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「誰もが人の役に立ち 働く幸せを」(視点・論点)

日本理化学工業株式会社社長 大山 隆久

私は、学校で使うチョークを作る工場の社長をしております。社員80名の小さな工場ですが、特徴的なのが、そのうちの60名が知的障害者という点です。
障がい者の方の雇用を始めて55年以上が経ちましたが、彼らとともに歩んできた中で、その道を作り上げてきた先輩たちから教えられたこと、障害のある彼らから教えてもらったこと、そして、気づいたことについてお話させていただきます。

人はどういうときに喜び、幸せを感じるのか、
人から愛されること、人にほめられること、ひとの役に立つこと、そして、人から必要とされること、
これは、人間の究極の4つの幸せです。
このうちの愛されること以外の3つは、働くことで得られることだと、禅のお坊さんから私の父が教えていただきました。
働く場である企業だからこそ、君がいて助かったよ、ありがとう、また頼むね、という言葉が自然とでるのだと思います。
人間誰しも持っているという、人の役に立つことが幸せだと感じる脳、「共感脳」が、人に役に立ったときに満たされる、幸せだと感じられる、まさに、自分の存在を確認できるからなのでしょう。
世のため、人のためというと大げさになりますが、人間だからこそ、このように素晴らしい能力を持てるわけで、本当にありがたいと思います。

ひとつ例をあげましょう。
工場で働く障害のある女性社員の目標から教えられたことがあります。
彼女はいくつかの目標の中に3年連続同じフレーズを掲げて、
「ありがとうと、たくさん言ってもらえるように新しい仕事を覚える」とありました。
それを一番最初に読んだときに、自分はありがとうと言ってもらうことを意識して仕事をしていたか、とハッとさせられました。
働く本質をこんなにシンプルに教えてもらったのです。
その後、全社の目標スローガンを、
「ありがとう、言える自分、言われる自分」としました。
人の役に立ってこそ、ありがとうと言われるわけですし、相手をしっかり見ているからこそ、ありがとうとも言える、安心していられる環境を作るのも自分なのだと教えられたのです。

会社の理念の中で、大事にしていることは、「相手の理解力に合わせて伝える」ということです。
数字や字の読み書きの理解のレベルはそれぞれ違いますが、それで良い悪いとするのではなく、彼らの持っている理解力でできることは、少しの工夫や配慮だけで大きく広がるということなのです。

チョークの計量をする際に、数字や文字を使いマニュアル通りに教えてもなかなか伝わらなかったことがありました。そこで、文字や数字は苦手でも一人で工場に通ってくる中で、いくつもの信号を無事に通ってくることから、その信号機をヒントに、文字や数字の替わりに色を使って作業することでしっかり理解してくれた様から気づいたことがありました。

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彼らの持っている理解力に合わせて段取りをしたり、その中で教えられることができれば、彼らは自分が理解したことについては誰よりも一所懸命にやってくれるので、安心して仕事を任せることができるのです。
よほど、私より仕事に忠実で素直な分、信頼できる人たちですので、大きな戦力になってくれています。

そんな中で、1つ厳しい教えもあります。
それは、私たちが障がいのある社員に何かを教えたときに、その人ができなかったとき、「それは教えたほうがいけないのだ」と一言で片付けられることです。
こちらも理解してもらおうと何度かトライしても伝わらなかったときには、どうしても相手のせいにしてしまいます。
しかし、それでも相手のせいにしてはならないといわれると、何度もチャレンジしていれば頭にもきますし、言われて悔しい言葉です。しかし、「教えた方がいけないのだ」という言葉があるから簡単にはあきらめることはできませんし、相談できる仲間とともに新たな伝え方から理解してもらったときには、あーやっぱり伝えられるやり方はあるのだとうれしさと納得感がわいてきます。
それが教える側の喜びなのだと思います。

私たちの会社では目指している社会があります。
それは、皆が働くと書いて、皆働社会の実現です。
かつてベルギーにあった制度を模範にするのですが、重度の障がい者の方が企業で採用されたときには、その最低賃金は国が企業に代わって支払うという制度です。
それは四方よしということになります。
まず企業は、その方が役に立つところを見つけ、集中して教えることで、その貢献分がそのまま競争力になります。その方への支出を抑えられるわけですから、経営強化になるわけです。
そして、働く本人にとっては、働くことで得られる幸せ、プライドを持つことが出来、さらに、賃金を得ることにより、自分で社会保険料を支払うことなどでの社会参加への喜びとともに、自分の欲しいものややりたいことを自分で稼いだお金でできる、自立を得られるのです。
さらに、国にとってはどうか。
国はその方の最低賃金を支払うわけですが、県によって相違はあるものの、だいたい一年で160〜170万円くらいになります。一方で、障害のある方が施設に入ると、仮に20歳から60歳までに約2億円かかると言われています。一年では500万円ということです。
だとすれば、300万円以上の社会保障費の削減となり国費を抑えることができるのです。しかも、本人が自立することで社会保障費を逆に納めるわけですから、それ以上の効果となります。
そして、障害のある方のご家族にとって、特に親御さんにとっては、「自立する」ことからの安心はとても大きいと聞きます。社会参加、就職し自立していることは生活面だけでなく、存在意義の確認にもつながる、計り知れない安心があるということです。
以上のように、ご本人の働く幸せ、国の社会保障費削減、企業には経営強化、そして、親御さんには安心という四方一両得になる制度なのです。

日本国憲法でも、
第13条 幸福追求に対する国民の権利
そして、第27条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う、つまり勤労の権利と義務が明記されています。

まさに人間だけが持つ共感脳を満たすこと、幸せになる心を満たすこと。
多くの人が社会に役立って「ありがとう」と言われる社会へ
そう憲法に書いてあるのです。
ぜひ実現に向けて、行動してまいりたいと思います。

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私は、人の役に立つことが自分の存在を確認できることにつながり、プライド、自信、そしてその責任感によって、人からの信頼、そして幸せの実感につながってくるのだと確信しています。
誰もが人の役に立ち、必要とされる社会づくりがまさにユニバーサルデザインな社会であり、私たちが目指す社会なのではないでしょうか?
だからこそ、私たちの会社が最もしていかねばならないことは、強い経営をしていくことなのです。
障害のある社員を多く雇用している中、安定した経営ができてこそ、周りの方への説得力はやはりここが一番大きいわけですから。
私たちは知っています。彼らは人の役に立てることがたくさんあることを知っています。
だからこそ、私たちの会社は少しずつでも発展しています。
彼らの純粋さと素直さは私たちのいらない鎧をとってくれますし、やさしくしてくれます。

日本が、世界がもっと人を信じ、活用していくことを私も信じていきたいと思います。

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