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リクルート進学総研 所長 小林 浩

昨年12月に文部科学省は答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」を取りまとめました。この答申では、大学入試の改革が大きな注目を集めています、しかし、重要なのは大学入試を改革することによって高校教育と大学教育を、一体的に改革していこうと提言しているところです。では、なぜそのような改革が必要なのでしょうか。それは、国内外で社会環境が大きく変化しているなかで、求められる人材像や能力が変化しているということです。これからは、若者一人一人が「正解のない中で、主体的に取り組み、チャレンジできる力」が求められています。その一方で、近年大学進学率は5割を超え、大学教育が大衆化していると言われています。大学教育についても質をいかに高めていくかということが大きな課題となっています。

今回の入試改革の根底には、これまで大学教育、高校教育、それぞれで改革を行ってきましたが、結局大学入学者選抜の在り方を変えないと、教育がなかなか変わっていかない、という危機感があります。学校教育法では、学力の重要な要素として、“学力の3要素”というものを明確化しています。

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1つが、基礎的・基本的な知識・技能の習得です。
2つ目は、得た知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等です。
そして、3つめが 主体的に学習する態度です。
しかし、日本のこれまでの入試は、ペーパーテストによる知識の暗記・再生に偏りがちで、それを点数で序列化するといった選抜方法が、公平性を担保するものと考えられてきました。それに対し、今回の答申では、入学者選抜について、知識・技能の習得だけではなく、その知識を活用する力や、主体的に学ぶ力を含めた“確かな学力”を、多面的・総合的に評価していこうとしています。これは大きな改革です。

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では、具体的にどのように入学者選抜は変わっていくのでしょうか。現在、この入学者選抜の具体的方向性については、文部科学省「高大接続システム改革会議」に場を移して検討が進められています。本日は、検討中の中身も含めて、議論の方向性をお話ししたいと思います。
まず、答申では2つの新しい共通テストの導入が示されています。ひとつは、高校生が共通して学ぶ学習の達成度を測る「高等学校基礎学力テスト(仮称)」です。これは、入学試験ではなく、生徒が高校段階における基礎的な学習について、何をどこまでできるようになったのかを客観的に把握するものとしており、高校教育の質の確保、向上を主な目的としています。そのうえで、結果を調査書に記載して、進学時に生徒が基礎学力を提示したり、大学が生徒の基礎学力を把握するために活用することも想定するとしています。このテストは、高校の質の確保・向上が主な目的であるため、大学を受験するか否かに関わらず、できるだけ多くの生徒の参加を促すとしています。そのため、当初は高校の全ての生徒が共通して履修する国語、数学、英語から実施していく予定です。
もう一つが、大学入試センター試験に替わる共通テストとして、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」が検討されています。このテストは、従来の知識・技能の習得としての教科型試験だけではなく、得た知識を活用する力として、大学段階で必要とされる思考力・判断力・表現力等をより重視して評価するようなテストを検討しています。内容としては、従来の教科型の設問に加えて、教科・科目の枠を超えた思考力・判断力・表現力を問う「合教科・合科目型」、あるいは「総合型」といった問題を組み合わせた出題が検討されています。また、解答方法についても、これまでのセンター入試のような択一型だけではなく、複数の正解があったり、複数の問題が連動していて深い思考力を問うような選択問題の導入を目指しています。併せて、記述式の問題の導入可能性についても、検討されています。また、英語については、使える英語力を育むという観点から、読む、書く、聞く、話すの4つの技能を重視する方向性で議論が進められており、民間の検定試験の活用も検討されています。 
どちらの共通テストも、一度きりではなく、複数回の受験ができるようにするとしています。高等学校基礎学力テスト(仮称)については、自分の学力がどれくらい上がったのかの成果を実感できるよう、10段階以上の多段階で成績を提供する予定です。大学入学希望者学力評価テスト(仮称)についても、点数表示ではなく、段階別表示による結果の提供が検討されていますが、具体的にどのような段階になるのかについては、これからの議論になります。では、どうやって複数回受験できるようにするのでしょうか。方法としては、コンピュータ上で試験を受けられる仕組みが検討されています。そして、各問題の難易度を考慮して、複数回受験しても問題の難易度の差による不公平を排除するような仕組みが考えられています。
導入の時期については、高等学校基礎学力テスト(仮称)が平成31年度から、大学入学希望者学力評価テスト(仮称)については、平成32年度から段階的な導入を目指すとしています。今後の課題としては、コンピュータ上で受験する仕組み作りにどのくらい時間がかかるのか、正確に評価することが可能なのかといったことが挙げられます。大学入学希望者学力評価テスト(仮称)については、選抜にかかわるため、より高い正確性が求められます。問題の難易度、記述式への対応などがクリアできるのかについて、先に導入される高等学校基礎学力テスト(仮称)の実績を検証しつつ、具体的な導入方法を検討するとしています。現在検討されている内容については、まだ流動的なところがあり、年末に向けて最終報告をまとめていく予定です。
 重要なのは、この2つの新たな共通テストの導入だけではありません。文部科学省は、答申のかなで、大学は育成すべき人材像を明確にし、そのためにどうの様な教育を行っていくのか、そしてその教育を受けるためには、どのような志向や意欲をもった学生に来てほしいのか、どのような学力、意欲、活動実績等などの要件が必要なのか、こうしたことを社会に明示するよう提言しています。各大学は、その特色や強み、社会的役割などを踏まえて、入学者受け入れ方針であるアドミッション・ポリシーを明確化し、それに合った志願者の多面的・総合的評価を行うことが求められます。つまり、大学入学者選抜は、どのような学生に来てほしいかという大学からのメッセージになります。

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これまでの日本は、偏差値で序列化された中で、どうやって入学するかという「入学がゴール」の国といったところがありました。これからは、その大学で学んだ学生がどうなれるのか、つまり「卒業がゴール」の国に向かっていく必要があります。今回の改革は、知識の量を一点刻みで測定し、序列化することこそが公平だと考えてきた日本の文化を変えていこうとしています。そのためには、社会に対して丁寧な説明と時間が必要になるでしょう。今回の高大接続改革は入試の改革にとどまらず、そうした大きな変化のプロセスの中にあるということだと思います。
 

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