NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

視点・論点 「寄付文化と女性の役割」

公益財団法人パブリックリソース財団事務局長 岸本幸子
 
これまで日本には寄付の文化がないといわれてきました。確かに、2014年の日本の個人寄付は7409億円、これに対し米国の個人寄付は27兆3504億円ですから、日本の個人寄付は、米国の2.7%にすぎません。
しかし現在、寄付をめぐる環境は変わりつつあります。2006年の公益法人制度改革、2011年の新寄付税制、2012年の改正NPO法などの改革によって、寄付の優遇税制の対象団体は大幅に増加しました。確定申告により、寄付額の最大50%が還元されるようになっています。
また、東日本大震災を契機に、寄付についての意識も変わり始めました。東日本大震災の被災地を支援する個人寄付は約5000億円で、日本人の8割近くが今回の震災に何らかの寄付を行ったと推定されています。『寄付白書』では、震災後の意識変化について、「政府にまかせるだけではいけないと思うようになった」と回答した人が全体の85%。内閣府調査でも、近年では7割の人が「社会に役立ちたいと思っている」と回答しています。今回の大震災が日本人の社会貢献意識に大きな変化をもたらしたといえるでしょう。
今日は日本の寄付文化と女性の役割についてお話をいたします。

そもそも、なぜ寄付は必要なのでしょうか?それは、問題に直面した当事者やNPO等が問題をとらえ、活動を開始してから、社会の仕組みに反映されるまで、長い時間がかかるからです。このおおよそ10~20年の空白の期間を支えるのは、寄付や会費、助成金、ボランティアなどの民間の志ある資源なのです。
例えば、高齢者介護の問題について、最初に声をあげたのは女性たちでした。評論家の樋口恵子さんが「高齢社会を良くする女性の会」を発足させたのは1983年です。高齢者介護は妻、嫁、娘が担う家庭の問題ではなく、社会で支えるべき事柄であると、介護の社会サービス化を訴えました。しかし、こうした考え方や仕組みが、国の制度となって結実したのは、2000年の介護保険法の施行まで待たねばなりませんでした。
家庭内暴力、ドメスティックバイオレンスについても、同じです。被害者を一時的に保護する、シェルターと呼ばれる緊急避難の場所が、女性たちによって各地で開設され始めたのは1980年代でしたが、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」つまりDV防止法の施行は2001年になってからでした。
 
s160127_01.jpg

社会課題の解決や革新には、寄付のような自発的で自由なお金が必須なのです。

さて、現在日本社会が直面している問題は色々ありますが、男女格差の是正は大きな課題のひとつです。現在、『世界男女格差レポート』(Global Gender Gap Report) によれば、日本は、世界145カ国中101位と、開発途上国並みの評価です。また豊かになったはずの日本で、「女性の貧困」という経済格差の問題が発生しています。女性の非正規労働率は5割を超えており、単身女性の3分の1、110万人が年収114万円未満の貧困層と見られます。母子家庭の平均収入は父子家庭の2分の1で、子ども世代への貧困の連鎖が心配されています。
こうした問題を解決するために、どんな場合でも、女性自身が自分の意思で人生を選択できるように、様々な就業の場をつくろうとする活動が広がっています。特に東北の被災地では、女性が主導して、地域の資源を活用した新しい事業を立ち上げ、小さくとも継続的な雇用の場をつくる事例が生まれています。
 
s160127_02.jpg

赤坂智子さんは石巻の仮説住宅居住者の方々に、編み物と手織りの技術を研修し、製品を各地のデパートで販売しています。
 
s160127_03.jpg

秋山弘美さんは石巻、陸前高田、相馬などの縫製工場とともに、中高年に人気のハワイアンの新ブランドを立ち上げ、オンラインショップで販売をしています。
 
s160127_04.jpg

渡辺さやかさんは、地元原産の椿を原料に化粧品やお茶などの商品開発に取り組み、地域活性化に貢献しています。
こうした社会的な事業の立ち上げ資金や人材養成の費用についても、初期段階では目的に共感し、支援しようとする寄付のような資金が必要です。またこうした製品を買うことも寄付の一つです。そういう意味で女性には期待が寄せられています。
 
s160127_05.jpg

寄付白書によれば、女性は30歳代以上のすべての年代において、男性より寄付する比率が高く、社会貢献の意欲をもっています。また、遺贈、つまり遺言による寄付に関する意向についても、女性、特に未婚の女性、は高い関心をもっています。
 
s160127_06.jpg

つまり配偶者をもっていない女性で、遺贈寄付をする意思のある人は、40代で約45%、50代、60代で50%を超えています。自分の人生の節目に思いをこめて寄付することに強い関心をもっているといえます。
ところがこれまで、女性を取り巻く社会課題を支援するようなお金の流れや、女性が寄付しやすい仕組みはあまり発達してきませんでした。
米国では今から30年ぐらい前から、「ウィメンズ・ファンド」女性のための基金をつくるという運動が起こりました。女性基金は、複数の人から寄付を募り、そのお金をよりよい社会をつくる活動に投資をする、いわば女性支援のためのみんなのお財布のような仕組みです。大金持ちでなくても、同じ思いをもつ多くの人のお金をまとめることによって、社会に変化を作り出そうとしたのです。
また最近では、女性主導のギビング・サークルの活動もさかんです。ギビング・サークルというのは、個人が自発的に集まったり、学校や教会、コミュニティなどを拠点に集まったりして少額の資金を出し合い、NPOや社会起業家を支援する活動です。米国では、多くの女性によるサークルが組織されていて、一人あたりの寄付額は多様です。年間300ドル~500ドルぐらいのところもあれば、5000ドル~25,000ドルの場合もあります。
ウィメンズ・ファンドやギビング・サークルに共通しているのは、女性達が、自分たちの意志でサポートする団体を決め、次世代の育成や女性のエンパワメントに積極的に取り組んでいることです。しかも、参加する女性自身も、その場を通じてネットワークの輪をひろげ、自分のキャリアステップに役立てています。ウィメンズ・ファンドやギビング・サークルは、社会や環境、人権などソーシャルなことに関心が寄せられる時代の新しい社会貢献のあり方を示しているといえるでしょう。
パブリックリソース財団では、昨年12月に日本初のウィメンズ・ファンドとして「あい基金」を設立しました。
 
s160127_07.jpg

あい基金では、行政や企業、学会、NPO、地域社会など様々な場所で働く女性が、寄付やボランティアを通じ、女性がすすめる先駆的な活動を応援しています。また遺言による基金や、個人の名前を冠した基金などの創設を推進しています。日本では女性のキャリア向上のためのネットワークや学校の同窓会、あるいは生涯学習活動など、様々な組織が活発に活動しています。このような団体とも力をあわせ、「ギビング・サークル」や「ウィメンズ・ファンド」の活動を広げていきたいと思っています。
女性が女性を応援するウィメンズ・ファンドの活動が、日本の寄付文化を刷新していくことに期待が寄せられています。

キーワード

関連記事