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視点・論点 「火星への夢」

会津大学 准教授 寺薗淳也
 
今回は題名に「火星への夢」とつけました。しかし、私たち宇宙開発に携わる者にとって、火星、そして火星探査は今ここにある現実なのです。
太陽系で、地球の外側1つとなりに位置する火星。大きさは地球の半分くらいですが、大気は地球の約100分の1、温度も平均してマイナス50度くらいという寒い星です。それでも、かつて水が流れた痕跡が発見され、生命が存在する可能性があるとして探査が続けられてきています。今年、その探査は新たな段階を迎えようとしています。

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3月、ヨーロッパとロシアが共同で作り上げた火星探査機「エクソマーズ」が打ち上げられます。火星を周回する探査機と、着陸して探査するローバーの2機の体制からなる探査機です。さらに2018年にはもう1組の探査機が打ち上げられ、大規模な探査が実施されます。
いま、火星では7機の探査機が探査を実施しています。人類史上、1つの天体に7機もの探査機が同時に探査を行ったという例はありません。私たちに最も近い月でさえ、そこまではなかったのです。いかに火星がいま、全世界で注目されているかがわかるかと思います。
日本でも昨年、火星探査がにわかに注目を集めました。
昨年、政府は日本で行う新たな火星探査計画を発表しました。それによると、火星にある2つの衛星のどちらかからサンプルを持ち帰り、地球で分析するというものです。
小惑星探査機「はやぶさ」、そして「はやぶさ2」で培われた、日本のサンプル回収技術を活かすことができます。そして、日本が長らく実施できていなかった火星探査にも加わることができる可能性が高まっており、研究者の間でも火星探査熱が高まっています。
そんな中で、今注目を浴びているのが、有人火星探査です。人間を火星に送り込む…これこそ、火星への夢なのですが、まさにそれが、今ここにある現実に変わろうとしています。
アメリカは以前から、2030年代なかばをめどに、火星に人を送り込むという計画を構想してきました。それがいま、実現の方向に走り出しているのです。
2015年10月には、アメリカ航空宇宙局=NASAが、有人火星探査実現のための技術的なレポートを発表。往復で3年近くにもわたるという大がかり探査に必要とされる技術的な開発要素を挙げ、その開発にこれから力を入れることを明らかにしました。
 
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民間でも有人火星探査の動きがあります。例えばアメリカの民間宇宙ベンチャー、スペースX社を立ち上げたイーロン・マスクさんも、宇宙開発へ乗り出した目的を、「火星への移住」と述べています。
ではなぜ、いまこの時期に有人火星探査がにわかに注目を浴びてきたのでしょうか。
大きな理由の1つは、国際宇宙ステーションです。
2011年に完成した国際宇宙ステーションは、当初2016年までの運用予定となっていましたが、先ごろこの運用期間が延長され、2024年まで各国の資金により運用されることになっています。
では、その後の国際的な宇宙共同プロジェクトは一体何になるのでしょうか? それが有人火星探査になる可能性が、高まっているのです。
有人火星探査を行うには巨額の予算が必要です。ある見積もりでは数兆円はかかるとされています。そこで、有人火星探査は国際的な枠組みで実施されることになるでしょう。
しかし皆さんは、ここで疑問を抱くかも知れません。
「なぜ、危険も大きな火星に、わざわざ人間を送り込まなければいけないのか」と。
確かに、いま無人探査機が7機も飛び、これまでに30機を超える火星探査機が火星へと挑みました。膨大な量のデータも得られています。わざわざ危険を犯して、人間を送る意味はどこにあるのか、という疑問は当然湧くでしょう。
私はそれに対し、2つの点で意義があるということをお伝えしたいと思います。
1つは、人間が究極のロボット、であるという点です。
火星は地球から遠く離れています。遠いときには3億キロ以上という距離です。電波でやりとりしようとすれば往復で30分以上かかってしまいます。アポロの月探査のときのように、地上の判断を仰ぐということができないのです。とすれば、その場に究極のロボットである人間を派遣し、ロボット、あるいはクルーたちに指示を出すということが必要になってきます。滞在時間が限られている有人火星探査で効率的にミッションをこなすためにも、そのようなやり方が求められるでしょう。
もう1つ、これは科学的な面から少し外れますが、国際的な団結のシンボルという意味合いになるということです。国際宇宙ステーションも、名前の通り「国際」的な団結のシンボルでした。上空で国籍も言葉も異なる宇宙飛行士が一緒に仕事をし、成果を出すことは、まさに国際的な団結のシンボルといえるでしょう。国際宇宙ステーションよりはるかに規模が大きいと予想される有人火星探査は、それよりもはるかに大きな団結のシンボルとなります。それは、世界平和、価値の共有といった、科学を越えた世界をまとめる力にもなっていくかと思います。
同時にそれは、月・惑星探査が科学の領域を超え、外交などにも影響を及ぼすことを意味します。火星探査は国際的な外交にも発展していくかも知れないのです。
日本の宇宙政策はこれまで、技術の発展を大きな目的として進んできました。2015年1月に発表された宇宙開発政策大綱では、安全保障と宇宙産業の育成という経済的な側面を重視するという形になっています。
しかしこれから、有人火星探査が国際的な課題として浮上していくとすれば、外交という側面が宇宙開発にも新たに加わってきます。
さらに、有人火星探査に必要となる各種の技術開発は、ほかのさまざまな宇宙開発にも使われ、技術を向上させるという側面も出てくるでしょう。特に、ベンチャー企業での宇宙開発が盛んに行われているアメリカは、これらの企業の競争によって今までより速いペースで技術開発が進んでいくことが必要となります。
そのとき、日本はついていけるでしょうか。
有人火星探査は、このように外交や経済の問題も巻き込んで、これから急速に話題になってくるかと思われます。そして、国際宇宙ステーションで大きな地位を持っている日本も、当然参加に期待がかかるでしょうし、一方では参加するかということについて議論していかなければならなくなるでしょう。
では、そのためにはどうしたらいいでしょうか。
私たちが火星探査を含め、月・惑星探査の重要性を理解すること。そして国に対し、月・惑星探査を推進するように意見を出していくこと。さらには民間も含めた技術開発の試みを支援していくこと。
資源がない日本として、宇宙技術を国の将来の大きな柱であるということを皆が認識し、支えていくこと。何よりも、「火星に行きたい」と思う気持ちを大切にすること。
それが、火星への夢を現実にするために私たちができる、最も大きな貢献になるのではないでしょうか。

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