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淑徳大学教授 結城康博
 
昨今、深刻化をます介護人材不足を補う策として、外国人介護士の受け入れの議論が活発化しています。特に注目されるのが、外国人が働きながら日本の技能を学ぶ「技能実習制度」の介護分野への導入策です。政府は、対象となる職種を介護にも広める方針で、今国会で法案が成立すれば、来年度から、新システムで外国人介護士が現場で働くことになります。
今日は、深刻化する介護の人手不足の問題、そして、外国人材の活用策について考えます。

福祉人材センター・バンクによると、介護施設の有効求人倍率は深刻で、今年1月のデータでは介護施設の有効求人倍率は2.69倍。過去5年、全般的な雇用情勢が改善している中でも、介護分野に限っては、慢性的な人材不足が続いています。
今後、人材不足はさらに深刻化し、団塊の世代が大量に75歳となる2025年になると、現行のまま介護士を増やしていっても、明らかに30万人の介護士不足が生じると言われています。そこで議論されているのが、外国人介護人材の導入です。 
これまで外国人介護士においては、経済連携協定の枠組みによって、インドネシア、フィリピン、ベトナムから、約1500名の介護士をめざす研修生を介護現場で受け入れています。施設で4年間働きながら、介護の知識と技術を身につけ、介護福祉士の国家試験に合格すれば、実質的に制限なしに働き続けることができるというものです。
しかし、この枠組みの目的は、あくまでも人材交流であり、人材不足を補う制度ではありません。現状では、外国人介護士が飛躍的に増加することは見込めません。

 そこで、今回、政府が決めたのが外国人技能実習制度の介護分野への拡充です。
政府のデータによると、2012年末時点で技能実習生の数は15万人超にのぼり、この年約6万8,000人が新規に入国しています。その多くは、農業や機械・金属、繊維・衣服といった職種で単純労働に従事しているとみられます。
 この制度は、外国人が日本で多様な技能を学ぶ研修という名目ながら、日本人がつきたがらなかったり、人手不足だったりする労働分野の補完として機能しているのが実態です。しかも、劣悪な環境と低賃金で外国人労働者を都合よく利用しているとして、アメリカの国務省から「強制労働」だと批判されたこともあります。
 今国会で審議される法案では、期間を現行の最長3年から5年に延ばすほか、実習生の保護、受け入れ団体や企業を指導・監視する組織を新たに作る策を盛りこみ、トラブルを未然に防ぐとしています。

しかし、この施策には多くの懸念が残ります。
まずは挙げられるのは、実習生を送り出す側における、仲介・斡旋のシステムです。技能実習生らの一部には、送り出し側の斡旋会社に多額の資金を支払うため、借金を背負って来日する者も少なくありません。斡旋会社は、事務の諸手続きや日本語教育、実習生を受け入れる日本の企業・団体との調整を負うことを名目に、技能実習生から本来、必要のない費用を徴収していることも否定できません。以前から問題視されていることですが、指導・監督が徹底できないために、こうした非人道的な対応があるのが事実です。

 さらに挙げられるのは、失踪する実習生の多さです。
 
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国際研修協力機構が把握しているだけでも、年間1,000人前後の技能実習生が失踪しています。2013年には、その数は2,000人超にも達しています。失踪の要因には様々ありますが、その1つは、斡旋業者への借金の返済が難しく長期的に働きたい外国人が、存在することです。

 実習生への日本語教育・介護教育のあり方にも問題が残ります。
 まず、日本語教育です。外国人実習生が介護現場で働く場合は、来日時に日本語検定4級という資格が条件となる予定です。そして、来日して1年後に、日本語検定3級に合格しないと、継続して研修できない制度になる予定です。
仮に、3級に不合格となれば1年で帰国しなければならず、就労を継続したい実習生は失踪してしまう可能性が高くなります。しかも、4級という日本語レベルでは高齢者とのコミュニケ-ションもままならず、良質な介護サービスの提供は未知数です。

介護教育も課題です。外国人技能実習生の多くは、出稼ぎ目的で来日する人も多く、「介護」に対する意識が低いと考えられます。また、実習生の母国には、「介護サービス」の概念が根付いていないケースも多く在ります。
このように、いかに実習生の技量を育成していくかが課題なのです。十分な制度設計がない場合は、介護の質を落とし、利用者を苦しめることにもなりかねません。さらに、日本語や介護の能力が低い実習生を育成する日本人スタッフの負担も懸念されます。

また、人権の保障、職場環境の整備についても課題があります。
研修生は、弱い立場であり、現行の外国人技能実習制度の一部の雇用者側は、残業代の不払いなど人権を軽視した扱いを研修生に行っているケースが少なくありません。日本人の介護スタッフでさえ、介護業界では労働基準法違反の割合が他の分野と比べて高く、まして外国人研修生になると、さらなる問題が生じる可能性は否定できないからです。

ここまで見てきたように、外国人技能実習制度の介護分野への拡大には、多くの課題が残されています。
今後、介護サービスの担い手を外国人労働者に頼るのであれば、「外国人技能実習制度」といった曖昧な労働政策を継続するよりも、外国人労働者の人権や労働権を担保した「移民政策」を議論する必要があると思います。移民政策を拒否して、労働力だけ確保するといった、現在の施策は、日本社会の「御都合主義」であり、国際社会では認められないのではないでしょうか。

また、介護人材の不足について考える際、忘れてならないのは介護士の賃金の問題です。
介護分野では、他分野に比べて賃金が低く抑えられ、それが人材不足の大きな理由となっています。賃金が低いために、介護士の資格や経験がありながら、介護現場で働く事を希望しない“潜在的介護士”が多くいます。この“潜在的介護士”を現場に呼び戻すことなしには、問題の解決はありえません。
そもそも介護士の給与の上昇は、個人消費の拡大につながります。また、介護サービスを安定化させることは、現役世代の介護負担を軽減し、「介護離職」に歯止めをかけ、労働力の維持にもつながります。介護を「負担」から「社会投資」と考えなおす、こうした発想の転換によって、介護保険財政に多くの公費を投入することは正当化されるのではないでしょうか。

昨今、介護人材不足が、介護士による要介護者への「虐待事件」へと発展していることが明らかにされています。人材不足だから、いたしかたないと「質」を問わずに、介護士を雇用する介護施設も増え始めているからです。
人材不足の解消として、外国人材の活用策はカードの1つですが、安易に外国人技能実習制度に期待をよせると、日本人介護士の賃金や待遇改善が疎かにされ、結果的に日本人介護士の待遇・改善が軽視されてしまい、さらなる人材不足に陥ってしまう危険性も認識しておくべきです。

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