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医師 五味常明
 
近年、体から出るニオイを気にする人が増えています。自分の体臭で他人を不快にしているのではないか。人から嫌われるのではないか、と悩むのです。以前は体のニオイを気にするのはほとんどが若い女性でしたが、最近では中高年の男性や高齢者にも「加齢臭が出ているのではないか?」と心配する人が増えています。たとえば久しぶりに訪れた孫から「おじいちゃん、臭い!」と言われたことで自分の体臭が気になって外出もしなくなったというケースもあります。

 では加齢臭とは、どんなニオイなのでしょうか?加齢臭の元はノネナールというニオイ成分です。食用油が古くなると酸化して臭くなりますね。人間の皮脂腺から出る脂肪分も歳をとると酸化してにおってくるのです。ですから加齢臭は歳をとると耳が聞こえ難くなるのと同様に誰でもが出る一種の「加齢現象」です。当然、女性も歳をとると加齢臭が出てきます。ニオイの感じとしては「古本の臭い」とか「ろうそくのロウのニオイ」などと表現されますが、どちらかというと落ち着いた感じですので、特別不快なニオイではありません。
 加齢臭は、若い女性から「オヤジ臭い」などと揶揄されますが、それは若い女性がノネナールだけを嗅いでるわけではありません。中高年の男性が、駅でツバを吐いたり、食後に爪楊枝でシーハーしたり、いつもねずみ色の暗い背広を着たりと、鼻だけでなく目にも「オヤジ臭い」という視覚的な印象を、臭覚的に表現しているのでしょう。つまり、体臭というものは「イメージ臭」という側面もあるのです。

女性が「オバサン臭い」と言われないのは、女性がいつもエチケットに気を配り、清楚な服装を心がけているからでしょう。加齢臭対策として先ず大事なことは、いつも若々しく前向きな気持ちで行動することです。
また体臭は人間関係が良好であれば、お互いに不快とは感じないものです。定年でリタイヤして家でダラダラ過ごすようになってから妻から「あなた加齢臭が強いですよ」と言われて来院されることもありますが、ほとんどが特別な臭いのない人です。妻にとっては今まで会社で頑張って働いていた夫が、いつも家でブラブラされると、粗大ごみのように鼻につくのかも知れません。
夫婦の間だけでなく、社会が豊かになり、個人主義が浸透して、人間関係が希薄になればなるほど、無臭志向が進み、お互いの体臭を否定する傾向があります。しかし、体臭というものは、生きているかぎり誰でもある「生活のにおい」です。ひとつの個性ですので、過度な無臭志向になることは、自己のアイデンティーの否定になることも忘れてはならないでしょう。

 しかしです。「たかが体臭」とばかり無視できないこともあります。体から出るニオイが、その人の健康状態のサインとなることもあるからです。
 
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たとえば糖尿病がすすむと「古くなった果物」のようなニオイがしたり、肝臓が悪くなるとアンモニア臭が強くなります。加齢臭も体の酸化が年齢以上に進むと、より強くなります。皮脂腺の中で脂肪分が酸化してノネナールができるメカニズムは、ちょうど血液中に増加したコレステロールが活性酸素で酸化され、悪玉コレステロールとなり、動脈硬化から生活習慣病に移行する過程と似ています。つまり、加齢臭は一種の「メタボ臭」といってもよいでしょう。年齢以上に加齢臭が強くなったら、内臓脂肪がたまっていないか、生活習慣病のリスクはないのかと健康に留意する必要があるでしょう。
 
したがって、加齢臭の予防は生活習慣病の予防と全く同じです。暴飲暴食をしない。運動不足や睡眠不足にならない。ストレスをためないことです。ことさら体臭を気にしすぎると、それが社会生活上のストレスとなり活性酸素が増加して、さらに加齢臭が強くなるという悪循環になることもあるので注意が必要です。
 加齢臭予防で大切なのは、やはり食生活の改善です。
 
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まずノネナールの原料となる動物性の脂肪を取り過ぎないことです。逆に活性酸素を抑える「抗酸化物質」を含む食品は積極的に摂りましょう。たとえばビタミンCやポリフェノールを多く含むパセリ、ブロッコリーといった緑色野菜、ミカンなどの果物、メカブなどの海藻類、ビタミンEを多く含む胚芽米などは、おすすめです。食事の基本は和食におけばよいでしょう。
 また有酸素運動も加齢臭の予防に有効です。毎日20分くらいのウォーキングは加齢臭の原料となる中性脂肪の減少や脂肪肝の予防になることがわかっています。また、しっとりと汗をかくことを習慣にすると汗腺の働きが高まりサラサラした水に近い「よい汗」をかけるようになり、皮膚の上でノネナールが薄められて、加齢臭のニオイを弱くすることができます。
 さらに、より即効的な方法もあります。漬物の色出しに使うミョウバンを水に溶かして、それを衣類にスプレーするのです。加齢臭は皮脂腺のある胸や背中など全身から出るニオイですので、通常の制汗デオドラント剤は使用できません。制汗デオドラント剤には汗を抑える成分が含まれていますのでワキや足以外の場所に広範囲に塗布すると夏の暑い時など熱中症の危険もあります。その点、消臭効果のあるミョウバン水の衣類へのスプレーなら安全です。ミョウバン水で衣類を「防臭服」に代えれば、ニオイが他人にまで伝わることはありません。

 歳をとるとだんだん人と交わる機会が少なくなります。その上に身体のニオイを気にして外出を控えると、ますます引きこもってしまいます。今までお話ししたことを参考にして「これでもう大丈夫なんだ」と自信をもって積極的に人間関係を築いてください。

 最後に私自身の経験をお話しさせて下さい。私は体質的にワキのニオイが強いタイプです。若いときはそれなりに悩んだこともあります。でも、「体臭は自分の個性じゃないか」、「自分の体臭は世界でひとつしかない大切なものなんだ」と考えて、前向きに生きるようにしてきました。そしてある時、自分自身の生き方に自信を持ってから体臭について悩むことはなくなりました。
 加齢臭についても、私自身、最近強くなっています。以前は私の枕カバーを週に1回くらいしか代えなかった家内が最近は毎日交換するようになりました。たぶん、加齢臭が原因でしょう。でも家内から臭いと言われたことはまだありません。遠慮しているのかもしれませんが、私は夫婦関係が円満だからだと思っています。
 
ニオイ対策で大切なことは、ことさらニオイを否定するのでもなく、かといって無頓着になるのでもなく、お互いに気遣いながらバランスよくニオイエチケットを心がけるべきでしょう。
 体臭予防のもっとも効果的な方法。それは健康的で前向きな生き方。そして、より良い人間関係だと思います。
 

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