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「伊勢志摩サミット テロへの警戒」(視点・論点)

日本大学教授 安部川 元伸

G7伊勢志摩サミットは、5月26,27日の両日、三重県志摩市の賢島で開催されます。日本がサミットの主催国になったのは、1979年の東京サミットから数えて今回が6回目になります。過去の我が国主催のサミットでは、過激派等による妨害行為が数件見られましたが、概ね無事に開催されています。しかし、米国同時多発テロ以降、サミットに対する国際テロ集団によるテロの脅威が増大していますし、反グローバリズムを標榜する諸組織による大規模デモや暴動も数多く発生し、サミットをめぐる治安環境が深刻化していることも事実です。さらに、サミットの妨害を狙ったサイバー攻撃も懸念されており、首脳会議、及び各種閣僚会議への治安上の脅威が高まっていると言えます。

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首脳会議が開催される賢島は、英虞湾に浮かぶ面積68万㎡程度の小島ですが、英虞湾は真珠の養殖で有名で、賢島の周辺にも真珠を育てるアコヤ貝用の筏が海面の多くの部分を覆っています。
 
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また、漁船や遊覧船も湾内を頻繁に行き来しているので、海の警備を担当する海上保安庁の巡視船が縦横無尽に活動するにはやや困難が伴うと考えられます。過去、国際テロリストが海上テロを実行した例は決して多くはありませんが、会場が四方を海で囲まれている以上、海上からのテロへの警戒も緩めるわけにはいきません。
しかし、日本での厳しい武器規制、出入国管理の厳格性を考えれば、テロリストがサミット会場の周辺海域でテロを行うことは不可能に近いとも思われます。特に、7か国の首脳が集まる本会議場周辺では、トップレベルの警戒態勢が敷かれますので、これを突破してテロを成功させることも極めて困難であると考えられます。しかし、同首脳会議がいかに厳重な警備に守られた“ハードターゲット”であるにしても、危険性はゼロではありません。
ここで、国際テロリスト集団や国内の過激派諸組織が伊勢志摩サミットや閣僚会議等を狙うとしたら、その手口はどのようなものになるか、いくつかシナリオを挙げて考えてみましょう。
まず、テロリストが日本への侵入に成功した場合です。
「イスラム過激派組織・IS」やアルカイダは、日本を米国や欧州と同様、十字軍の一員と見なし、日本に対する攻撃に手心を加えないと主張しています。しかし、サミットの首脳会議そのものを攻撃するとしたら、テロリストは相当な困難を克服しなければならないでしょう。例えば、テロに必要な銃や爆弾等の武器を持ち込むことが可能かということや、テロリストが入国を果たした後に、彼らを支援し、匿う者たちが我が国に存在するかという問題です。その双方とも決して容易なことではありません。しかし、犯罪歴もなく、国際機関のリストにも載っていないテロリストであれば、ビジネスマンや旅行者を装って入国することは可能でしょう。武器や不審な荷物を携帯していなければ、彼らを水際でストップすることは極めて困難なことなのです。もし、彼らが日本への侵入に成功し、テロを計画したとしても、武器を自前で製造し、あるいは、危険を冒してまで武器を調達しなければならないのであれば、パリやブリュッセルで起きたような大量殺りく型のテロをこの地で実行することはさらに困難になるでしょう。
ここで一つ問題提起したいと思います。昨年11月のパリでのテロと、本年3月のブリュッセルでのテロで使用された爆弾は、TATP(過酸化アセトン)という、どこにでもある材料を使って製造できる強力な爆弾でした。実際、両テロ事件の容疑者が自分たちでこれを製造し、自ら爆発させたことがわかっています。テロリストは、水際対策の厳しい先進国を標的にする場合には、疑われないように手ぶらで入国し、その後に必要な物資を現地で買いそろえて爆弾を造るよう奨励しています。その爆弾の作り方を、テロリストのウェブ・マガジンで詳述しているのです。爆弾の知識を持たない素人でも、材料さえそろえば容易に製造できてしまいます。このような脅威に対抗するためには、爆弾の材料となる物資の管理をしっかりと行い、もし不審な形での調達行為を見かけたら、即座に警察に通報することが大事です。これには、民間の協力が何よりも重要であって、市民も、常に危機に対応できるように警戒心を張り巡らす必要があると思います。
次に、攻撃対象が警備しにくいソフトターゲットへシフトしているとい点です。テロリストは、実際にテロを起こさなくても、相手に恐怖心を抱かせ、不安に陥れるだけで目的の半分以上は達せられたと考えるでしょう。それで自分たちの面子を保つことができれば、攻撃の矛先をサミット以外のソフトターゲットにシフトする可能性があります。2005年のサミット開催中に、ロンドンでテロを起こしたテロリストたちは、事件直後、ホスト役のブレア首相を急遽ロンドンに引き返させ、サミットの妨害に成功しました。その意味では、伊勢志摩サミットで最も警戒しなければならないことは、サミット本会議や閣僚会議よりも、大都市での一般市民を狙った無差別テロということになるでしょう。なお、ここで言う「ソフトターゲット」には、日本の在外公館や国外の権益も含まれます。むしろ、テロ攻撃を受ける確率が高いのは、テロリストの本拠地と陸続きで、しかも彼らにとってテロ攻撃のインフラが完備している国や地域の攻撃対象と考えられます。日本の国土で攻撃を行う困難さを実感しているISほかのテロリストは、自組織のウェブ・マガジンで、欧州又はアジアの我が国外交使節を狙う可能性を示唆しています。
国内の過激派や反グローバリズム諸組織の妨害行為については、まず、日本がホスト国になった過去のサミットが、過激派のゲリラ攻撃に遭った事例が複数件報告されています。1986年の東京サミットでは、中核派が各国首脳の宿泊する迎賓館に向け、金属弾を発射するという事件が起きました。過激派は、今回も“サミットの爆砕”を主張しているので、警備の隙を突いたテロ・ゲリラ事件に注意する必要があります。
さらに、反グローバリズムを標榜する諸組織は、近年では、特に、サミット会場周辺や付近の大都市で数万人規模のデモを組織し、その際、デモ隊の一部が暴徒化して破壊行為や放火等を行い、警察部隊と衝突するなどの危険な事案が目立っています。したがって、関係機関は事前に情報を収集し、危険な活動家の入国を阻止しなくてはなりません。
テロを始めとする脅威に対抗するには、膨大なエネルギーと費用が必要です。しかし、サミットのホスト国として、このハードルはどうしても乗り越えなくてはなりません。テロとの戦いは今後も長期にわたって続くと思われますが、これからは、テロリストにつけ込む隙を与えず、国民各個が危機管理のノウハウを十分に身につけ、自分の安全は自分で守るとの強い意識を持つことが何よりも大切です。

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