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視点・論点 「シリーズ "マイナンバー" 暮らしはどう変わるのか」

弁護士 水町雅子
 
今年10月から、住民票を持っているすべての人にマイナンバーが配られます。
現代では、個人情報を取り扱うことなく業務を行うことは、困難です。税務署では、「誰の収入がいくら」で、「税額がいくら」で、「いつ税金が納付されたか」を把握していますし、日本年金機構や健康保険組合でも同様です。
そして個人情報を扱うには、それが誰の情報かを正確に管理することが重要です。通常は、誰の個人情報かを確認するために、氏名・住所・生年月日・性別を用います。

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しかし、これらは、変更される可能性があります。この図のように、苗字や住所が変更されると、これだけでは同一人物かわからず、戸籍などを確認しなければならない場合があります。また「渡辺」の「なべ」の字のように、漢字表記の問題から、同一人物かわからない場合もあります。
 
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マイナンバーは、1人に1つしか付番されないので、この4つのデータが同一人物のものであると、正確・迅速に確認できます。つまり、マイナンバーを活用すると、長期間にわたって、複数の組織をまたぐ情報でも、正確に管理できるようになります。
このようなマイナンバーの効果によって、行政のミスの防止、無駄の削減ができますが、さらに、不正の防止、行政サービスの充実などにも役立ちます。例えば、マイナンバーによって、脱税を防止・是正することができます。
税務当局では、脱税の防止のために、すでにさまざまな取り組みを行っています。

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マイナンバーの導入前から、一定の収入を得た人は、税務署に、「確定申告書」などを提出しています。一方、給与・保険金・配当など、一定の支払を行った人は、税務署に、「源泉徴収票」などを届け出ています。このようにして税務当局は、お金を受け取った人からの情報と、お金を支払った人からの情報を突き合わせて、申告内容の正確性を確認します。
今後は、これらをマイナンバーで突き合わせられるので、現状では、見過ごされているかもしれない脱税を是正できるとともに、抑止効果も期待されます。
次に、行政サービスの充実についてです。今でもさまざまな行政サービスがありますが、受け手である国民から見れば、自分がどのようなサービスを受けられるのかが、わかりづらいのではないでしょうか。
マイナンバーを活用することで、これを簡単に調べられるようになることが検討されています。マイナポータルと呼ばれるWebサイトにログインすると、高齢者の方は、介護サービス、年金のお知らせなどを、子育て世帯は予防接種や子育て支援サービスなどを見られるようになり、自分で苦労して行政情報を調べなくても、「私向けのお知らせ」を受け取れるよう、検討されています。
また、現状の社会保障では、例えば、失業した人には「雇用保険制度」が、医療費の支払が高額な人には「高額療養費制度」などがあります。しかし、これらに当てはまらないものの家計が苦しい場合は、十分考えられます。医療費の支払は高額ではないものの、親の介護費・子どもの保育費を足し合わせれば高額であるなど、さまざまな状況がありえます。
この点、マイナンバーでは、制度をまたぐ情報連携ができるので、受け手である国民の状況を柔軟に踏まえた、制度横断的な行政サービスの導入も可能です。
さらに、将来的には、さまざまな展開が検討されています。例えば、引越し、結婚、相続の時には、銀行、カード会社、自治体、電気・ガス、年金など、さまざまな場所への届け出が必要です。これに対し、マイナンバー制度を活用できれば、インターネットなどで1度届け出ればよくなることも考えられます。
では、次に、マイナンバーの危険性について考えてみたいと思います。マイナンバー自体は、数字の羅列であり、仮にそれが漏えいしても、それだけで、人に知られたくない情報がわかるわけではありません。これに対し、収入や病歴などが漏えいすると、人に知られたくない情報がわかってしまいます。
しかし、マイナンバーを使うことで、「これが誰の情報であるか」が、正確に管理できます。つまり、マイナンバーを、個人情報の索引、目次として使うことができるわけです。そのため、マイナンバーが正しく使われないと、個人情報を不正に集約することができてしまいます。
もっとも、これはマイナンバーがなくても、起こりうることです。氏名・住所・生年月日などを使って、個人情報を集約することは、今でもできます。マイナンバーが導入されると、氏名・住所に変更などがあっても、同一人物だとわかるようになるわけです。
個人情報の集約は、正当な範囲内であれば、私たちの生活に必要です。個人情報が集約できなければ、脱税の調査も困難となり、不正が横行してしまいます。また社会保障の場面でも、例えば要介護者の状態、家族の状況、既往歴などが集約できなければ、適切な介護サービスの実施が難しくなる場合があります。
つまり、業務に必要な範囲であれば、個人情報を正確に把握することは必要です。しかし業務に必要な範囲を超えて、不正に個人情報を集約することは、プライバシーを暴くことにもなりかねず、許されません。
そこで、マイナンバー制度では、マイナンバーが悪用されないように、さまざまな対策を講じています。一番大きな点は、情報の限定です。マイナンバーは、社会保障・税・災害対策分野のうち、法律で明記された範囲でしか利用できません。そのため、これら以外の情報、例えば、借金額、行動履歴、前科などと紐づけることは、法律上認められません。つまり、違法行為がなされない限りは、マイナンバーがわかっても、その人の前科、借金の有無などはわからないわけです。
また、マイナンバーは、情報を一元管理する仕組みではありません。マイナンバー制度によって、個人情報がどこか一か所にまとめられるわけではなく、自治体や国などは、これまで通り、自分の業務に必要な情報を、個別に管理します。そのため、マイナンバーを知られても、芋づる式にあらゆる個人情報を盗み出すことは、できないようになっています。
このほかにも、さまざまな対策が講じられています。しかしいくら法律で規制しても、法律が守られなければ意味がありません。そのため、マイナンバーに関する不正を取り締まる、第三者機関が設立されました。
特定個人情報保護委員会といいます。違法行為があった場合は、立入検査・指導・勧告・命令を行ったり、被害回復のあっせんを行います。特定個人情報保護委員会は、独立性が高い機関で、同様の組織としては、公正取引委員会があります。つまり、公正取引委員会並みの組織が、マイナンバーの不正防止のために設立されたわけです。
マイナンバーは、電子行政の基盤として、行政のミス・無駄をなくし、私たち個人が行政サービスを利用しやすくなるよう、現状を変える可能性を持つ制度です。マイナンバーの効果が正しく発揮されるよう、私たちがメリットを実感できるように、マイナンバーの活用が望まれます。またそれ以上に、個人が被害を受けないように、徹底的な悪用防止が求められます。

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