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視点・論点 「シリーズ・東日本大震災5年 経験を教訓に出来る国づくり」

防衛医科大学校 講師 秋冨 慎司

日本では、地震、津波、火山など、一旦起こってしまうと甚大な被害を起こすような自然災害が常に起こっており、日本国土技術研究センターによれば、世界中で起こっているマグニチュード6以上の地震のうち、約20%も大きなエネルギーをもった地震が日本周辺で発生していると言われています。また首都の地下鉄にサリンをまかれた、大きなテロを経験した国でもあります。
2005年に107人が亡くなった福知山脱線事故のような交通災害、東日本大震災の時に起こった原子力発電所の爆発による放射能汚染、鳥インフルエンザウイルスやエボラ出血熱の流行への感染症対策など、激動する世界の中で日本においても国民の命や財産を守るための迅速な危機対応が求められています。

アメリカではFEMAと呼ばれる危機管理を行う政府機関があります。権限を持ち、すべての危機に対して迅速に多機関の調整および指揮が行います。日本にも似た組織は存在しますが、一番の問題点は各関係者のセクショナリズム、つまり割拠主義による高い壁を越えて権限を持てず、また多機関の調整が可能なシステム自体が存在しないことです。

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 この図は、理想の多機関の連携の重要性を示しています。日本においても、各々の組織の縦の指揮命令はしっかりしていますが、横の連携調整が上手に出来ません。大震災では各々のプロフェッショナルを生かし、一人でも多くの人命を救助するために、現場、市町村、国や県の各々のレベルで、救助や交通整理、人海戦術や医療などの、各々のプロフェッショナルを最大限に生かすための連携調整が必要なのです。この写真は震災当日の夜、岩手県庁ですべての組織が同じところに集まり、お互いに足りない部分を補うために連携調整をしているところです。危機対応は競争ではなく協力なのです。

 東日本大震災の時、被災地は壊滅状態で、役所や病院が流されている状況でしたが、そんな中でも『それは自分たちの仕事でなくて、市町村の行政職員の仕事です』といった発言をする人がいました。もちろんほとんどの関係者は真剣でした。しかし、どうしてそのような事が起こるのでしょうか?

 まず日本における危機管理の現状から考えてみます。日本では多くの人たちが危機管理というとRisk managementが浮かびます。これは被害を想定しそれに対して予防策をおこない準備をすることになります。しかし東日本大震災のように、一旦想定以上が起こった場合、どうすればよいか分からずに動けなくなります。なぜならその理由の一つとして、私たちは想定外を想定し想定外の時でも活動できる Crisis managementができないためではないでしょうか?

 ここ20年で首都直下地震や南海トラフ巨大地震・津波などの巨大災害が再び来ると言われております。そんな中、私たちは東京オリンピック・パラリンピックを迎えようとしています。開催中には海外からのべ1000万人が来日します。災害時要援護者、つまり災害弱者と呼ばれている人たちには、子供、妊婦、障がい者だけでなく、日本語自体が話せない旅行者も災害弱者となります。東京オリンピック・パラリンピックになれば、日本語が話せない何十万人という災害弱者候補が存在することになります。このように大規模イベント開催自体が様々な緊急事態になる危険性をはらんでいます。

 東京オリンピック・パラリンピックの時に、万が一、災害が起きても対応できるように、私たちがするべき事はなにがあるのでしょうか?

まず自助、共助、公助から考えてみましょう。

自助、つまりなんでもかんでも行政のせいにして、行政頼みになるのはやめて、まず自分たちに何が出来るかを考えてみてみましょう。東日本大震災の時にも、大きく被災していない首都圏などのスーパーから品物がなくなってしまい、被災地まで物資が供給されませんでしたが、首都直下地震および南海トラフ巨大地震・津波が来れば、流通が再開するまでに一週間以上かかるはずです。まずは最低一週間、自分の家族が生き延びられる準備と、一旦情報が途絶えても家族同士で、学校や職場に留まる事や、災害時の伝言ダイヤルの練習などをしておき、お互いが安心できる取り決めを事前にしておきましょう。

 次に共助です。少しの支援で災害時に生活ができるような、要援護者を助けられるための、地域コミュニティーや企業への教育支援が必要です。地域コミュニティーでも最近では災害時要援護者への支援のための仕組み作りがすすめられていますし、企業も帰宅困難者を受け入れる準備をしています。しかし、その土地の避難所はできる限り地域の住民の方々が優先して活用できるためにも、企業側が努力して帰宅困難者対策に取り組む必要があり、かつ義務化の強化と強力な支援策を提示しなければいつまでも先に進まず、結局自分たちが大変になるだけなのです。首都直下地震の時に首都から搬送しなければならない患者人数は62万人いると言われています。本当に助けなければならない人を助けるためには、自助共助を通して、なんとか頑張れる人たちが、助け合いなんとか頑張る必要があり、それには事前の教育と準備が必要なのです。

 最後に公助です。災害に対応しなければならないすべての組織はどうすれば良いのでしょうか?まず、(1)すべて住民が自助・共助目線で考えられる、住民教育への支援です。東京では東京防災という本を配布していて、住民防災教育への足がかりをつくりました。しかしそれだけでは足りません。一般の人たちから防災に対して普段からアプローチしやすく理解が出来るための教育コンテンツの作成や、防災リテラシーハブ、つまり防災を理解する能力を向上させ、そしてすべての防災関係の知りたい情報に自らアプローチできる仕組みづくりへの取り組みです。防災リテラシーハブへの取り組みは始まっており、正しい防災の裾野を広げ、社会全体で理解を支えられることが重要です。次に(2)すべての組織が、同じ目的のために各々の力を発揮できる、システムの構築です。危機管理の標準化した教育プログラムとそれを動かすシステムが必要です。すべての関係者が同じ目的のために、同じ評価法や基準を理解し、最小の資源で最大効率をもって最大人数を救助するために、標準化・最適化した教育プログラムと、危機対応のシステムによる指揮調整が重要です。最後に(3)すべての組織が同じ目的のために共同で訓練できる、大規模訓練施設の設置です。

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このような取り組みにより、まさに『経験を教訓に出来る国づくり』を進め、競争や争いになりがちの災害現場を協力できる体制を構築し、常に信頼できる関係を築く、そうすれば一人でも多くの命が救われ、そして本当の意味でのナショナルレジリエンスが構築されます。

 東京オリンピック・パラリンピックまであと4年少し、残された時間はぎりぎりで時間的余裕はありません。世界も注目しています。私たちはどうすべきか分かっています。勇気を持って動けば、一人でも多くの命を救えるような、レジリエンスを持った強い国家になれるではないでしょうか?

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