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視点・論点 「日常で使える大和言葉」

敬語講師 山岸弘子
 
大和言葉が注目されています。この2年間に20冊ほどの本が出版されており、テレビや新聞でも大和言葉が取り上げられています。また、大和言葉の講座も各地で開かれているそうです。
今回は、大和言葉のあらましを簡単にご紹介したあと、メールに使える言葉、電話や日常会話で使える言葉をお伝えします。

さて、大和言葉とはどのような言葉を指すのでしょうか。辞書によると大和言葉とは「我が国固有の言葉。漢語、外来語以外の言葉。」とあります。「馬」「梅」などのように早くに中国から伝わったとされる言葉もあったり、漢語と付いてできた語もあったりしますので、「固有の言葉」として厳密に分けるのは難しいのですが、現在注目されているのは、大和言葉の中でも響きの美しい言葉、洗練された言葉です。

具体的に例をあげてみましょう。時を表す言葉、自然や季節を表す言葉、お付き合いの言葉、人の特徴を表す言葉から少しずつ例をあげてみます。
 
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時を表す言葉として、「あかつき、あけぼの、しののめ、夕暮れ、暮れなずむ、宵の口」、自然や季節を表す言葉として「淡雪、花あかり、うららか、せせらぎ、おぼろ月、星月夜」などたくさんの言葉があります。
 
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お付き合いで使う言葉として「お平らに、お膝送り、ほんのしるし、心ばかり、ごゆるりと、お心づくし」などがあります。「お平らに」というのは「膝を崩して」という意味で、「おみ足をお楽に」と同じ意味で使われます。「お膝送り」は、座ったまま膝を動かし詰めることです。たくさんの人が集まる和室などで「お膝送りをお願いします」と使われます。「ほんのしるし」「心ばかり」は相手に品物などを渡すときに「ほんのしるしばかりですが」「心ばかりですが」と使います。人の特徴を表す言葉として、「奥ゆかしい、たおやか、清らか、おおらか、こころ映えがいい、懐が深い」などたくさんの言葉があります。

このような大和言葉に触れた人は、大和言葉の持つ優雅さや豊かな表現力に気づき魅力を感じるようです。また、子どものころ、おじいさんやおばあさんが使っていた言葉だったのでなつかしかったという人や、初めて聞いた言葉だったのになつかしく感じて、これが日本人の感性かと思ったという人や、ふわっと気持ちが開放されたという人もいます。 若い女性の中には、周りの反応を見て大和言葉の力を見直したという人もいます。メールや日常会話で使ってみたら周りの人からの評判もよくほめられることが多くなったそうです。 
時を表す言葉や季節を表す言葉は日常のあいさつに使うことができますし、メールに一言添えることにより、やりとりにうるおいが生まれます。

ここでメールでの大和言葉の使い方について触れてみます。メールにおいては、簡潔に書くことに重きを置かれてきました。現在では時間的なゆとりのなさも重なり、効率優先で用件のみのメールも増えています。あまりにそっけないメールが届くので、仕事の取引先とのやりとりにおいて不安を感じるという声を聞くようになりました。具体的には、仕事上の取引先からそっけない返事が来て、自分側に行き届かぬところがあったのか心配になったという声や取引先の人に嫌われているのではないかと不安になっているという大人の声をあちらこちらで聞くようになりました。
よく話題に上るのが、「了解です」という言葉です。自分は丁寧なメールを送ったのに相手から「了解です」とたった一言で返されて拍子抜けしたという声や相手から認められていないのではないかと不安になるという声を聞きます。また、心をこめて丁寧な文章で誘ったのに「その日は無理です」あるいは「参加できません」と、たった一言のつれない返事が来て気落ちした経験を持つ人もいます。顔を合わせて返事をすれば、言葉の足りなさを声や表情が補ってくれるのですが、メールでのやりとりでは不足を補うものが何もありません。短い言葉は、さらに冷たさを身にまとって相手の心に届いてしまうのです。メールなどのように体温が感じられないやりとりにおいては、あたたかみのある表現を心掛け、大和言葉を使ってみるとほのかなぬくもりを伝えることができるでしょう。

それでは次の言葉を言い換えてみます。まず、「了解です」は、「お忙しい中、ご連絡いただきありがとうございます。確かに承りました」とすれば連絡してくれたことへの感謝の気持ちが伝わるとともに相手に安心感を与えます。「参加できません」は、誘ってくれた人への感謝の気持ちを伝えたうえで、「心ならずも、よんどころない事情によりうかがうことが叶いません。次の機会を楽しみにしております」などとすると、断りがやわらかく届きます。「よんどころない」というのは、「よりどころがない」という言葉の変化した言い方で、そうするより方法がない、やむを得ないという意味です。
 「無理です」という言葉も使いがちですが、「安請け合いしてかえってご迷惑をおかけしては申し訳ないので」「身の丈を超えたご依頼ですので」「私には荷が勝ちますので」などという表現を使うと柔らかく響きます。
 
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次に話し言葉について、漢語からの言い換えをあげてみます。漢語は簡潔に表現できるため便利ですが、耳から聞いてすぐに理解できないこともあります。たとえば、何時ごろ帰社されますか?と聞かれると「きしゃ」の意味をすぐに把握するのは難しいことです。何時ごろお戻りになりますか?と聞かれれば瞬く間に意味を掴むことができます。大和言葉を使うと伝わりやすくなるというよい点のほか、表現がやわらかくなるという特徴があります。「恐縮ですが」は「恐れ入りますが」と言い換えられます。同じように「ご住所はどこですか?」は「お住まいはどちらですか?」に。「ご協力をお願いします」は「お力添えをお願いします」に。「妥協点を見つける」は「折り合いをつける」に。「ご尽力いただきまして」は「お骨折りいただきまして」に。「ご配慮いただきまして」は「お心配りいただきまして」に。「余裕のあるときに」は「お手すきのときに」に。「再会を楽しみにしています」は「お目にかかれる日を楽しみにしております」などと言い換えることができます。
 
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日本語には新しい言葉を作る力があり、新しい時代にふさわしい新しい言葉も次々に生まれています。新しく生まれる言葉とともに、いにしえの人が残してくれた言葉を大切に使い、また次の世代に引き継いでいきたいと思います。 

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