県や大分県の被災地などでも、雨が降ったら揺れの激しかった地域の山や斜面には近づかず、気象台や都道府県が発表する「土砂災害警戒情報」や市町村の避難指示などに留意し、出来るだけ早めに避難する事が人命を守る上で何よりも大事なことです。
近年、地球温暖化の影響と言われていますが、雨がますます激しく強くなる傾向にあります。また、地震活動も東日本大震災以来あちこちで活発な状況となっています。さらに火山活動も数多く起こっております。これらを考えますと、残念なことに日本では土砂災害がますます起こりやすい環境になっていると言わざるを得ません。
6月は土砂災害防止月間です。また梅雨の季節に入りました。行政はもちろんのこと、地域の防災組織、住民が一体となって対応しなければ土砂災害を防ぐことは困難です。
土砂災害が数多く発生する我が国では、皆の努力で防災対策を強化し、土砂災害による被害を最小限にしていかねばなりません。

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