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NPO自殺対策支援センター ライフリンク代表 清水康之

9月10日は、WHOが定める「世界自殺予防デー」です。日本でも、10日から16日までが「自殺予防週間」となっています。
また来年は「自殺対策基本法」の施行からちょうど10年の節目にあたるため、現在、この10年間の成果や反省を踏まえた「自殺対策の新たな時代を拓くための大改革」が行われているところです。
そこで今日は、その大改革のポイントと、改革が必要とされている自殺の現状について、お話ししたいと思います。

まず、こちらをご覧ください。
 
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日本の自殺者数の年次推移です。
1970年代以降、2万人台の前半で推移していた年間の自殺者数は、98年に急増しました。97年に、山一證券や北海道拓殖銀行などの大手金融機関が相次いで破たんし、景気の悪化にひきずられるようにして、その翌年に急増。その後14年間、自殺が「3万人」を超える状況が続いてきました。

社会的な対策が動き始めたのが、2005年。超党派の参議院議員が中心になって、自殺対策に関する緊急決議を行い、翌2006年に「自殺対策基本法」が成立しました。2009年には政府が、地域で自殺対策を推進するための基金を造成するなどして、少しずつ、しかし確実に、自殺対策が全国に広がっていき、その後2010年からは5年連続して、自殺が減少しています。

しかし、「減少」というのは、あくまでも年間ベースの話です。
自殺者数は失業者数などと違い、本質的には絶対に減ることがありません。
と言いますのは、失業者数というのは、失業状態にある人たちを数えますから、失業状態の人が増えれば失業者数は増加し、失業者の中から仕事に就く人が出てくると、逆に失業者数は減少します。まさに、その時々において、失業者数は「増えたり減ったり」するわけです。
他方、自殺者数は違います。一度自殺で亡くなった人が再び生き返ることはありませんから、例えば、ある年3万人だった年間自殺者数が翌年2万8千人になったのだとしたら、これは年間ベースでは2千人減っていますが、実際は「2万8千人また増えた」ということになるわけです。
つまり、「減少」といっても、実は「増えるペースが少し遅くなっただけ」に過ぎません。
日本では、この15年間だけで、実に46万人を超える人が自殺で亡くなっています。長崎市の全人口に匹敵する人数です。

こうした日本の自殺の現状は、世界的にも極めて異例で、人口10万人当たりの自殺者数を表す自殺率は、アメリカの2倍、イギリスの3倍と、先進主要7カ国で突出しています。
さらに、日本では20代、30代の死因の第一位が自殺で、20代においては、全死亡原因の約半数を自殺が占めています。
しかも、特別な人たちが特別な理由で亡くなっているわけではありません。生活苦や過労、いじめや病苦、精神疾患や人間関係の悩みなど、私たちの身近にある日常的な問題が切っ掛けとなって、多くの場合、複数の問題が連鎖する中で自殺に追い込まれているのです。

ここ数年、自殺が「年間3万人」を下回ったことで、メディアの多くが自殺対策についてあまり報道しなくなりました。それに伴い、社会的な関心も急速に低下しているのを感じます。
しかし、日本では昨年も、交通事故死者数の6倍以上、一年間で2万5千人、一日平均70人が、自殺で亡くなっています。非常事態はいまなお続いており、当然、こんなところで対策の手を緩めるわけにはいきません。

いま求められているのは、この10年程の間に、全国各地で行われてきた様々な先駆的な取組による知見や経験を広く全国で共有し、最新で最善の自殺対策が、全国どの地域においても実施されるようにすることです。
そのようにして「自殺対策の新たな時代」を拓くためには、課題が大きく3点あります。

ひとつ目は、政府の自殺対策推進体制の強化です。
自殺対策は様々な省庁が連携して行う必要があるため、これまでは、総合調整役として内閣府が担当してきました。しかし来年度からは、厚生労働省に移ることが決まっています。
厚労省は内閣府と比べて、人員も予算も、また権限もあります。そのため、推進体制の強化が期待されるわけですが、その一方で、これまで「地域作り」として取り組まれてきた自殺対策が「うつ病対策」に矮小化されないかという懸念もあります。
厚労省に設置される組織は、福祉と労働、生活と医療などの分野が連携して、総合的に自殺対策を推進できるよう、省全体を巻き込んだものにする必要があります。
また、これまで政府は、人材育成にしても、地域の自殺統計の分析にしても、自治体の自殺対策への支援を十分に行うことができませんでした。これをあらためるために、全都道府県に地域自殺対策推進センターを設置し、その機能を強化することも必要です。

2つ目の大きな課題は、自殺対策基本法の改正です。
現行の自殺対策基本法にも「自治体の責務」が明確に謳われていますが、実際は、自殺対策の取組状況は市区町村によって大きく異なります。自殺対策の地域間格差が徐々に広がっており、裏を返せば、住んでいる地域によって、自殺対策に関連する「様々な生きる支援」を受けられる人と受けられない人が出てきているということです。
全国どこに暮らしていても、すべての人が自殺の危機に追い込まれることのないようにするため、基本法を改正して、市区町村に「自殺対策行動計画」の策定を義務づけることが求められます。

そして3つ目は、地域自殺対策予算の恒久化です。
これまでの地域自殺対策のための予算は、毎年度毎年度、いつ打ち切りになるか分からない状況の中、かろうじて続けられてきました。ただ、自治体にとっては「いつはしごを外されるか分からない予算」ということで、例えば自殺未遂者支援のような、「重要ではあるけれども、一度始めたらなかなかやめることができない事業」には使いづらいと、結果的に、じっくり腰を据えて長期的に取り組むべき重要課題が敬遠される傾向にありました。
地域自殺対策に必要な予算は年間30億円と、陸上の「交通安全対策」関係予算の100分の1程度です。自治体が、地域住民の命を守るために、安心して長期的な戦略を立てることができるよう、政府は地域自殺対策予算の恒久化を図るべきです。
 
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このようにして、「政府の新たな自殺対策推進体制が、市区町村の計画作りを後押しし、地域の実態に即して立案された市区町村の計画が、安定財源によって実現される」。こうしたサイクルを確立することが重要です。3つの改革を一体的に行うことで、最新・最善の自殺対策が、ようやく全国に展開される枠組みが整います。
逆に言えば、3つの改革の内どれか一つが欠けてもうまくいきません。基本法を改正して、市区町村に自殺対策行動計画の策定を義務付けても、政府が策定作りの後押しをしなければ、市区町村にとって計画作りは大きな負担となり、「とにかく何でもいいから計画を作る」ということが目的になりかねません。
あるいは、せっかく地域の実状に即した内容の計画が作られても、それを実行に移すための財源がなければ、絵に描いた餅になってしまいます。

1998年に日本で自殺が急増した背景には、景気の急激な悪化がありました。今後、景気が悪化したときに、再び同じようなことが起きないようにするためにも、いまのうちに自殺対策の改革を推し進めておく必要があります。
景気が悪化したくらいで、大勢の命が奪われるような社会は、豊な社会とは言えません。
多くの国民の命が、毎日自殺によって失われている現実と正面から向き合い、「誰も自殺に追い込まれることのない社会」の実現に向けて、着実に歩みを進めていくこと。
自殺対策の新たな時代をいま、切り拓いていきましょう。

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