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視点・論点 「国連安保理入りと平和構築」

東京大学大学院 准教授 東 大作

 今年1月から、日本は国連安全保障理事会、いわゆる安保理の非常任理事国として活動を開始しています。安保理に日本が参加するのは今回で11回目。アメリカ、ロシア、フランス、イギリス、中国という5つの常任理事国を除けば、最も多く安保理に参加している国で、任期は2年です。今日は、これまで私が関わった国連日本政府代表部での活動や、アフガニスタンなど紛争地での平和構築に関する経験を踏まえ、安保理メンバーとして平和構築に関しどのような発信を日本としてできるか、考えてみたいと思います。

安保理の権限は広く、国連が世界の紛争や平和の問題に関わる時には安保理が決定を行い、国連加盟国や国連組織がどう行動するかを決めていきます。たとえば、国連PKOミッションとよばれる、平和維持部隊を含む国連ミッションを派遣し、紛争後の新たな国づくりを支援することも、安保理が決定します。また平和や安定の脅威と認定した国や組織、個人に対して経済制裁などを実施する権限も安保理にはあります。
 冷戦の終結後、世界の紛争の95パーセント以上は、いわゆる内戦だと言われています。こうした内戦の紛争当事者が和平合意に至った後、国連安保理に、国連PKO部隊の派遣を要請して、治安や安定を維持しつつ、新たな国づくりを行う試みが広く行われるようになりました。こうした紛争後の新たな国作り、統治機構を作る活動は、紛争後の平和構築活動、Post-Conflict Peacebuildingと呼ばれています。
 
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冷戦後、安保理の決議を受けて、国連PKOミッションと呼ばれる、国連PKO部隊と文民の混合チームを派遣し、紛争後の国家の新たな憲法作り、選挙の実施、官僚機構や軍、警察など治安組織の育成などを、国連が中心となって支援してきました。具体的には、カンボジア、コソボ、東ティモール、シエラレオネ、ブルンジ、南スーダンなどで、紛争後の平和構築が進められてきました。
日本も1990年初頭に行われたカンボジアの平和構築に参加して以来、世界の平和構築活動に関与してきました。その一つが2001年から始まったアフガニスタンでの国家再建です。しかしアメリカが主導したイラクやアフガニスタンでの国家再建の取り組みは、その後治安が悪化し、大きな困難に直面しています。
私は2008年に、アフガニスタンと東ティモールで現地調査を行い、その結果を「平和構築」という本にまとめました。その中で、アフガニスタンにおいては、タリバンなど反政府武装勢力と和解することが、アフガンの平和のためには不可欠であるという主張を行いました。
 
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その後日本が支援を主導する形で、アフガン政府が和解を進めるプログラム作りが行われ、アメリカ、イギリスなど主なドナーも政治的な和解の必要に賛同し、200億円近い資金を出し合い新たな和解プログラムとアフガン和平評議会などタリバンとの政治交渉に向けたメカニズムが発足しました。私も、2010年の一年間、国連アフガニスタン支援ミッションの和解再統合チームリーダーとして、これを支援しました。現在もこのメカニズムを使い、断続的にアフガニスタン政府とタリバンの間の交渉は続けられています。
こうした現場での平和構築に加え、日本はニューヨークの国連本部においても、平和構築について取り組みを行っています。私は、2012年から2年間、外務省と東京大学の人事交流で、国連日本政代表部の公使参事官として、和平調停や平和構築などについて統括業務に携わる機会がありました。当時、日本は安全保障理事会のメンバーではありませんでしたので、どうやって日本の存在感を国連加盟国の間で示していくかが重要なテーマでした。そのため、日本政府代表部では、色々なテーマについてセミナーを主催し、加盟国や国連事務局の議論を深める活動を行っていました。たとえば「制裁及び軍縮・不拡散に関するセミナー」を2011年から一貫して開催し、多くの参加者から好評を得ています。また2013年には国連PKOのエンジニア部隊の役割に焦点を当てたセミナーを主催し、日本の自衛隊が南スーダンなどで行っている活動の成果を共有しました。
平和構築に関しては、「国家再建における包摂性に関するセミナー」というセミナーを、2013年6月と2014年4月の二回にわたり、タンザニア政府と共催し、こちらは私も担当しました。会場には国連加盟国や国連事務局の人を中心に150人以上の参加があり、関心の高さが伺えました。こうしたセミナーから見えてきた教訓の一つが、「紛争下で和平調停を行う際には、ある程度参加する勢力を限定することは合意を得るために必要かも知れないが、和平合意が結ばれた後に国家建設を行う際には、なるだけ幅広い民族や政治勢力が参加することが不可欠である」ということでした。

