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千葉商科大学 専任講師 常見 陽平

 大学生の就職活動、「就活」の実施時期が問題になっています。今年度から時期が繰り下げになったのですが、ルールを守らない企業が続出し、混乱しました。経済団体も再度見直しを行う姿勢を見せています。この問題の本質は何なのでしょうか。今日は、この問題について考えてみたいと思います。

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 学生の就活の早期化・長期化を是正し、学修時間の確保、留学の促進のために、今年度より採用広報活動(つまり企業説明会や求人広告による告知を行う時期)が大学3年生の12月から3月に、面接などの選考活動が大学4年生の4月から8月にそれぞれ繰り下げになりました。
 
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しかし、民間の就職情報会社の調べによると、解禁前の6月1日時点で3割強、7月1日時点で約5割、解禁日の8月1日時点で6割強の学生が内定を持っていました。時期が変わっているので、単純比較はできませんが、採用広報開始後3ヶ月間で3割の内定が出るのは、例年と比べると異例です。フライングが行われていたことは明らかです。
8月1日以降に内定を出し、ルールを守った企業も、それよりも前に「面談」と呼ばれる表現で、事実上の「面接」を行い、学生に接触し、選考し、つなぎとめるなどの行為を行っていました。
 フライングなどで混乱する中、内定者を確実に入社させるために、他社に行かないように脅す「オワハラ(就活終われハラスメント)」も問題となりました。文部科学省が7月に大学・短大82校を対象に行った調査によると、7割の学校でオワハラの相談があったことが明らかになりました。
 「採用選考に関する指針」を定めている経団連の榊原会長は、企業に対する調査を行った上で、就活時期を見直す可能性があるとコメントしました。混乱したことに対し、早期に対応する姿勢は評価できます。ただ、国や経済団体が意思決定したことを、混乱したからと言って、こんなに簡単に見直すことにも疑問が残ります。
 今回の就活時期繰り下げは、大学や一部の経済団体からの要請を受けてのものでした。正式には2013年春に内閣府の若者・女性活躍推進フォーラムで検討され、同年4月に安倍晋三首相が経済団体首脳に要請しました。目的として学修時間の確保、留学などの促進などが掲げられていました。
 このような大義名分が掲げられたのであれば、「混乱したから見直す」というのではなく、「これらの目的を達成するために見直す」という話でなければ、筋が通りません。
 もっとも、この学修時間の確保と、留学の促進については、就活時期を変更したところで、達成しにくい目標だったといえます。目的と手段がズレていたのです。
 今回のスケジュールの場合、卒業論文、卒業研究に重なります。公務員試験や教育実習にも難しくなりました。本当に学生のことを考慮していたといえるのでしょうか。
逆に早期に内定を出した方が、学生が学業に集中できるという考え方もあります。
 学修時間を用意したところで、学生が勉強するかどうかについては、大学や学生の姿勢にもよるでしょう。面接で、学業のことがあまり質問されないことも問題です。
学業を阻害しているものは就活だけでしょうか。入学時からずっと学業を阻害するのはアルバイトです。仕送りもお小遣いも減り、経済意的問題から週に4、5日アルバイトしなければ学生生活が成り立たない学生達がいます。経済的に恵まれていても、人手不足から強引にシフトを組まれるなどの「ブラックバイト」も問題になっています。
なんでも就活を悪用扱いにすれば良いわけではありません。
 留学の推進についても、就活や、学生の内向き志向だけでなく、経済的な理由が大きいです。
 
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全国大学生協協同組合連合会が2014年秋に調べた「第50回学生生活実態調査」によると、「海外留学への意識」については、大学入学後に留学経験が「ある」学生は約1割でした。
 
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入学後留学経験のない9割の内訳をみると、「在学中にしない」が7割弱となっています。内訳は「留学したいができない」が3割、「留学したいと思わない」3割強となっています。「留学したいができない」学生を100とする内訳をみると「経済的な理由」は約6割と高い割合となっています。
学修時間の問題も、留学の推進の問題も、経済的な事情が大きいのです。就活時期の繰り下げという「手段」はこの2つの「目的」に効果的ではなかったということがいえます。
 なお、この就活時期の見直しについては、経団連の「指針」がいつも話題になり、その法的拘束力がないことが問題になりますが、同団体だけを悪者にするのも解決になりません。政府はもともと、国内の437の経済団体に、就活時期についての要請を出していました。先ほど触れた若者・女性活躍推進フォーラムでも経団連関係者は、就活時期繰り下げ大して否定的でした。中堅・中小企業の採用が上手くいかなくなるからというのが理由でした。実際、そのようになりました。

 そもそも日本の就活の歴史とは、時期論争の歴史です。この議論は、1920年代から続いています。1997年に就職協定が廃止になった時も、実態との乖離、インターネットの普及、規制緩和が理由でした。いまは2015年です。大学の数が780にものぼり、学部の種類は700あります。産業構造も変化しています。様々な利害が絡みあう中、ルールの策定の難易度は高くなっています。
 なお、この問題については、卒業後に就活をすれば良いという意見が出るわけですが、経済的な問題を抱える学生が卒業後、ずっと仕事探しをするという状態になり、ますます非正規雇用者が増える原因にもなり、現実的とは言えません。新卒一括採用のおかげで、若年失業者は、先進国の中では低くなっていると評価されています。
 ここは、新卒一括採用というシステムと、行為としての就活を分けて考えるべきです。新卒一括採用は未完成、未経験の若者の可能性にかける行為です。今回の混乱と
その見直し論においても、このシステムが強固であることが証明されたのではないでしょうか。
問題は、学生に過度に負荷のかかる就活の仕組みです。学生が企業に騙されず、業界・企業を理解し、納得のいく最初の一歩を踏み出すことができること、過度な負荷をかけないことが大事なポイントです。
 「時期」「だけ」の論争は不毛です。企業と学生の出会い方を変える議論をするべきです。自由応募、自由競争に過度に依存した今の仕組みが、学生に負荷をかけています。「仕事を配る」という仕組みを検討するのも手です。学校推薦、紹介・斡旋などのモデルを導入することを検討するべきです。
 また、学修機会の確保、留学の推進ということをするのであれば、学業のことを面接でより積極的に説明するべきでしょう。
 就活とは別に早期から企業社会、国際社会を理解する場の充実が必要です。具体的には1年生、2年生のうちからのインターンシップや留学を促す仕組みも検討する価値はあります。これは就活の早期化ではありません。社会の現実を知るためです。
勉強する時間を確保するためには、学生の経済事情の解決こそ必要でしょう。
 今回の混乱は、学生や企業の利害を考慮しなかったことが問題だと考えます。
タテマエ、キレイ事も結局学生、企業も困るのです。同じ失敗を繰り返してはいけないのです。
 学生、企業、大学関係者、政治家それぞれが、ポジショントークをこえて、本音を主張する勇気を持つべきでしょう。あなたは、どう思いますか?

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