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視点・論点 「北朝鮮核実験と国際社会」

関西学院大学教授 平岩俊司

 本年の年明け早々、1月6日に、北朝鮮は4回目の核実験をおこないました。北朝鮮は、はじめての水爆実験としていますが、爆発の規模から、水爆実験としては失敗だったのでは、そもそも水爆実験ではなかったのでは、など懐疑的な評価が一般的です。とはいえ、それが水爆実験ではなかったとしても、核実験という暴挙は国際社会への明確な挑発行為ですし、北朝鮮の核武力が徐々に増強されていることは間違いありません。
 今回の実験は、過去三回に比べて、事前にその兆候が見られず、突然行われたとの印象も強く、国際社会はその対応に追われることとなりましたが、現在では、国連を始めとして、北朝鮮に対する新たな制裁を目指して調整が続いています。今日は、核実験を強行した北朝鮮の目的は何か、それに対して国際社会はどう向きあうべきかについて考えたいと思います。

まず、北朝鮮がなぜこのタイミングで核実験に踏み切ったのか、について考えたいと思いますが、そのためには、今年5月、実に36年ぶりの開催が予定されている第7回朝鮮労働党大会との関係を考える必要があります。
 前回の第6回朝鮮労働党大会は1980年に開催されましたが、この大会では、先代の金正日総書記が、初代の最高権力者金日成主席の後継者として登場した大会でした。ところが、その後1980年代後半に東西冷戦は終焉します。ソ連邦も解体してしまい、北朝鮮にとって中国だけが唯一の後ろ盾となったのです。この過程で金日成主席が死亡し、金正日政権は東西冷戦の終焉というまさに非常事態の中でスタートすることになり、いかに北朝鮮の体制を維持するかが喫緊の目標となったのです。具体的には、北朝鮮にとっての脅威であるアメリカにいかに対抗するか、さらには経済をいかに立て直すかが課題とされました。先軍政治、核、ミサイルへの野心などは、まさに危機管理体制下の政策でしょう。このような過程の2011年12月、金正日総書記が急逝したため、翌2012年4月に3代目となる金正恩第一書記が自らの政権がスタートし、本年5月に党大会を開催するわけです。金正日政権は、まさに非常事態に対処するための危機管理体制だったからこそ党大会を開催しなかったということになるのでしょうが、今回党大会を開催するということは、非常事態が収束したことを宣言することになるはずです。そのためにはアメリカの脅威が解消したこと、南北関係も進展し、さらには経済の再建など、金正恩政権4年の具体的成果を強調しなければならないはずです。
 このように第7回党大会で強調できる成果を求めてか、北朝鮮はここ最近対話路線に傾いていました。昨年8月の非武装地帯での地雷爆発に端を発して南北関係は一時的に緊張が高まりましたが、北朝鮮の求めに韓国が応じて南北高官級協議が開催され協議が続けられることになりました。また、3度目の核実験、張成沢粛清などによって冷却化が指摘されていた中国との関係も、昨年10月の朝鮮労働党創建70周年の記念行事に中国から劉雲山政治局常務委員が出席したことで関係修復が印象づけられていました。さらに北朝鮮は、昨年の早い時期から、いわゆる「人工衛星」発射実験を示唆していましたが、南北関係、中朝関係の回復を念頭に、事実上のミサイル発射も自制していました。ミサイル発射、核実験を自制することで国際社会との関係を調整することができれば、国際社会との経済関係を構築し北朝鮮の経済を再建できる、との判断もあったでしょう。ところが、こうした流れに終止符を打つように核実験を強行したのです。

 今回の核実験は昨年12月15日に金正恩第一書記が命令したとのことですが、その直前の12月12日、北朝鮮の女性音楽グループ「モランボン楽団」が北京公演をキャンセルして帰国しました。また、12月13日には、南北高官級協議も決裂しました。その直後、金正恩第一書記は核実験を指示したのです。モランボン楽団の公演中止の理由として、金正恩第1書記による水爆保有への言及や、公演の舞台背景にミサイルが誇示されていたことに中国がクレームをつけた、などが指摘されていますが、いずれにせよ、北朝鮮には中国の姿勢が米国をはじめとする国際社会に近いと写ったでしょう。そうであれば、中国は今後より多くの譲歩を求めてくるかもしれないし、ましてや米国をはじめとする国際社会との仲介役も期待できない、との思いが北朝鮮にはあったでしょう。さらには南北高官級協議も思い通りに進みません。このような状態が続けば党大会までなんの成果も得られないし、それでは第7回党大会で非常事態の収束を宣言できません。それならばこのタイミングで核実験をよりインパクトのある形で行い、事態を流動化させたい、との思いがあったと言ってよいでしょう。もちろん北朝鮮は米国の姿勢変化が難しいことは十分承知しているはずです。しかし米国との対話が難しいとしても、自らの核武力能力を内外に鼓舞することで、対米安全保障における成果とできるはずです。
 
 現在、国連安保理では北朝鮮への新たな制裁が検討されています。しかし、過去の事例からも明らかなように、制裁が真に効果を発揮するためには、北朝鮮に最も影響力のある中国が真剣に取り組む必要があります。今回中国は北朝鮮の核実験を止められませんでした。中国は、顔に泥を塗られるような形で自らの北朝鮮に対する影響力の限界を示すことになり、当初「断固として反対する」として北朝鮮を厳しく非難していました。しかし、時間の経過とともに、中国は慎重な姿勢を示し始めました。それに最も不満を持ったのが韓国でしょう。朴槿恵大統領は政権発足当初から北朝鮮問題における中国の役割を高く評価して中国との関係強化につとめてきました。韓国は今回、昨年8月の南北高官級協議によって中断した拡声器による心理戦を再開するなど北朝鮮に厳しい姿勢で臨む覚悟を見せていますが、その朴槿恵大統領が中国の消極的姿勢に不満を表明するのは当然でしょう。
 一方ロシアもまた慎重な姿勢を強調しています。あらためて指摘するまでもなく、中国、ロシアにとって北朝鮮問題は、米国との関係を意識せざるをえない問題です。中国は南シナ海の問題で、ロシアはウクライナの問題でそれぞれアメリカと微妙な関係にあります。中国、ロシアを含む国際社会の協調なしに北朝鮮の挑発行為を止めることはできませんが、中国、ロシアを説得するためには、アメリカだけでも、韓国だけでも、さらには日本だけでも難しいことは間違いありません。やはり日米韓の協力が必要なのです。
 日本と韓国の関係が難しい状況にあったことは事実ですが、昨年末、日韓関係も回復基調にもどり、アメリカもそれを歓迎しています。日米韓の枠組みの重要性をあらためて認識し実践していくことができる条件は整っています。日本、アメリカ、韓国は日米韓の協力関係を強化するとともに、中国、ロシアを含めた国際的協調体制で北朝鮮の挑発行為に臨む必要があるのです。そのための日米韓の役割はきわめて大きなものでしょうし、今後の東アジア、世界の中での日米韓の重要性と意味が試されているといっても過言ではないのです。

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