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日本点字図書館理事長 田中徹二
 
点字図書、録音図書2万タイトル以上を保有し、全国の視覚障害者に年間約26万タイトルを貸し出している日本最大の図書館が東京の高田馬場にあります。日本点字図書館です。私は2代目館長としてこの図書館に奉職して25年になります。
きょうは現在視覚障害者が読書をするときの環境がどうなっているのかについてお話したいと思います。

我が国には約30万人の視覚障害者がいます。この中で重度の視覚障害者で文字が読めない人たちは読書するときに指で点字を読むか、耳で録音図書を聞くかの方法しかありません。ところが、このような本は販売されていませんので、点字図書館がボランティアにお願いして、点訳してもらったり、録音してもらわなければなりません。
録音図書の場合はボランティアが声を出して読むわけですが、漢字の読み間違いだけでなく、発声の訓練やアクセントなどに注意しなければなりません。また、点訳の場合も、点字を書く規則がたいへん難しく、それを勉強してもらわなければなりません。視覚障害者が読める本を作るのがいかにたいへんかお分かりになると思います。
 
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さて、日本点字図書館は今年11月に創立75周年になります。創立した当初は、全国の点訳ボランティアが点訳してくださった点字図書をサービスするだけでした。創立して約20年後になって、録音図書を貸し出せるようになりました。
しかし録音するのに点字図書館のスタジオを使っていましたが、ボランティアは一週間に一度しか録音できませんでした。ボランティアの数が多く、順番待ちをしなければならなかったからです。点訳にも時間がかかりましたので、一冊の本が出来上がるのに半年、長いときには1年もかかっていました。
ところが私が図書館に来た25年前頃から図書の制作にパソコンが導入されようになりました。始めは点訳するのにパソコンを使いましたが、2000年代に入って、録音にパソコンが使えるようになりました。そしてインターネット回線を通してそのデータを送受信できるようになったのです。
ボランティアの方はほとんどが家庭の主婦ですが、手の空いたときに自宅で録音でき、その録音データを図書館に送信できるようになったので、録音の本がたいへん早く出来るようになりました。
一方、パソコンの操作ができれば視覚障害者はインターネットを介して、自分のパソコンにその録音データをダウンロードして聞くことができます。たいへん便利になって、しかも早く本を読むことが出来るようになったのです。このシステムが日本点字図書館で実用化したのは10年少し前のことです。
ところが、いまではこのシステムが全国の点字図書館を巻き込んで、インターネット図書館「サピエ」になっています。5年前に発足したのですが、いまでは読書好きの視覚障害者にとってこの「サピエ」は、なくてはならないシステムになっています。
 
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この「サピエ」には毎日数10冊の点字書や、録音書がアップされるようになっています。数年前まではとても考えられなかった状況です。
「サピエ」では週刊誌がアップされるようになりました。週刊誌は10誌以上が毎週「サピエ」にアップされています。週刊誌の場合、翌週には次の号が発刊されますので、一週間の間に録音が終わっていなければなりません。それも記事やコラムだけではなく、表紙やグラビアの説明まで丁寧に入っています。
どうしてそんなに早く録音が出来るのか不思議に思われるかもしれません。しかし自宅で録音を出来、インターネットで送受信出来れば可能になるのです。
例えば、10人のボランティアがチームを組んで1人ずつ自分が担当する記事やコラムだけを録音します。出来上がったデータをチームの責任者に配信します。責任者は10人のボランティアが作った録音データを構成し、原本通りに順番に並べます。そして1冊の週刊誌の録音データが出来上がり、それを「サピエ」にアップすればいいのです。
こうして出来上がった週刊誌は、視覚障害者は目の見える人と同じ感覚で読むことができます。読みたい記事やコラムだけを選んで読むことができます。しかも聞いていて面白くない記事だと思えば、次の記事やコラムに瞬時に飛ばすことができます。
それが出来るのも、「デイジー」という編集ソフトを使っているからです。アナログ時代の録音ではとても考えられなかったことが現在では出来ています。ほんの5年前までは週刊誌読めるようになるなどと思ってもいませんでした。それがいまでは週刊誌のアップが1日や2日遅れただけで苦情が寄せられるほどになっています。それを聞くと視覚障害者が技術革新による恩恵を十分に満喫していることがよく分かります。
このような状況下で日本点字図書館の舵取りが出来ることに私はたいへん幸せを感じています。 
 

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