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ジャーナリスト 屋良朝博
 
沖縄に基地が集中する要因はいったい何なのでしょうか。いま沖縄で起きている米軍基地に対する全県的な反対運動の原点、原動力はいったい何なのでしょうか。沖縄問題のいまを考えてみましょう。

アジア太平洋地域に展開する米軍は約10万人です。その4分の1に当たる約2万5000人が沖縄に集中しています。これは韓国に駐留する米軍全体に匹敵する兵力なので、いかに沖縄に多くの米軍が集中しているかが分かります。
日本政府は米軍が沖縄に集中する理由について、主に中国、北朝鮮の脅威に対して有効に対処できる地理的な優位性があるためだ、と説明しています。地図を広げれば確かに沖縄が戦略的に便利な位置にあることが分かります。しかしこれを機能的に検証してみるとまるで別の図柄が浮き上がってきます。
 
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日本にある米軍専用施設の7割が集中する沖縄の中で最大の兵力が海兵隊という軍種で、基地全体の75%を使っています。沖縄の米軍基地のほとんどが海兵隊基地です。「海の兵隊」と書くのは、アメリカ海軍の艦船に乗って戦場や任務地に向かうためで、組織上は海軍の中に位置付けられています。沖縄の海兵隊を運ぶ海軍の船は長崎県佐世保に配備されています。
 
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このように戦闘部隊と輸送力が離れて配備されているため、仮に朝鮮戦争が再び起きた場合、佐世保の船が沖縄まで海兵隊員を迎えに来て、朝鮮半島へ向け北上することになります。戦闘地域が仮に台湾海峡や尖閣諸島であったとしても、長崎県から艦船を待つ必要があるため、沖縄に海兵隊を配備する絶対的な理由は存在しないわけです。
次に海兵隊の兵力を見てみましょう。米軍が戦争で動員する総兵力は、湾岸戦争など過去の例をみると50万を越えています。このうち海兵隊は約9万人です。沖縄に駐留する海兵隊は約1万8000人でしかありません。有事となればアメリカ本国から大型輸送機でピストン輸送してきます。
日米両政府は2005、06年に合意した米軍再編で、沖縄の海兵隊を半減させ、グアムへ移すことを決めました。2012年に米軍再編が見直され、移転する部隊の中に地上戦闘部隊、第4海兵連隊が含まれることになりました。これは沖縄海兵隊の主力部隊です。
これらを乗用車に例えれば、移動するためのタイヤは長崎に置き、動力であるエンジンをグアム、運転手は沖縄に残る、という配置になります。機能を分散配置しても海兵隊の運用に問題がないのは、何かがあればアメリカ本国から大きな兵力が戦闘地に集結できる能力があるためです。紛争地の周辺に前線基地を構え、兵員と物資を大型輸送機で運び、準備が整うと一気に攻め込むというのが一般的な戦闘パターンです。
このように沖縄の米軍を機能的に検証してみると部隊の配置とその運用はそれほどリンクしていない実態がわかります。
森本敏元防衛大臣も今年3月29日のNHK日曜討論で、海兵隊は1万人ほどのまとまった兵力であれば、九州や四国、日本海側にも配置可能であると語っています。仮に海兵隊を本土へ移転できれば、沖縄から米軍基地の75%が撤去され、普天間の移設問題も消滅します。沖縄だけに集中する安保の負担が大いに軽減されます。

なぜそのような負担の公平な分担ができないのでしょうか。この問いかけこそが沖縄問題の根底にあります。
米軍基地の起源は第二次世界大戦での敗戦です。米軍は日本を攻める1年前に沖縄のことを調べ上げ、占領政策の資料をつくっていました。「民事ハンドブック」と呼ばれます。この中の一節にこんな表現があります。

「日本人と沖縄人は人種上の緊密な関係、言語上の類似にも関わらず、日本人は沖縄人を人種的に同等とみなしていない。したがって、いろいろな方法で差別されている。ところが沖縄人は劣等感どころか、彼らの伝統と中国との長い文化的なきずなに誇りを持っている。したがって日本と沖縄の間には政治的に利用しうる軋轢の潜在的な根拠がある。」

日本にはびこる差別の構造の中に米軍基地がはめ込まれた、というふうに読めます。沖縄で米軍基地がどれほど重い負担であっても日本全体としては関心が低く、大きな政治問題とはなりにくいということを米国は見抜いていたのでしょうか。
本来、外国軍が独立国に存在すると、常に政治的な攻撃にさらされます。かつて本土にも多くの米軍基地が存在し、各地で基地に反対する住民運動が起きました。
 
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沖縄の米軍基地の7割を使う海兵隊は50年代に岐阜県などから移転してきました。日本を軍事的に利用できなくなることを恐れた米政府は、基地の「不可視化」を進めることにしました。国民の目から遠ざけて、存在を隠してしまう、ということです。本土にあった基地を沖縄に寄せ集めたわけです。
そもそも海兵隊は朝鮮戦争をきっかけに前方配備された部隊です。岐阜県などと比べ朝鮮半島から遠く離れ、しかも輸送手段のない沖縄に配置されたのは、軍事的な理由ではなく、政治的な理由だったわけです。海兵隊の沖縄移転に対してアメリカ国防総省は反対しました。米軍のプレゼンスを示し、抑止力を高めるには海兵隊よりも大きな兵力を持つ陸軍を沖縄に駐留させるべきだ、と考えたからです。
ところが当時の国防長官・ウィルソンが軍部の意向を無視して、海兵隊の沖縄移転を決めてしまいました。なぜ海兵隊が沖縄に移転してきたのか、米軍が沖縄に集中したのか、その本当の理由はまだ明らかになっていません。ここ2、3年、海兵隊の日本駐留を研究する若手研究者の努力によって少しずつその真実が明かされようとしています。
ベトナム戦争末期、日本で反戦運動、安保闘争が激しさを増す中、アメリカ政府は「関東計画」と呼ばれる米軍基地の大規模な整理統合を実行しました。東京を中心に関東一円にあった米軍基地を集約し、多くの土地を返還しました。基地を減らすことで日本国内に広がる反基地感情をなだめようと考えました。日本国民の目から基地を遠ざける「不可視化」でした。
この基地削減計画の中には沖縄の海兵隊全面撤退も含まれていました。しかし日本政府が海兵隊を引き留めました。沖縄国際大学の野添文彬講師が米国の外交文書の中から発掘した公文書によると、当時の日米交渉で日本の防衛庁はアジア安保に海兵隊の沖縄駐留が不可欠だ、と訴えました。アメリカ側は海兵隊に執着する日本の反応を見て、海兵隊を対日政策のテコとして利用できる、と考えたようです。

日本における米軍基地問題。まずは戦後の歴史をもう一度振り返るとともに、米軍の沖縄集中が日本の防衛、アジアの安全保障にとって本当に不可欠なのかどうかを再検証する必要があります。そうすることで新たな解決策が見えてくるでしょう。 
 

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