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「世界人道サミットと日本の役割」(視点・論点)

国連人道問題調整事務所 神戸事務所長 渡部 正樹

今月、伊勢志摩でG7サミットが開かれ、日本がその議長国を務めます。一方、その直前にあたる5月23日と24日、もう一つのサミットがトルコのイスタンブールで開かれます。世界人道サミットです。今日はこの世界人道サミットが開催されるに至った背景とその目的、そして日本が果たすべき役割についてお話したいと思います。

今、紛争や自然災害、食糧不足といった人道危機が世界各地で相次いでいます。人道危機はヨーロッパに押し寄せる難民・移民の問題だけではありません。

それは、もちろん深刻な事態ではありますが、私たちが解決すべき問題の一つの側面でしかないのです。

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シリアであればレバノンやヨルダンといったその周辺国で暮らす難民の他、シリア国内で過酷な生活を送っている国内避難民ももっと大勢います。

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また同じ中東でもイラクやイエメン、
さらに世界を見渡せば、アフリカの南スーダンやコンゴ民主共和国、アフガニスタン、ウクライナといった国々の状況も引き続き深刻です。
加えて先月には南米エクアドルで大きな地震も発生しました。そして昨年大地震を経験したネパールは、未だ長い復興の途上にあります。

紛争や災害時の国際支援活動には、その国の政府はもちろんのこと、様々な国連機関や赤十字、市民組織、民間企業等も携わっています。こうした多くの機関や組織を取りまとめ、支援の重複やギャップが生じないよう調整活動を行い、一人でも多くの人命を救うため現場でリーダーシップを発揮する。
それが国連人道問題調整事務所(OCHA:オチャ)に与えられた役割です。こうした観点から、今回の世界人道サミットの事務局も私たちが担っています。

現在、世界中で1億2,500万人という、日本の総人口にほぼ匹敵する人々が、食糧や医療サービス、避難時の仮設住居、あるいは安全な飲み水といった緊急の支援を必要としています。また6,000万人もの人びとが、紛争や暴力のため住み慣れた土地を追われ、避難生活を余儀なくされています。その数は第二次世界大戦後最悪の水準に達すると言われ、実にその半数が子供たちです。

世界中で人道支援を必要としている人びとの数はこの10年間で約2倍に増え、またそうした支援に必要とされる金額は6倍にも膨れ上がっています。原因は、災害や戦争がより大規模で複雑なものとなり、またこれらがもたらした危機的状況が長期化していることにあります。そして、気候変動や異常気象、人口増加、都市化、さらにはテロや治安の悪化などがその背景にあります。私たちは今年、国際社会に対して総額約200億ドル、日本円にして約2.2兆円の資金拠出を求めています。しかしほぼ同額を求めていた昨年度、そのおよそ半分程度しか資金を手当てすることが出来ませんでした。
このように、被災者あるいは避難者一人ひとりの生命、生活、尊厳が失われる、あるいは著しく脅かされるといったことを、私たちは防ぎきれていません。即ち、こうした人々を救うという人道上の責務を、国際社会として十分に果せていないというのが、残念ながら現状です。言わば国際的な人道支援の在り方そのものが、まさに今問われているわけです。

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こうした状況を変えていくため、今回、国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長の呼びかけにより、史上初となる世界人道サミットが開催されることとなりました。
世界人道サミットの目的は、人道支援の根幹を成す理念や原理原則をあらためて再確認すること。そして、人道支援をいわば「21世紀型」へと変えていくために必要な具体的方策について国際社会全体としてコミットする、すなわち必ず実行すると約束することです。そのため、日本を含む各国の政治指導者、さらには国連機関、民間団体、企業等のリーダーが結集します。参加人数は約6,000人にも上る見込みです。

では、私たちが直面する人道危機を克服していくため、何が必要なのでしょうか?国連事務総長は、世界人道サミットを前に「人道への課題」を発表し、今最も優先して行動しなければならない5つの課題を示しています。

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•    まず、第一に、とにかく紛争を未然に予防すること。あるいは、紛争がすでに起こってしまっている場合、指導者の責任で早期の政治解決に結びつけることがあげられています。
•    第二に、紛争の際、戦闘当事者が国際人道法などのルールを遵守し、一般市民に対する暴力や病院・学校といった施設に対する攻撃を許さず、必要な支援が人びとに届けられるようにすることも求めています。
•    第三に、「誰も置き去りにしない」という合言葉のもと、難民、国内避難民、移民といった人々、あるいはこうした人々を受け入れている地域への支援強化を訴えています。また、女性や子供、若者、障がい者、高齢者等、弱い立場におかれた人々を保護するとともに、その多様なニーズにしっかりと応えていくことも強調しています。
•    第四に、食糧配給などの人道支援ニーズそのものをなくしていくため、様々なリスクを分析し、その軽減措置をあらかじめ講じること。つまり、危機的状況になってから対応するのではなく、むしろ先手を打っていくというアプローチへの転換を求めています。
•    そして最後に、人道への「投資」と題して、民間部門も含め新たな資金集めの仕組みを構築するなど、支援活動の供給面をより手厚くする必要性も訴えています。

日本政府も、世界人道サミットの実現と成功に向けて、これまで熱心に取り組んで来ました。特に、国内外での経験や得意分野を活かすべく、防災の推進や民間企業との連携を重点に掲げています。また、安全で健康な妊娠出産のための支援や性的暴力の予防、さらには女性の経済的自立や政策決定への参画などを重視しています。そして、いのちを繋いでいくための緊急支援とより長期の開発援助を結びつけ、人道危機の瀬戸際に追い込まれた人々が何とかそこで踏み留まれるよう、地域社会が持つ力を応援していくことも強調しています。イスタンブールではぜひこういった分野で、明確かつ具体的なコミットメントを打ち出して欲しいと思います。

また、日本は国連安全保障理事会の非常任理事国でもあります。政治外交努力という意味では、「人道への課題」で示された紛争の予防や解決、さらには戦闘時の国際ルール遵守や市民の保護といった点についても、日本にはその責務をしっかりと果たすことが求められています。加えて資金面での協力に対する日本への期待が依然として大きいという点も強調したいと思います。これまでに日本政府は、伊勢志摩サミットと世界人道サミットの相乗効果を目指すと表明していますが、世界が直面する人道課題を克服していくため、日本独自の貢献が出来る極めて重要なタイミングに差し掛かっています。今まさに、日本のリーダーシップに大きな期待が寄せられているのです。

人道危機という人類の共通課題に対して、無関心で居続けることは出来ません。世界人道サミットは私たちの未来を大きく左右することとなるのです。

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