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視点・論点 「普天間基地問題(2)~辺野古移設の限界~」

沖縄国際大学 教授 前泊博盛
 
 アメリカ軍海兵隊の普天間飛行場がある沖縄県宜野湾市の市長選挙が1月24日に投開票され、安倍政権が支援した現職の佐喜真淳さんが、翁長雄志沖縄知事ら沖縄県政与党の「オール沖縄」が支援した新人の志村恵一郎さんを破り、再選を果たしました。
市長選挙の最大の争点は、普天間飛行場の「辺野古移設問題の是非」のはずでしたが、佐喜真・安倍陣営は「普天間飛行場の固定化阻止」のみを掲げ、辺野古移設には一切触れませんでした。「普天間飛行場の無条件返還・撤去」「辺野古移設反対」を前面に、唯一最大の争点として戦うはずだった志村・翁長陣営にとって「争点ぼかし」戦略は想定外で、志村さんの知名度不足もあり、大敗を喫する結果となりました。

市長選の投票率は前回の市長選を5ポイント近く上回り、68.72%と過去20年間で最高の投票率となりました。全国的にも「辺野古移設の可否」を決める選挙として注目されました。選挙当日の24日にメディアが実施し各種の出口調査がありますが、琉球新報と共同通信社が実施した調査では、有権者の55%が「普天間移設問題」を「投票で最も重視した政策」に挙げています。

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市長選では、有権者の56%が「辺野古移設に反対」し、「賛成」の33.2%を大きく上回っています。

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また「辺野古移設を推進する政府の姿勢」に対しても約55%が「支持しない」と答え、「支持する」は33.8%に留まっていました。沖縄県全体の調査でも「辺野古移設反対」が常に60%から70%を超えています。

しかし、調査に反し、市長選挙の結果は、辺野古移設を推進する安倍政権が支持する佐喜真さんの得票率が55.5%と逆転しています。そこには、「辺野古移設は反対だけど、危険な普天間基地を固定されても困る」という宜野湾市民の率直な声があります。

宜野湾市民は、普天間の爆音被害と基地被害に日夜曝されています。爆音被害がもっともひどい上大謝名地区では、年間約2万回もの爆音に曝され、年間200件を超す苦情が市役所に届けられています。

普天間飛行場所属機による事故は過去90回以上も起きています。年平均2.2回という頻度です。日本政府もアメリカ政府も、「普天間は、世界一危険な基地」と強調しながら、事故率が「天文学的」と批判されるオスプレイ24機を配備し、より危険度を高めています。

爆音被害もアメリカ本国からの戦闘機の一時移駐や訓練使用などで激化させています。爆音や基地被害に日々苦しむ市民・県民にとっては「いつになったら普天間の危険性や爆音は無くなるのか」「普天間返還を決めた20年前の日米合意は、いつ実現するのか」と疑心暗鬼になっています。

 そんな中で安倍政権は「辺野古移設が唯一の普天間の危険性除去の解決策」として、一昨年末、辺野古移設の容認を条件に「普天間飛行場の5年以内運用停止」を、沖縄県の仲井真弘多前知事と約束しました。

政府の言葉に県民も期待しましたが、安倍政権がアメリカ側にその話を伝える前に、「辺野古での基地建設に10年かかる。5年で普天間の機能を運用停止できるはずがない」と、米軍幹部から矛盾を突かれ、あっさりと一蹴されてしまいました。同じような理屈でいえば、「普天間の固定化阻止」を訴え再選を果たした佐喜真市長も安倍政権同様「辺野古移設」を唯一の解決策とするならば、固定化阻止が逆に固定化を招く矛盾に陥ります。「受忍限度、がまんの限界を超えている」と、普天間爆音訴訟の判決で米軍機の爆音被害の酷さを国の裁判所も認めています。「辺野古移設」を容認することは、その苛烈な爆音被害と墜落事故の危険に、市民や県民を今後最低10年も放置することになります。「辺野古移設」は、そんな矛盾を抱えています。

 辺野古移設問題には、5つの不合理が指摘されています。法的、軍事的、政治的、経済的、環境的合理性の5つの不合理です。

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法的には裁判にもなっている公有水面の埋め立てに伴うアセスの不備、地位協定上も根拠の乏しい埋立費用の日本側負担、本来は個人としての国民を救うための行政不服審査法の国による濫用疑惑などです。

軍事的にも、「海兵隊は辺野古以外の県外移転も可能」とする森本敏元防衛相の発言があります。実際に1967年ごろにはアメリカ軍は沖縄基地を全廃し、グアム、サイパンなどマリアナ諸島に移転を計画していました。しかし日本政府が移転に反対し、沖縄駐留を要請していたことが、2年前に開示された米軍機密文書で明らかになっています。

政治的には「選挙民主主義」で示された沖縄県民の「移設反対」の民意が無視されています。辺野古以外の選択肢の欠落などが指摘されています。辺野古裁判で、翁長知事は選挙で示された民意を無視する安倍政権に対し「この国の民主主義の質が問われる。魂の飢餓感を感じる」と告発しています。

経済的にも辺野古新基地の建設費用をなぜ日本が負担するのか。総費用はいくらなのか。費用対効果はいくらか、などの論議が全くなされていないなどの問題点が指摘されています。

環境面でもアセスの不備をはじめ、ジュゴン保護の不徹底、サンゴ礁の破壊、埋め立て用の外来土砂による生態系破壊などの懸念が指摘されています。

「辺野古移設反対」を公約に一昨年当選した翁長知事も、多くの矛盾を抱えています。翁長知事は「国土面積の0.6%に過ぎない沖縄県に、在日米軍専用基地の74%が集中しているのは、明らかに差別だ」と指摘しています。 

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しかし「どれだけ米軍基地を、いつまでに減らすのか」という明確な答えは示していません。

「辺野古移設阻止」で、県民の圧倒的な支持を得て誕生した翁長知事や「オール沖縄」陣営ですが、沖縄が抱える基地問題は辺野古問題だけではありません。1月の宜野湾市長選挙では、「普天間に限らず、沖縄県内にある33ものアメリカ軍基地を今後どうするのか」という「全基地問題の具体的な解決ビジョンの欠落」という翁長県政の弱点も浮き彫りになっています。

 過去の米軍機事故を精査して分かったことがあります。実は、沖縄の基地の中で最も危険な飛行場は、普天間ではなく嘉手納飛行場でした。

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1972年の沖縄の本土復帰以降、42年間に起きた米軍機事故は650件を数えます。事故を基地別にみると普天間飛行場は15件ですが、嘉手納飛行場は449件。普天間の30倍の事故件数になっています。

 米軍機事故は、住宅地や空き地、畑、民間空港など基地外でも151件起きています。要するに危険なのは米軍基地ではなく、基地から飛び立つ米軍機の訓練というのが実態です。

普天間など11施設の返還に日本が合意したSACO合意から20年が経過しましたが、返還は遅々として進んではいません。そして明らかになったのは安倍政権はじめ政府が示す「辺野古移設」や「5年以内機能停止」、翁長県政が示す「辺野古移設反対」も、佐喜真市長が公約した「普天間の固定化阻止」も、「世界一危険な基地問題の抜本的な解決にはならない」という厳しい現実でした。

戦後70年を経てなお日本に駐留しているアメリカ軍は、一体、何から何を守っているのか。沖縄では「有事の安保」を論議する前に、「平時の安保」の在り方が問われています。

 

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