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弁護士 福井健策
 
人工知能=AIがブームです。コンピュータが将棋でプロ棋士を圧倒しつつあるとか、自動運転カーの実用化が近い。あるいは、大手銀行がコールセンター業務を巨大コンピュータに委ねるといった、これまで人間の領域だった分野に進化したAIが進出するという話題が、その中心です。

こんな予測をご存じでしょうか。オックスフォード大学のふたりの研究者が、20年以内に現在の人間の職業の47%までが、人工知能とロボットに取って代わられるという結果を発表したのです。
 
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ご覧頂いているのが、その中でも機械に奪われにくい、まだまだ人間が活躍するとされた職業の例です。なんだか弁護士もありますね。法律家の一員としてはうれしくもある反面、本当か?という気もするところです。さて、人類の職業のおよそ半数が機械によって代替可能とされる中、注目は、医師や小学校教師と並んで、上位に作家や音楽家のようなクリエイター達がランクされたことです。
そう聞いて納得する方も多いかもしれませんね。創作とは感性とひらめきです。それは機械では代替できない人間の最後の聖域だろうとも思えます。まあ元々経済的には必ずしも楽でないことで知られる芸術や創作分野ですので、職業としてはむしろ安泰と言われると、何となくほっとする気もします。
しかし、本当にそうでしょうか。ここで皆さんにふたつの曲の演奏を聞いて頂きましょう。
最初の曲です。[Invention 開始36~50秒付近]
次にこちらです。[JSバッハ 開始26~40秒付近]
これは何かといえば、一方はかのヨハン・セバスチャン・バッハの作品です。そしてもう一方は、そのバッハと似た作風で作曲するように設計されたコンピュータ・システムが、自動作曲した曲なのです。
皆さん、一体どちらが本物のバッハか聞き分けられたでしょうか。正解は、今流れている後の曲の方が本物のバッハで、先にお聞き頂いたのが自動作曲なのですが、実は、講演などでふたつを聞き比べて頂くと、しばしば聴衆の予想は見事に五分五分に分かれます。   
人工知能が作ったとはなかなかわからない。実際、コンサートで演奏され絶賛を博したこともあるそうです。そして現在、こうした機械作曲を利用して、BGMを無償提供しているインターネットのサイトなども登場しています。
アップルコンピュータの創始者・スティーブ・ジョブズは、「創作とは既存の物事の結びつけに過ぎない」と述べています。もし本当にそうなら、それこそコンピュータのお手の物ということなのでしょう。
ショートショート小説の名手、星新一はご存じですね。現在、彼の全作品を分析してAIにスタイルをマスターさせ、短編小説を自動生成させようというプロジェクトが進行中です。小説はまだ実用レベルには少し時間がかかりそうですが、とっくに実用化されている分野もあります。それはスポーツなどの短報記事です。アメリカでは大手通信社のAPなどが、コンピュータが自動生成したニュース記事を既に多数配信しています。
また、ストリートビューもご存じですね。インターネットの巨人グーグルが、世界中の街並みの写真を専用車に搭載したカメラでほぼ自動撮影し、ネットでどこでも誰でも見られるようにしたサービスで、大きなビジネスになっています。
更に創作とは違いますが、コンピュータ上のアイドルが曲を自動で歌唱・演奏してくれる、「ボーカロイド」と呼ばれるソフトウェアも大人気です。どうも、人間の特権と考えられて来た創作や実演の分野にも、コンピュータは十分進出しているようですね。
もちろん出来は玉石混交です。まだまだプロの作品には遠く及ばない分野が大半でしょう。しかし驚くべきは、そのAIが作品を生み出すペースです。先ほどの自動作曲でいえば、現在スペインのIAMUSと呼ばれるシステムは、1秒で1曲のクラシック曲を作曲できるそうです。なにせ機械は疲れません。1秒1曲で休まず作曲を続ければ年間3000万曲以上。これは、日本音楽著作権協会・JASRACがデータベース上で管理している世界中のプロ楽曲の10倍にもあたる数なのです。つまり、数だけでいえば1つの電子作曲家が1ヶ月で、全世界の音楽家の数十年分に匹敵する程の作品を作れるということです。
そうした作品について、聴き手がどう評価したか情報を集めて内容を改善して行くことは、コンピュータには向く作業です。特に、個々のユーザーごとに過去に視聴した作品やそれへの反応ぶりを把握して、彼らが最も求めそうな作品をテーラーメードで用意してぶつけることは、まさにAIの独壇場でしょう。たとえばあなた向けに特別に構成された新聞、学習教材、ゲームや音楽。バッハや宮澤賢治のような天才をゼロから作り出すことは出来なくても、市場が求める程度のレベルのコンテンツを膨大に生み出すことなら、遠からず人間よりもうまく出来そうな気さえするのです。
もしそうならば色々なことが気になって来ます。
まず、コンピュータが生み出すことで作品内容はどう変わるか?人々のプライバシーや感情を傷つけたり、既存の作品の盗作的なものが増えてしまわないか。逆に、そうした事態を惹き起こさないよう、事前にガイドラインで自己規制された当たり障りのない作品ばかりにならないか。
また、コンピュータが生み出す作品に、果たして著作権というものは生まれるのか。今、世界では扱いが割れています。もしもそれほど膨大に作品に著作権を認めてしまうと、個人のクリエイター達がそのどれかと似てしまうことを恐れて、新しい作品を作りにくくならないか。
更に進んで、機械に仕事を奪われて、クリエイター達の大量失業はあるのか?それとも、むしろテクノロジーという新しい武器を駆使して、機械が及ばないようなもっと先の創造へと歩みを進めているのか。
そして最後に、その生み出される膨大なコンテンツを握るのは、果たして誰か?ということです。
現在有力だと考えられているのは、グーグルやアップルなど、プラットフォームと呼ばれるIT大手たちです。彼らの元には世界中から10億人単位のユーザーが集い、その発言や視聴履歴といったデータが集積されています。人工知能を開発してコンテンツを作らせるのに、プラットフォーム達ほど有利な存在はいないでしょう。現に各社は、AIの開発に巨額の投資を続けています。それは大きな可能性に満ちていますが、反面、一握りの民間企業への過度な情報と権限の集中を招いてしまわないか。
人工知能が生み出すコンテンツの奔流。その流れは恐らく止められません。ワクワクしながらも、慎重にゆくえを見定めたいと思います。

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