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視点・論点 「シリーズ・東日本大震災5年 福島県沖の海はいま」

いわき海洋調べ隊・うみラボメンバー 小松 理虔

福島第一原発沖の海は今、一体どうなっているのだろう。少し心配に思っている方も、この番組の視聴者のなかには、いらっしゃるかもしれません。
新聞やテレビで報じられると福島の海というと、「汚染水が流出した」とか、「漁業が立ち行かない」とか、とにかくネガティブな報道ばかりでした。
事故当時のイメージが固定してしまっている方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回は、わたし自身が有志たちと企画している、福島第一原発沖の海洋調査の結果などをもとに、原発沖の海域が今どうなっているのかをお伝えできればと思っています。福島の海についての認識を、ぜひここでアップデートしてください。

2013年の冬から、有志たちと「いわき海洋調べ隊 うみラボ」という民間の海洋調査チームを組んで、福島第一原発沖の魚の放射線量などを測定する活動をしています。これまでに15回の調査を行い、100を超えるサンプルを測ってきました。調査、計測ともに、いわき市にある水族館「アクアマリンふくしま」の協力を頂き、毎回獣医の方のアドバイスを受けながら調査を行っています。活動が始まったきっかけは、原発事故直後に自治体や東電から発表されたデータをよく理解できなかったからでした。
当時私は、いわき市内の蒲鉾メーカーに勤務しており、物産イベントなどで、消費者の皆さんから「福島の魚は大丈夫か」という質問を投げかけられました。しかし、そうした質問にハッキリと答えることができず、とても歯がゆい想いをしていました。
そこで、有志たちと実際に原発沖に行って、自分たちで測れるものは測ろうということで、この調査がはじまりました。調査について簡単に説明します。  
春から秋の間、毎月1回ほど、双葉郡の漁師の協力を頂き、船で福島第一原発沖に向かいます。そして、1.5km沖で海水、海底土、魚などを採取します。狙う魚は、ヒラメやアイナメ、メバルといった沿岸に生息する魚です。
なぜヒラメやアイナメなどを狙うかというと、福島第一原発沖にもっとも近いところに生息している魚であり、原発事故直後には、1kgあたり数千ベクレルの放射性セシウムが検出されたからです。
こうした魚は国の出荷規制がかかっており、現在これらの魚が流通することはありませんが、汚染の状況を調べるためには最適の魚種であるともいえるからです。
2年半あまりの調査によって、福島の海は、全体として回復傾向にあることがわかってきました。これは、自治体や東電の出しているデータとも合います。
事故から間もなく5年という現在、多くの魚が代替わりし、あるいは生き残った魚からの排出が進んだ結果、基準値を超える放射性物質が検出されるような魚の割合は0.1%以下にまで減っています。
つまり、国の基準値を超えるような魚を見つけるほうが難しくなっているということです。
調査の結果、例えば同じヒラメという魚でも、震災前生まれか、震災後生まれかで傾向が異なることがわかってきました。震災前にすでに生まれていた魚は、原発事故直後に放出された超高濃度の汚染水の影響をまともにうけており、震災から5年の間に排出は進んだものの、まだ数十ベクレルほど体内に残っているものと考えられます。
一方、震災後生まれのヒラメは、放射性物質がすでに広く海にまかれ、希釈された海で育っているため、体内に放射性物質が取り込まれたとしても、かなり微量であり、多くの場合検出下限値以下、検出されても数ベクレル程度におさまります。
たとえば、ヒラメに関して言えば、2014年に原発沖10km圏内で採取した魚のうち、検出下限値以下だったものは4割しかありませんでしたが、2015年には68%がN.D.となっています。また、2014年は100Bq/kgを超えた個体も1つありましたが、2015年は最大でも20ベクレル台に収まっており、このことからも、ヒラメの線量はかなり下がってきていることがわかります。
このように、福島の魚といっても、魚種や生息している場所、年齢、どのようなエサを食べるかなど個別の状況を見ていかなければ、福島の海の現状を正しく理解したことにはなりません。「福島の魚」と一括りにせず、科学的なアプローチで1つひとつ検証していくことで、わからなかったことがわかるようになり、より安心感が得られるということを強く実感しています。
また、実際に魚の生態を詳しく調べていくことで、魚そのものについて詳しくなってきたということも、うみラボを通じて強く実感しています。例えば、ヒラメの汚染について調べるということは、ヒラメとはどのような魚なのかを知らなければなりません。
ヒラメはどのように漁獲され、どのような食べ方で食べられてきたのかなど、魚に関する情報にも触れることになります。
そこで痛感したのが、自分たちがいかに海について、そして漁について無知だったかということでした。自分たちが今まで当たり前に食べてきた魚のことを、自分たちは良く知らなかったわけです。どのような漁師がいて、どんな漁が行われ、どこの港にどんな魚が水揚げされていたのか、私たちは知らなかった。それを反省しました。
その反省が、自分たちの日常の食生活や、地域の水産業、農業などに目を向けるきっかけになりました。うみラボを始めるようになって、地域の食文化にも強い興味が湧くようになりました。
もう1つ、うみラボを通じて痛感することがあります。それが漁業資源の回復です。福島県では、現在、安全性の確認された魚種のみを流通させる「試験操業」が行われていますが、漁自体の規模がかなり小さいため、魚の個体数が増加してきているのです。
一説では、震災3年で震災前の3倍、震災から5年で5倍近くまで回復してきた魚種もあるという報道もあります。私たちの調査でも、初めて釣り竿を握ったという方が、60cmを超えるヒラメや、30cmを超えるメバルなどを続々と釣り上げています。船を出して頂いている船長や、かつてここで釣りをしたことのある方も、魚が増えたと口を揃えます。これをいかに活用し、本格操業に移行していくのか。イチ消費者として、私たちも考えていきたいテーマです。
実は、漁業資源の減少は、日本の漁業の長年の問題でした。そんななか、福島県だけが全国で唯一、漁業資源が回復してきているわけです。福島の漁業をどう復興させるかは、日本の漁業をどう復活させるかに繋がってきます。その意味で、福島の漁業は、福島だけの問題ではありません。日本の漁業の問題、ひいては、私たちの食卓の問題でもあるのです。ぜひ皆さんも一緒に、福島の海のことを考えて頂ければと思います。
もちろん、福島の魚はまだ心配だな、という方も多いでしょう。私も最初は不安でした。不安だからこそ、現場に行き、自分たちで測り、学んできました。
答えは現場にあります。ぜひ、私たちうみラボの調査船に同行頂き、福島の海の今を知って頂ければと思います。

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