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東京大学大学院教授 鈴木真二
 
今日は小型無人機、ドローンについてその現状と安全に利用するための技術開発、制度設計に関してお話します。

ドローンは雄バチを意味しますが、その語源は無人機がけたたましい音をだして飛ぶことからその名がつけられたといわれています。その起源は、第二次世界大戦中に遠隔操作の模型飛行機(ラジコン機)が射撃の標的機(ターゲット・ドローン)として使用されたことにあります。その無人機の工場で作業していた女性が、ハリウッドにスカウトされて女優のマリリン・モンローになったというエピソードもあります。
 
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最近、ドローンと呼ばれ普及しているのは、複数のプロペラの回転数を制御して飛ばすマルチコプターです。こうしたタイプのドローンは1990年代から研究されていましたが、
2010年にフランスの会社が4~5万円の玩具を発売した事で急速に普及し、現在は中国製のドローンが世界中で多数使用されています。その背景には、高性能なバッテリーの開発や、GPSに代表される小型電子機器の発達があります。操縦は比較的簡単で、少し練習すれば飛ばせるようになれます。
その飛ばし方は、ラジコン機のように遠隔操作する以外に、機体に搭載したカメラからの映像を無線で伝送し、手元のスマートフォンなどに映った映像をみて飛行させることも可能です。さらに高価なものは、コンピューター上の地図に飛行目標点を指定させて自動的に飛行させることも可能です。カーナビでも使用されているGPSが利用できるからです。

無人機はどのように社会を変えることができるのでしょうか?
空撮以外に、災害時の調査、測量などですでに活用されていますが、過疎地や、雪国、離島への緊急物資、薬などの医療品の緊急空輸の検討も始まっています。空中からの監視・計測は、防犯、渋滞、火災探知、局地的な気象観測などへ使用できます。私どもの研究室でも医療関係者と協力して、ゴルフ場で心臓発作に備えたAED緊急搬送実験を行い、全自動で空輸する小型無人機の能力に改めて驚きました。
 
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無人機は、生活を安全に、豊かに、便利に変えてくれることができ、新たな雇用の創出、産業の創生につながります。「空の産業革命」をもたらすと期待されています。

「空の産業革命」を確実なものにするには、安全に使用するための様々な課題があります。
その端的な例は、先月の4月22日に首相官邸の屋上でドローンが落下したことです。
 
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飛行する機械である以上、墜落の危険があります。一般的な小型無人機に対する安全規制の検討が急ピッチで実施されています。

無人機の活用が早かったアメリカでは、2007年に連邦航空局FAAが、無人機の商用利用を基本的に禁止しました。ホビーのラジコン機ではなく、業務用の無人機に対する規制です。昨今のマルチコプターの普及もあり、2012年、連邦議会はFAAに対して、2015年9月までに無人機の使用ルールの策定を求めました。その結果、今年2月に重量約25キログラム以下の小型無人機に対して、基準案が発表されました。
FAAが業務用小型無人機に対して発表した案は、操縦資格を要求し、高度は地上約150メートル以下、日中での目視範囲内に限定され、関係者以外の人の上空、空港近くでの飛行を禁止するものです。このなかで、日中の目視範囲内に限定するというものは、アマゾンなどが検討する物流への利用を制限するものです。GPSを用いた自動飛行でも何かあった場合には、かならず目で確認した遠隔操作を要求しているのです。議論が収束するには1年以上かかると思われます。

人口密集地域の多い日本では、ラジコン機を飛ばす場所も限られ、無人機を対象とした安全基準は明確には存在しなかったのですが、今回の官邸落下事件を契機に、一気に安全基準の制定が検討されています。
我が国の現状の航空法では、無人機は航空機への運航を妨げる場合には、規制がありますが、航空路でも高度150メートル以下では特に届け出は必要ありません。ただし、どこでも飛ばせるわけではありません。私有地の上空は地上権が民法で規定され、道路上の飛行も道路交通法との関係が発生します。写真や動画の撮影に関しては、プライバシー保護の視点が必要です。また、無線を使いますので無線に関する規則も関係します。今回の首相官邸事件で、政府の重要施設上空などに飛行禁止区域を設定し、罰則規定を盛り込むことを自民党は提案しています。関係省庁も、安全な飛行のための規則作りを検討しています。悪意を持った違法な利用に対しては厳しい懲罰は当然ですが、利用の規制は技術の発達を阻害しないように慎重に設計すべきです。

無人機の安全な使用に関しては、通常の航空機の安全確保への取り組みが参考になります。それは、製造者、使用者、操縦士がそれぞれの立場で、安全維持管理に努めることです。製造者に関しては、製品の情報提供、安全上の注意点の提示と、不具合情報の収集を、使用者には飛行計画の策定と提出、操縦士には操縦資格などです。また、万が一の事故に備えた保険の制度設計も必要です。ただし、無人機はタイプや、重量、使用用途など様々な形態が想定されるため、詳細な検討が必要です。また、安価で数も多い無人機に対して過大な負荷のかからない効果的な管理手法が求められます。
インターネットを利用した情報技術の発達で、機体登録、飛行計画管理なども容易にできるようになるはずです。現状では、事故の状況も不明ですので、飛行履歴を記録するフライトレコーダーの装着を義務付け、飛行履歴を自動記録することができればビッグデータ処理技術の発達により、安全に利用するための注意点を利用者に事前に提供することも可能になるでしょう。より、長距離を安全に飛行できる無人機の機体開発や無人機用の衝突防止システムも必要です。
こうした新技術、新制度の確立には、産学官の異なる分野、異なる組織の連携が必要です。また、実証する実験エリアの設置も必要です。内閣府が進めている「近未来技術実証特区」は、新たな技術、制度を地域と一体となって実証する仕組みとして期待できます。

現在、国連の専門機関である国際民間航空機関ICAOでは、無人機を通常の航空機と同様に滑走路に離着陸させるための規則づくりを2018年ごろの制定を目標に開始しています。「空の産業革命」は私たちが想像する以上に急ピッチに進んでいます。無人機は新たな輸送手段、通信インフラとしてアフリカなど世界各地の人々の生活を劇的に変えようとしています。無人機を国内だけではなく、世界へ普及させることは技術産業立国日本の役割と言えます。          
 

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