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 こうした教訓を踏まえ、2014年に行われた和平調停に関する国連総会決議において、和平合意後の実施時期における包摂的なプロセスの重要性を強調する文言を日本政府が提案し、ロシアなどの国と協議を重ねて、最終的な決議に盛り込まれました。
また日本は2011年から国連平和構築委員会の中にある教訓作業部会の議長を務めています。

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2014年には、国連PKOミッションなどが撤退した後、如何に持続的に平和を構築するかについて加盟国間で会合を重ね、最後に議長国として日本が報告書を提出しました。その中で、国連ミッションが撤退した後、包摂的な政治対話が失われがちであることや、財政的な支援が途切れがちであることなどを指摘し、当該国と国際社会が共通の目標を設定し、国際社会は財政的支援を続け、当該国は国内の幅広い勢力が参加する枠組みを維持することの重要性などを指摘しています。
このようにニューヨークで行ってきた知見を集積する活動と、日本がこれまで平和で構築の現場で行って来た支援活動をうまく重ね合わせて、日本の平和構築の経験や教訓を世界に発信していくことは、これから安保理のメンバーとして日本が存在感を示していく上で重要なことだと思います。
たとえば、長年内戦に苦しみ2011年に独立した南スーダンに対して、日本は主要ドナーとして積極的な支援を続けています。国連PKO部隊に参加している自衛隊が首都のジュバで道路の整備を行い、また日本国際協力機構JICAがナイル川を渡る橋の建設や、ジュバ河川港の整備、ジュバ市の給水改善や南スーダン全土の農業マスタ―プラン作りなどを展開しています。
南スーダンでは、2013年末に大統領派と副大統領派の抗争により内戦状態に突入し、多くの国内難民が発生しました。2015年8月に双方が和平合意し、権力の分有による国作りが再開されていますが、異なる民族間、派閥間の対立をどう解消し、国民和解を進めるかが大きな課題になっています。JICAでは、今年1月16日から23日まで開かれる、南スーダン全土10州から選ばれたサッカーチームによるトーナメントと陸上競技会の運営を支援し、国民が一つにまとまる機会を作り出そうとしています。こうしたスポーツを通じた支援は、スター選手を共に応援することや、異なる民族が融合したチームを作ることで国民がまとまっていくなどの効果があります。JICAは今年から数年かけてスポーツ支援を継続し、2020年のオリンピックで、南スーダンの代表選手が東京に来ることも目指しています。
またJICAはNHKインターナショナルと協力し、南スーダンでの公共放送作りも支援しています。
 
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具体的にはスタジオや機材の提供、公正な記事や番組を作るノウハウを伝授する研修の実施などです。政治的な対立から独立した公正で公平な放送を出すことは、南スーダン内部の和解と平和の確立のためには極めて重要であり、こうした取り組みは日本の平和構築における得意分野になる可能性があります。
今年8月末には、日本がアフリカ首脳を集めて行う国際会議、TICAD6が、アフリカのケニアで開催され、日本の首相も参加します。このTICAD6を前に、例えば南スーダンの放送局に世界の平和構築の専門家や国連の幹部を招待し、南スーダンをはじめアフリカの平和をどう支援するかを語り合い、南スーダン放送局から世界に発信する。そして今年7月の安保理の議長国である日本が連携して、国連安保理での公開討論の議題にすることなども一つの案だと思います。ニューヨークの国連本部と現場の双方から平和構築について日本発のメッセージを出していくことができるのは、安保理にいる大きなメリットであり、平和国家日本の外交を示す具体策でもあると思います。

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