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「世界経済のリスクと伊勢志摩サミット」(視点・論点)

公益財団法人国際金融情報センター理事長 加藤 隆俊

 ここに一枚の写真があります。これは前回日本が当時の福田康夫議長の下でサミット議長国を北海道洞爺湖で務めた時のものであります。開催時期は2008年7月であります。

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そうです。2008年9月のリーマン・ブラザーズの破綻をきっかけとする全世界的な大リセッションの直前の時期に開催されたものであります。
2007年の世界経済の成長率は5.7%。世界経済はG7を中核とする先進国中心に廻っておりました。ポスト・リーマンショックの世界経済は前回日本がサミットの議長を務めた前提と全く違った世界にあります。
 
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第1には、世界経済のエンジンは新興国・途上国側に移りました。
即ち、2000から2007年に関しては、世界の経済成長への寄与度で見ると、先進国の寄与度が60.5%でした。これに対してリーマン・ショック後の2008年から2015年では、世界の経済成長への寄与度は新興国が91.5%を占めております。
第2には、中国経済の減速、一次産品ブームの終焉を反映して、世界経済の成長スピードも格段に減速してきています。
こうした課題に取り組むため2008年11月には第一回のG20サミットが始まりました。
 このような世界経済の現在の姿を前提としてG7サミットはどのような役割をはたすべきなのでしょうか。
私は次の二点を挙げたいと考えます。
第1には、世界経済成長の失速が懸念される中でしっかりとした景気回復への足どりをG7全体として示すことによって世界への安心感を与えることであります。第2には、世界が取り組むべき「ホット」な課題に対し、G7が処方箋の青写真を示すことであります。
 先ず第1の世界経済に元気を与えるG7の役割について見ていきたいと思います。
 
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図が示すように、世界経済に占めるウェイトからすればG7を中核とする先進国が新興国及び途上国を上廻っております。
それではG7各国毎の経済状況はどうでしょうか。実は日本が一番心配な状況にあります。
 
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日本の成長率は他の先進主要国に比べかなり見劣りがしております。これは表が示すところであります。他のG7主要国のうち米国については、このところ潜在成長率を上廻る成長軌道を辿り、これを反映して雇用も完全雇用に近い状態にまで回復しております。足許の指標はやや弱含んではおりますが、米国の金融政策当局は政策金利の引上げのペースはデータ次第で柔軟に対応する姿勢をつとに明らかにしております。
欧州に関しては、先般発表された本年第1四半期の成長率速報は年率2%を上廻る成長と市場の期待以上の成長率となりました。私は先々週欧州に出張しました。その際の欧州側の面談先は、6月23日のEUからの離脱の是非をめぐる英国の国民投票
、或はシリア等からの欧州への難民の取扱い等の政治問題に専ら関心が集中している印象でありました。その背景には、昨年のユーロ圏の成長率年1.6%、本年もこれと同程度の成長が見込まれ、12%台であったユーロ圏の失業率も10%に近いところまで逐次低下してきているという、なだらかな景気回復が背景にあると思われました。
BREXITと呼ばれるEU離脱をめぐる国民投票で国論が割れている英国も、経済成長率そのものに関しては2013年以来、年2%を上廻る成長を続けております。
 このように見て参りますと、表が示すようにG7全体として世界に安心材料を提供するために、一番奮起すべきなのは実は日本経済に他なりません。日本経済に関しては、本年3月の有効求人倍率は1.3に達しました。即ち、求職者1人に対し1.3倍の職のオファーがあるという人手不足の状態にあります。このような経済環境の下で日本経済のカサ上げを図る為には、設備投資を刺激し労働者一人当りの生産性を引上げること、及び働き手の数を補うことの双方が必要であります。こうした目標を政策的にバックアップするためには、例えば設備投資や研究開発に対する税制面からの支援、或いは海外からの研修生受け入れに対する財政補助などが考えられます。
 なお為替問題に関しては、本年に入ってからの急激な円高は過度の変動であり、従って日本経済に悪影響を及ぼすと考える日本と、為替の動きは秩序的と理解する米国の立場の相違がみられます。今回のG7では、為替に関する突っ込んだ議論はなく、従前のG20、G7の為替に関する議論を再確認するにとどまるのでは、と私はみております。
 G7サミットが経済分野で果す第2の役割はホットな全世界的な課題に対処する青写真を描くことであります。私は本分野に関し、課税逃れの捕捉の為の行動計画及び感染症対策の二つの問題を取り上げてみたいと思います。
先般公表されたいわゆる「パナマ文書」によればタックスヘイブンの利用者は全世界的な拡がりを見せています。タックスヘイブンで設立された法人には、合理的な企業活動に基づくもの、本国で納税すべき所得を低税負地に付け替るためのもの、或いは違法に稼得された所得を秘匿するためのもの等種々のものが混在していることでしょう。要は設立された法人に関する情報がタックスヘイブンも含む関係税務当局間で情報交換される仕組みを構築することであります。そうすれば、関心ある税務当局は税逃れの疑われる事案を追求することが出来る、そうした仕組みを持っている、それだけで相当な抑制効果があると思います。本年の伊勢・志摩サミットでは是非、税逃れの補捉に向けてのいわば行動計画のイニシアティブをG7として取ってほしいと考えます。
 伊勢・志摩サミットにおける国際公共財的なもう一つの取り組みとして感染症対策を挙げたいと思います。経済活動のグローバル化に地球の温暖化も加わり、エボラ熱、MERSコロナウィルス、最近話題のジカ熱など熱帯地域を淵源とする感染症の地球的な拡散のリスクへの懸念が高まっております。8月のリオ・オリンピックに関しては、ジカ熱感染のリスクへの懸念から女子代表選手の参加は本人の選択に委ねることとしている国もあるやに報道されております。感染者の全世界的な拡散が懸念される感染症に対し、早く病原をつきとめ、早期にワクチンを開発する為の枠組作りが求められます。
今回の伊勢・志摩サミットにおいて世界的に関心の集まっている感染症対策に関し前向きなメッセージが発出されることを期待します。
 私が出席したフランクフルトでの本年のADBアジア開発銀行の総会でメルケル首相は、「持続可能な成長」を開発問題との関連で、又明年のG20議長国としてのテーマとして語り、参加者に強い印象を残しました。日本は来年横浜で記念すべきADB第50回総会の主催国を務めます。
国際的にも注目を集めるビッグ・イベントが連続する機会に国際的にも知れ渡った「アベノミクス」のいわば2.0版、新版を発表し「日本ここにあり」を強く印象づけることが何よりも日本に期待されているものと考えます。

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