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視点・論点 「シリーズ・東日本大震災5年 未来をひらく復興教育の推進」

福島大学うつくしまふくしま未来支援センター長 中田 スウラ

東日本大震災からこの5年、福島は、人類が初めて直面する複合震災からの復興に取り組んできました。この大震災が、地震・津波に加え福島第一原発事故を伴う複合震災であったことにより、多くの子ども・高齢者を含む県民が、「直ちに健康に影響はない」との政府報道が繰り返される中、長期避難生活を余儀なくされ、その影響は甚大なものとなりました。

例えば、避難者達が先祖代々から受け継ぎ暮らしてきた故郷は「避難区域」に指定され、暮らしにも大きな影響が出ました。福島県内で見られていた祖父母と一緒に暮らす複合家族としての生活も大きく変化しました。若い世帯は放射能汚染から子どもを避難させることを優先し、祖父母を残し別の地域での生活を始めざるを得ない場合もあります。

またそうした若い世帯でも、さらに母と子が県外等へ避難し父が県内で仕事を続けるといった選択をせざるを得ない状況も見られます。ようやく避難先を見つけ家族で生活を始めたが、避難先周辺での高校進学が困難となり結果的に子どもは遠隔地の高校へ進学し寮生活に入るため、再度、家族と離れなければならない場合も見られました。このように多様なレベルで子ども達を支える家庭・学校・地域教育は大きな影響を受けいまだそれは解消されてはいません。

しかしながら、どのような状況下においても、未来を創造する子ども達はその教育権と学習権は保障されなければなりません。

東日本大震災後の地域の再生を担う鍵は、その担い手となる子どもが次世代の社会創造の過程に参画しながら社会創造の主体として成長することに置かれ、同時にそれは、それを可能とする教育に置かれます。

復旧に留まらないそうした創造的な復興教育の展開が、学校を中心としながら様々な関連機関の連携を基盤に推進される必要があります。

福島県 双葉郡では、こうした課題に取り組む復興教育が着手され、未来を担う一貫した人材育成が推進され始めています。その背景には、双葉郡を初めとし避難区域指定を受けた福島12市町村の学校が、大震災により深刻な影響を受けた事実があります。大震災前には12市町村で1万242人いた小中学生ですが、今では、12市町村の自治体で開設される学校に通っているのは3687人です。将来の地域の担い手たる子ども達は事故前から比較すると約7割の減少という現実です。

こうした厳しい現実を前に、子どもや若者への支援活動が多方面から開始されました。その中の一つとして、福島大学では次のような活動が展開されました。震災直後には、人間発達文化学類を中心として教員と学生達による「子ども達の遊びと学び支援活動」が開始されました。

避難所では廊下の脇に子どもコーナーを作りそして仮設住宅では集会所で、折り紙やお絵かき、手遊びや工作、縄跳び等で遊び、宿題にも一緒に取り組みました。少しでも子どもらしい過ごし方ができるよう工夫しました。その後、「うつくしまふくしま未来支援センター」の「こども・若者支援部門」と同学類との連携により、子ども達の再会の場を作る「同窓会事業」、将来像の明確化を支援するキャリア教育の推進、大学のキャンパスと施設整備を活用し子ども達が集団で物づくりやスポーツ・学習活動に参加する「土曜子どもキャンパス」等々が展開されました。

双葉郡では、こうした活動に呼応しながら、郡内教育長会が一丸となって「双葉郡の復興教育に関する協議会」を設立しました。その成果は「双葉郡教育復興ビジョン」として2013年(H25)7月にまとめられました。このビジョンの推進は、地域の未来を託する子ども達の教育を、復旧をこえた「創造的復興教育」として展開させていきます。

具体的には、「双葉郡ならではの魅力的な教育」が目指され、それはアクティブ・ラーニングとプロジェクト学習としての「ふるさと創造学」に具現化され、葉郡全体で推進されています。「ふるさと創造学」の展開過程で、小・中学生は学校から地域に出かけ、地域の高齢者や大人たちから自分達の生まれ育った地域の自然や文化・歴史について学びます。そこで、当たり前だと思っていた今までの暮らしが先行世代に継承されながら、維持されてきた事実を発見していきます。今までの暮らしが「地域コミュニティ」の基盤の上に成立していた事実を学びながら、地域の復興過程で自らが果たす役割と責任を多角的な視点で探究するのが「ふるさと創造学」のねらいです。もちろん、その役割と責任の問い方は、帰郷の選択を今行うことのみを前提にするものではありません。

こうした「ふるさと創造学」による人材育成の目的は高校教育にも継承されています。昨年4月に双葉郡に「福島県ふたば未来学園高校」が開設されました。開設までの過程では、双葉郡の小・中・高校生達が参加する「子ども未来会議」が開かれ、双葉郡の学校は「窓が沢山あって、動く学校」にしたいとの要望が出されました。これは、学びたいことを学べる「窓」が沢山あって、ただ教室で学ぶだけでなく外に出て「動き」ながら実践的に学びたいとの子ども達の強い声でした。

これを受け、同高校では、「ふるさと創造学」を継承する「産業社会と人間」という授業が誕生しています。震災以降何が起きたのかを地域に出て調査し、高校生として地域課題を捉えながら地域の未来を探究するのがこの授業です。加えて、同高校は、第一線で活躍する社会人による「応援団」や福島大学生たちをはじめとする、学習支援ボランティアとの連携・交流も進めています。 教員を目指す学生ボランティアにとっても、この関わりは福島の教育課題を実践的に学ぶ機会となり、高校・大学の双方に相乗的な効果をもたらしています。

以上を基に総じて言えば、双葉郡の復興教育は、大震災を振り返り互いの震災経験を共有化し、改めて東日本大震災と原発震災に対し地域社会がどの様に対峙したのかを複眼的かつ協働的に把握することから始められます。それは、東日本大震災と原発震災を多様な視点から捉え直させ、産業社会を構造的に把握しながら震災理解を深化させることを可能としています。

双葉郡は、地域課題に対峙し福島の未来を担う子ども達の成長を支える創造的な復興教育を「応援団」や地域の大学と言った社会的資源とともに進めようとしています。

この双葉郡の挑戦は、これからの地方の時代の中で生き抜こうとする全国の地域にとっても多くの示唆に富むものと言えます。

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