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視点・論点 「子どもの貧困とワーキングプア」

山形大学 准教授 戸室 健作

  貧困な子どもの割合が増大しています。政府は、『国民生活基礎調査』に基づいて計算した「子どもの貧困率」の数値を、3年毎に公表していますが、喫緊の2012年の数値は16.3%に達しました。

私も独自に、総務省の『就業構造基本調査』と厚生労働省の『被保護者調査』を使って、計算してみました。私は、「子どもの貧困率」を、18歳未満の子どものいる世帯のうち、生活保護基準以下の収入しかない世帯の割合として、計算しました。その結果、1992年から2012年の20年間で、18歳未満の子どものいる貧困世帯数は70万世帯から146万世帯へ、子どもの貧困率は5.4%から13.8%に急増していました。
 
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この数値を都道府県別で見ますと、概して関西から西の地域と、東北から北の地域で、恒常的に高くなっています。具体的に2012年の「子どもの貧困率」は、高い順に沖縄(37.5%)、大阪(21.8%)、鹿児島(20.6%)、福岡(19.9%)、北海道(19.7%)と続いています。
子どもの貧困率急増の原因は何なのでしょうか。主な原因は労働条件の悪化にあると考えています。実際、子育て世帯の多くは就労世帯でもあり、親の就労条件の悪化は子どもの生活状況に直接影響を与えます。私は、都道府県別に「ワーキングプア率」についても調べてみました。ここでいうワーキングプア率とは、収入の多くを働いて稼いでいる世帯のうち、生活保護基準以下の収入しかない世帯の割合のことです。ワーキングプア世帯は1992年の133万世帯から2012年には320万世帯へ、ワーキングプア率は同じ期間に4.0%から9.7%に増大しています。重要なことは、ワーキングプア率が高い都道府県は、子どもの貧困率も高くなっていることです。
 
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さらに注目したいことは、この20年の間に、貧困の地域間格差が縮小しているという事実です。地域間格差が縮小しているということは、どういうことでしょうか。私は、子どもの貧困率が高かった上位10の地域の合計貧困率と、子どもの貧困率が低かった下位10の地域の合計貧困率の格差についても計算しました。その結果、上位10と下位10の地域の子どもの貧困率の格差は、1992年は5.37倍もありましたが、その格差は徐々に縮まっていき、20年後の2012年には2.35倍に縮小していました。なぜ縮小したのでしょうか。それは、上位10の地域の合計貧困率も増大しているのですが、下位10の地域の合計貧困率がそれを上回る高さで増大しているからです。そのため、格差縮小と言っても歓迎すべきもので全くなく、その実は、貧困率の高位平準化が進んでいるのです。
同じことはワーキングプア率の地域間格差でも見られることです。ワーキングプア率の上位10の地域と下位10の地域の格差も、この20年間に、4.34倍から2.06倍に縮小しています。縮小した理由は、子どもの貧困率と同じように、高位平準化によって、全体的にワーキングプア率が高まる中で、下位10の地域のワーキングプア率の上昇が大きいために格差の縮小が起きているのです。
このように見てみると、現在でも貧困率の高い地域と貧困率の低い地域は存在していますが、その差は徐々に悪い方向で縮小してきていることが分かります。これは何を意味するかというと、もはや貧困は、特定の地域に固有の問題ではなくなってきていて、全国一般の問題、全国どこにでも見られる問題に深刻化してきているということです。その原因として、全国的にワーキングプアの仕事が拡散・増大してきていることが指摘できます。
それでは、こうした状況の中で求められる貧困対策とは、どのようなものでしょうか。各地域レベルでの努力によって貧困の解消を図ることはもちろん大切です。また、貧困が全国一般の問題となっていることを考えると、地域の努力と平行して、国が率先して貧困の削減を進めることが重要になっています。
それでは、貧困対策として国が行うべきことは何でしょうか。これは、子どもの貧困率の高さとワーキングプア率の高さが関係していることからして、ワーキングプアの仕事をなくしていく政策が必要です。具体的には、労働者の4割にも達した非正規労働者の活用を規制しなければいけません。あるいは、最低賃金の金額を最低でも時給1500円以上に抜本的に引き上げる対策が求められます。
自治体レベルでも行えるワーキングプアを削減する方法としては、役所において非正規職員の数を減らし、正規職員に置き換えていく施策が挙げられます。また、現在では多くの自治体が仕事を民間に委託していますが、この民間委託の際にワーキングプアが生み出されることが問題になっています。競争入札で一番安い見積額を提示した会社が、自治体の仕事を落札することになれば、その会社は人件費を削り、安い労働力を使って、請け負った仕事をこなそうとします。そうさせないために、見積金額だけではなく、正社員数の多さや、賃金の高さなどを業者選定の評価項目に加えていくことが必要です。さらに進んで、仕事を請け負う会社には、社員に一定額以上の賃金を支払うことを義務づけた公契約条例を制定する自治体も徐々にですが、広がってきています。
2014年1月に子どもの貧困対策法が施行されて、自治体では子どもの貧困対策の施策策定と実施が義務づけられました。「隗より始めよ」という言葉がありますが、子どもの貧困対策に自治体が取り組むのであれば、まず、自らが「官製ワーキングプア」を作り出していないか点検し、作り出しているのであれば、早急にその見直しに着手することが必要です。
子どもの貧困とワーキングプアとの関連について述べてきましたが、貧困問題の解決は、たとえ今現在、安定した正規の仕事に就いていて、貧困とは無縁に見える人々にとっても大いに関係している事柄です。それというのも、ワーキングプアの増大は、そうした人々の生活保障をも脅かすからです。どういうことでしょうか。ワーキングプアの存在は、労働市場において正社員の働き方を引き下げる錘の役割を果たします。ワーキングプアの活用が広がることは、そのコスト面と競争させられることによって正社員の労働条件を低下させるのです。賃金の引き下げや、さらなる長時間労働が正社員に負わされます。長時間労働の広がりは、労働市場において働く機会の縮小をもたらすので、そのことがワーキングプアの増大に拍車をかけます。つまり、正社員の労働条件の悪化とワーキングプアの増大は相互促進的な関係にあるのです。そうであれば、ワーキングプアの解消を図ることは、ワーキングプアの生活を強いられている人々だけでなく、正社員として働く人々にとっても大いに求められることです。
最後に、子どもの貧困問題の解消には、労働条件の改善だけではなく、生活保護制度の拡充、児童手当の増額、医療費の窓口負担の無料化、働きつつ子育てができるように保育所の増設など、社会保障制度による対策も当然必要になってきます。今こそ当事者の運動やその他の市民運動、労働運動等が連帯して、貧困削減のために大きなうねりを起こす必要があります。

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