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視点・論点 「北朝鮮とどう向き合うか」

関西学院大学 教授 平岩俊司
 
国際社会の強い反対にもかかわらず、北朝鮮は、核実験に続き、事実上のミサイル発射を強行しました。2月7日におこなった発射実験を、北朝鮮は地球観測衛星の打ち上げとしており、宇宙開発はあらゆる国に与えられた権利、としています。しかし、これまでの度重なる核実験、事実上のミサイル発射によって北朝鮮はミサイル発射技術を利用した発射を制限されています。今回の行為が人工衛星だろうが、ミサイルだろうが、ミサイル発射技術を利用した発射実験である限り国連安保理決議違反であることは間違いありません。
日本はこれに対し独自制裁を発表し厳しく臨もうとしていますが、北朝鮮はこれに反発し、拉致被害者の再調査などを担当する特別委員会の解散を発表しました。

北朝鮮がミサイル発射実験を強行した背景には、36年ぶりに予定されている今年5月の朝鮮労働党大会に向けて、金正恩政権の功績を誇示したいという狙いがあったでしょう。人工衛星の打ち上げ成功は、金正恩政権の成果として科学技術の向上を印象づけるのに大いに意味があるはずです。
 さらには、米国の脅威への対抗としての意味もあるでしょう。北朝鮮から見れば、米国は自らの体制を崩壊させる意図と能力を持っており、それに対抗するためには核ミサイル能力が必要不可欠である、との思いがあります。自らの体制維持のため、常に核、ミサイル能力を向上につとめていることは間違いありません。北朝鮮は今回の行為を宇宙の平和利用、としていますが、そもそも、人工衛星発射に使われるロケットの技術が弾道ミサイルに転用できるのですから、先におこなった核実験と併せて考えるとき、北朝鮮の核ミサイル能力が向上しつつあることは間違いありません。
 問題なのは、こうした北朝鮮の行動にブレーキはかけられても根本的な姿勢変化を促すことが難しいということです。すでに北朝鮮は憲法にも自らを核保有国として位置づけています。国際社会は北朝鮮に対してどう向き合ったらよいのでしょうか。
 北朝鮮の核放棄が難しいことを前提とするとき、国際社会には、軍事力を用いてでも北朝鮮から核ミサイル能力を放棄させるという選択肢がないわけではありません。しかし、それは戦争に発展する危険性がありますし、朝鮮半島が戦場になる危険性を中国、韓国が受け入れられるはずはありません。その意味であまり現実的な選択肢とはいえません。
 また逆に北朝鮮が望むように北朝鮮をとりあえず核保有国として受け入れ、
北朝鮮の核能力を凍結するとういのはひとつの選択肢かもしれません。しかし、北朝鮮を前例として同じような行動に出る国が出てくる危険性は排除できませんし、これまでの経緯から国際社会がそれを受け入れるのはきわめて難しいでしょう。それゆえやはりこれも現実的選択肢とはいえないでしょう。
 そうであるとすれば、やはり国際的協力を前提として北朝鮮に強い姿勢で臨む、ということになるでしょうし、だからこそ、これまでも国際社会は北朝鮮に対してそのように向き合ってきたのです。問題はそれが必ずしもうまく機能してこなかったことにあります。その理由として国際社会が必ずしも協力関係を維持できてこなかったところにあります。
 そもそも、北朝鮮が四度目の核実験を強行したことに対して国際社会は従来以上に厳しい制裁を科すとしながら、より厳しい制裁を求める米国と、慎重姿勢を求める中国、ロシアが合意できず、国連安保理では決議を採択することができずにいました。そうした状況をあざ笑うかのように北朝鮮は事実上のミサイル発射を行ったのです。
 国際協調の鍵となるのはやはり中国でしょう。北朝鮮の中国に対する経済的依存度を考えれば、中国はもっとも影響力のある国ですが、その影響力をうまく使えているとはいえません。中国は北朝鮮を過度に追い込めばさらに反発するかもしれない、また追い詰めすぎれば体制の動揺につながり脱北者が多数出てくる危険性もあると考えています。また経済制裁の強化で中国の企業にも損害がでてしまいます。だから慎重に、との立場なのです。さらに米国との関係も中国を慎重にさせる理由の一つです。南シナ海での米国との関係に象徴されるように安全保障面での対立には厳しいものがあります。北朝鮮は中国にとって対米緩衝地帯としての意味があるのです。
 北朝鮮はこうした状況をよく理解し、それを逆手にとるように自らの核ミサイル能力を着々と向上させているのです。だからこそ国際社会は中国が持っている影響力を効果的に使わせる必要があるのです。
 中国が国連での厳しい決議に慎重な理由として、中国自身の自由が奪われてしまう、との思いもあるようです。国連決議などの国際的合意の中で厳しい経済制裁が義務づけられれば、中国自身が国連決議に縛られることになり、中国の判断で北朝鮮への影響力行使をコントロールしにくくなります。たしかに国連決議に象徴される国際的合意は重要ですが、かりに中国がそれを嫌うのであれば、国連決議は象徴的なものとしながら、各国がそれぞれの持っている影響力、外交カードをそれぞれの判断で使用し、できるかぎり情報を共有し、結果として北朝鮮に対する国際的連携、国際的包囲網を形成できるように配慮する必要があります。
 すでにそうした動きは活発化しています。とりわけ韓国の動きには大きな意味があります。中国ほどではないものの、ケソン工業団地で北朝鮮が得る利益はきわめて大きなものがあります。これまで韓国はケソン工業団地について制限することに、南北関係が悪化するのみならず進出している韓国企業に多くの損害がでるとの理由から慎重でした。今回、ケソン工業団地の全面中断を決断したことは従来にない韓国の厳しい姿勢と言ってよいでしょう。さらにこれまで中国に配慮して慎重だった米国の「高高度防衛ミサイル」の配備も検討し、いよいよ覚悟を見せ始めた。
 日本も独自制裁を科し日本としての姿勢を示しました。その結果、北朝鮮はストックホルム合意に基づいて設置された拉致被害者の再調査などを担当する特別委員会の解体まで宣言しました。ただ、北朝鮮がストックホルム合意を破棄したとはいえないことから、日本はそれを前提として拉致問題の進展を目指して働きかけていくことになるでしょう。
 こうした日韓の動きに加えて米国も独自制裁を強化し、中国に対して自らの影響力を行使するよう求めています。国連での象徴的な決議採択を目指すと同時に関係国がそれぞれできることを、ある程度のリスクは覚悟のしながら行う、中国にはそうした形で自らの影響力を行使しやすい雰囲気を作り、そのなかで日米韓が協力して中国に働きかけていく必要があるのです。
 3月から予定されている米韓軍事合同演習まで、北朝鮮は米国をはじめとする国際社会への牽制を続けるでしょう。国際社会は日米韓と中国の対立を必要以上に際立たせず、問題の解決のための連携を前提としてそれぞれができることを行い、北朝鮮に対する国際的包囲網を形成しなければならないのです。国際社会の覚悟が試されているのかもしれません。

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