NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「今回は防ごう "生活不活発病"」(視点・論点)

産業技術総合研究所 招聘研究員 大川 弥生

熊本地震が発生して1ヶ月が経過しました。お亡くなりになった方のご冥福をお祈りします。また被災された方のご苦労はいかばかりかと推察いたします。 これからの復旧、そして中・長期的な復興にあたって、本日私がお話しさせて頂きたいことは、これまでの災害の度に発生していた生活不活発病を、今回こそは防ごう、ということです。

生活不活発病とはまさにその字が示すように、生活が不活発なことによって起きる全身のあらゆる頭や体の機能低下です。高齢者ほど起き易く、また一旦発生すると改善しくいものです。災害をきっかけとして、特に高齢者では歩いたり身の回りの動作が不自由になったり、前からあったものが進行することが少なくありません。その最大の原因が生活不活発病なのです。ということは「災害だから仕方がない」のではなく、生活不活発病への対策で防げるものなのです。
このことを高齢者ご自身とご家族がまた復興に取り組み、支援する方々の、いわゆる常識として知っていただき、対策を工夫していただくことが必要です。復旧・復興の中で高齢の方々が元気で充実した生活をなさっていくことはご家族・地域全体の大きな課題です。
ではまず、災害時の生活不活発病発生の実態として、東日本大震災の時を紹介しましょう。震災発生1月後の仙台市では昼間避難所にいた、震災前には要介護認定を受けていなかった、いわゆる元気な高齢者の63%で、歩くことや身の回りの動作が難しくなっていました。
2月後宮城県南三陸町では、同様の生活不活発病の発生がみられました。ではその後どうなるのでしょうか。

s160513_01.jpg

7ケ月後から津波の直接的被害を受けていない地域も含めた65歳以上の全町民について1年毎の生活機能の実態把握を行っており、その結果は、7月後は4分の1近くで歩くことが災害後難しくなり改善しないままでした。そしてその後むしろ低下者は増え、4年7ヶ月後は4割弱もいらっしゃいました。このように災害後時間が経てば自然と改善するのではなく、新たな発生を生んでいるのです。こうならないように熊本地震では現時点から取り組む必要があります。
災害時に生活不活発病が多くの方で発生することは、私どもが二〇〇四年の新潟県中越地震で発見しました。それ以来大災害の際に厚生労働省からは生活不活発病予防についての事務連絡が注意喚起のチラシやポスターまたガイドラインと共に出されています。
今回の熊本地震でも発生5日目既に出されています。
このように予防・回復への努力が続けられてきましたが、残念なことに、これまでの災害時には生活不活発病発生を許してしまっているのです。ですから今回こそ発生を防ごうと強調しているのです。
ではどうしたら防げるのでしょうか。実は生活不活発病対策としてどのような働きかけをしているのかで地域による状況は大きく異なっています。
まず原因すなわち「なぜ生活が不活発になったのか?」を知ることは、生活不活発病の予防や回復に重要です。
最も多い原因は、「することがなくなった」ということです。これは家の外でだけでなく、特に仮設住宅生活では家の中でのこともあります。
次いで多いのは「外出の機会が減った」ことですが、その理由で最も多いのは、外出する目的がないことで、これは家の外ですることがないことと、実はほぼ同じです。
「することがない」とは、それまで行っていた仕事、高齢者でも農業などができなくなったこと、また家事や趣味、地域でのお付き合いや行事がなくなることもあります。
また被災者だから、高齢者だからと御自身が遠慮されていることも少なくありません。その際まわりの人たちが「やってあげるのがよいことだ」と、実は御本人のやりたいことまでやってあげてしまうことになり、言葉は少し強いのですが、することを奪うことにすらなるのです。これは被災者のためと思っていても生活不活発病について知識がないためにこのようになるのであり防ぎたいことです。
また、高齢者自身が生活不活発病について正しい知識をもってもらうことも大事なことです。
 
s160513_02.jpg

3年7ケ月後の時点で正しく理解している人では低下者は9%、知らない人はその4倍でした。実は生活不活発病は、平常時にも、とても起こり易いものですが、それについての知識の普及と取り組みは不十分なのです。このことが、被災地で生活不活発病が多く発生した大きな原因だとも言えると思います。体を動かさないと頭も体もなまってしまうのは常識だと思われるでしょう。その通りです。しかしながら災害の際、また高齢者についてその常識が忘れられてしまい、弱ってしまうのは仕方ない、助けてあげることがよいことだということが常識になってしまっていがちなのです。

では、どこに住んでいる人に注意すべきかも述べておきます。
 
s160513_03.jpg

避難所や仮設住宅に注意が行きがちですが、7ヶ月後は仮設住宅で低下者は最も多かったのですが、自宅に住み続けている人でも、生活の仕方が大きく変わるので低下しています。そしてその後その差は小さくなっています。また親類宅やそれ以外の土地で住む人でも低下しやすく特に4年7ヶ月後では最も多くなっています。

s160513_04.jpg

注意していただきたいのは、生活不活発病は「悪循環」をおこして進行していくことです。最初は少しだけ動かないことで軽い生活不活発病となり、「心身機能」が低下します。その結果動きにくくなり、ますます動かなくなり、悪循環は進行します。地震発生1ヶ月後の現在、避難所生活で動く機会が減ったり、軽い被害ですんでいてもこれまでの仕事や地域活動の機会が減って生活が不活発になった方は実はたくさんいらっしゃるでしょう。動作の不自由さがまだ出ていなくとも悪循環が進行する可能性があります。
最後に、生活不活発病の予防・改善の基本的なポイントを述べます。それは、することをつくり「生活を活発化する」ことです。「充実した楽しい生活を送ることで、自然と体や頭を使う」ことが基本です。特別の訓練や運動が必要なのではありません。生活不活発病では心身のあらゆる機能が低下するのであるから、そのうちの一部の機能(筋力など)だけに短時間働きかけただけでは効果が乏しいのです。
生活の過ごし方が大事なのですから、行政や専門家の支援としても、健康・介護・福祉分野だけでなく、様々な行政分野の積極的な関与も望まれます。
熊本地震の今後の復旧・復興の課題として、生活不活発病対策が明確に位置づけられることを望みます。熊本地震で、今回こそは生活不活発病の発生を防ぐために、発生がゼロになるように、知恵を出し合い、取り組めることを期待して、話を終わります。

キーワード

関連記事