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東京大学・国立天文台 准教授 安東正樹
 
 2月12日、重力波の初観測というニュースに世界が湧きました。人類の宇宙に対する理解を大幅に広げるきっかけとなる歴史的な出来事といえるでしょう。今回は「重力波」と、それによって切り拓かれる新たな天文学の可能性についてお話したいと思います。

まず、「重力波」とは何かを説明しましょう。重力波は、ブラックホールなどの重たい天体が高速で運動する際などに生じる「時空のひずみ」が波として伝わる現象です。その存在が理論的に予言されたのは、今から100年前のことです。理論物理学者アルバート-アインシュタインの一般相対性理論によると、重力の正体は、時間と空間が一体になった「時空」が歪んだもの、として解釈されます。

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例えば、地球は太陽の重力に引きつけられて、その周りを公転しています。これは、太陽のような重たい物体があるとその周りの時空がひずみ、そしてその時空のひずみの影響を受けて、地球が運動するためだ、と説明されます。ここで、重力源となる天体が激しく変動すると、その周囲の時空も変動し、それが波紋のように波として伝わります。これが重力波と呼ばれるものです。重力波は時空の性質であるため、強い透過力を持ち、途中にある物質にはほとんど影響されることなく伝わります。従って、ブラックホールなど電磁波では観測できない天体、激しい天体現象の中心部、または、宇宙が誕生した直後の姿などを直接観測する手段になることが期待できるのです。

 しかし、重力波の直接観測は容易ではありません。重力波の効果が非常に小さいからです。重力波の効果は離れた2点間の距離の変化として表れます。今回観測した重力波の振幅は、10-21というひずみ量です。これは、地球と太陽との間の距離が、水素原子1個分の大きさ、もしくは、髪の毛の太さの100万分の1程度だけ伸び縮みした、ということに相当します。このような小さな変動を検出するためには、極限的な精密計測技術が要求されます。
では、どうやって重力波を捉えるのでしょうか。
重力波の観測装置の原理を簡単に説明しましょう。
 
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観測にはレーザー光線を用います。
レーザー光源から出た光をビームスプリッタという光を分ける装置をつかって、90度で交差するする2つの方向に分けます。それぞれの光は鏡で反射され、ビームスプリッタ上で再度合わさります。重力波が来ていないときには、両方の光の波の山と谷が重なり合って打ち消し合い、光検出器には光が漏れてこない状態に保たれています。
 
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ここに、重力波がやってくると、ビームスプリッタからそれぞれの鏡までの距離が、片方が伸びれば他方が縮む、というように変動します。すると、光の波の重なり具合が変化し、その変化を光検出器で読み取ることができるのです。先ほども申し上げました通り、重力波の効果はひずみとして表れます。従って、レーザー光線が往復する一辺の距離が長いほど、大きな光量変化を測定することができ、望遠鏡の感度は向上します。今回、重力波の初観測に成功した、アメリカのLIGO(ライゴ)と呼ばれる重力波望遠鏡では、この一辺の距離の長さが4kmもある大型の装置になっているのです。
 
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今回の発見は、約3000km離れて設置された2台のLIGO重力波望遠鏡で、ほぼ同時刻に、同じ波形の信号を捕えたのです。そして、その波形は、一般相対性理論を用いて計算した理論波形とぴたりと一致しました。雑音の影響で偽の信号が現れる可能性は20万年に1回未満という低い確率であり、今回の初観測は間違いのないものと言って良いでしょう。得られた波形を調べることで、重力波発生源の正体も分かっています。太陽の29倍の質量と、36倍の質量を持つ2つのブラックホールからなる連星が、地球から約13億光年離れた場所で合体する瞬間を捕えたものだったのです。人類が初めてブラックホールの直接観測に成功した瞬間でもあります。

今回のLIGOによる重力波の初観測には、2つの大きな意義があると考えています。まず1つ目は、重力波が観測されたということそのものにあります。一般相対性理論で予言されてから100年、直接観測の試みが始まってから50年以上が経ち、「アインシュタイン最後の宿題」と言われていた重力波の直接検出が達成されたのです。その観測結果は、一般相対性理論の正しさを驚くほどの正確さで示すものでした。今後の観測によって、さらなる精度の向上期待できます。もしくは、一般相対性理論を超える、より宇宙の根源に迫る理論への知見が得られるかもしれません。2つ目の意義は、人類が宇宙を観測する全く新しい手段を手に入れた、ということです。約400年前、ガリレオ-ガリレイが手作りの望遠鏡で宇宙を観測して以来、天文学は主に、可視光・電波・赤外線・X線など、電磁波を用いて行われてきました。異なった波長の電磁波で宇宙を観測することで、異なったエネルギー・温度をもつ天体現象が観測されてきたのです。重力波はそれらとは全く異なり、物体のダイナミックな運動によって放射され、非常に強い透過力を持つ、という性質があります。今回、LIGOは2つのブラックホールの合体という、電磁波で検出することが困難と考えられる現象を捕えました。重力波を用いることで、宇宙に対する新たな知見を得ることが可能になってくるのです。

 重力波による宇宙の観測においては、日本の果たす役割も重要になってきます。日本では、岐阜県・神岡で重力波望遠鏡KAGRA(かぐら)の建設を進めています。
 
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KAGRAは、地面振動が小さい地下に設置すること、レーザー光線を反射する鏡を低温に冷やすことで雑音の影響を低減することという独自の特徴を備えています。その結果、基線長は3kmとやや短いながらも、LIGOに匹敵する感度を実現できる見込みです。重力波望遠鏡には指向性がほとんどなく、1台ではどちらから信号が来たのか判断できません。そこで複数台の望遠鏡で信号を検出した時間差から重力波源の方向を特定するのです。今回のブラックホール合体時には、LIGOの2台の望遠鏡だけしか稼働していなかったので、信号の到来方向を大雑把に知ることしかできませんでした。ヨーロッパのVIRGO(ビルゴ)、日本のKAGRA、そしてインドの計画といった、3台目以降の望遠鏡が稼働して、初めて波源の位置を特定することが可能になり、本格的な重力波天文学が幕をあけたといえるでしょう。KAGRAは今年度中に試験運転を行い、2017年度頃から本格的な観測運転を開始する予定です。その後、将来計画としては、観測装置を宇宙に打ち上げ、宇宙誕生直後の姿を直接観測する、宇宙重力波望遠鏡も計画されています。

 「重力波天文学」の最終的な目的は、宇宙の誕生と進化の謎を、直接の観測によって解き明かす、というものです。これは、広く言えば人類の科学の究極の目的の1つでもあります。天文学は、文明の発祥と同時に生まれた最古の科学の1つと言って良いでしょう。その根幹には、農業や文明の存続といった「実用的な」目的だけではなく、自分たちがどこから来たのかを知りたいという、純粋な好奇心があったのではないかと思います。現代の天文学における理解や手法は、古代のものとは大きく異なっています。しかし、宇宙や人類の起源を解き明かしたいという好奇心は脈々と流れているのだと思います。重力波による観測は、宇宙を知る新しい手段をもたらし、人類が本質的に持つ、そのような好奇心に応えてくれる可能性を秘めているのです。

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