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就労継続支援A型事業所全国協議会 発起人代表 久保寺一男
 
社会の変化や法律の改正により、障害者の雇用の場は近年急速に広がっています。障害者雇用に携わるものとして、非常によろこばしいことです。一方で、雇用が急速に拡大したことで、様々な問題も浮き彫りになってきました。障害者にとって、よりよい雇用の機会を増やすには、どんな課題があるのか。今日は、A型事業所といわれる雇用形態のあり方を中心に、お話したいと思います。

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企業などに一般就労していると言われている方が約40万人います。もう一方に福祉的就労と言われる形態のサービスを受けている方が約24万人います。福祉的就労とは福祉的な支援を受ける就労で、福祉サービスです。その大部分は障害者総合支援法の就労継続支援事業の、おもにA型とB型が該当します。A型は利用者数が約4万人、事業者数が昨年6月の時点で2,238ヶ所です。B型の利用者は約18万人、事業者数は約8000ヶ所です。両方ともサービス報酬費として税金が投入されています。
A型は一般企業等で働くことが困難な人に、労働契約を結んで就労の機会を提供するもので、賃金が全国平均で月6万8千円ほどです。一方A型と比べて、より障害が重い方が利用されるB型は、労働契約を結ぶことが困難な人に、非雇用型の就労の機会を提供するもので、工賃が全国平均で月1万4千円です。

近年利用者が急速に増える一方で、多くの課題を抱えているのが、このA型・B型です。
まずA型です。事業所数が急激にふえていますが、都道府県別にバラつきがあるため、雇用の機会が依然として限られた地域も多くあります。就業時間が短時間労働の4時間のところが多いこと、仕事の内容が簡単な内職程度のところがあること。福祉事業でもあることを運営の基本方針としていない事業所があること。労働者なのに福祉サービスの自己負担分が発生するなどの矛盾です。労働法に基づく、労働の対価としての賃金を保障する労働契約と、障害者総合支援法に基づく福祉サービスの提供、この2つの使命の併存が難しい、判りづらいなどの意見があります。過渡期であるこの制度は充分検討する余地があります。
一方B型は、利用者に払われるものは賃金でなく工賃と呼ばれています。工賃を増やす努力を国が音頭を取り、工賃倍増5か年計画のもとに実施してきましたが、成果は充分とは言えません。制度としては、作業収入から経費を除いてすべて利用者に配分することになっています。一見利用者に有利な制度にみえますが、作業収入を増やすインセンティブにはならず、結果工賃のアップには結びついていません。最低賃金をクリアしなければならないA型とは異なります。もう一つの問題は、実態として労働に近い形態であるにも関わらず、労災など労働法の適用もなく働いているという指摘です。つまりB型事業における労働者性についての問題です。

課題も多い一方で、今後福祉就労の機会はますます増えていくと思われます。日本政府は国連の障害者権利条約を昨年1月に批准しました。第27条に「…あらゆる形態の雇用にかかる全ての事項に関して障害を理由とする差別を禁止…合理的配慮が障害のある人に提供されること…」とあります。
障害者の職業選択の自由と権利を尊重し、障害者の雇用への努力が求められています。
また、障害者雇用促進法の改正により、今年4月より、法律で定められた一定数の障害者を雇用する義務のある対象企業が広げられます。常用雇用労働者数が100人以上の企業まで拡大します。
さらに平成30年以降、民間企業の現在2.0%の法定雇用率が引き上げられ、精神障害者も適用になる予定です。増々、障害者の一般就労の機会が増えて行きます。したがって障害者の雇用はより障害の重い方に拡大していくことが考えられます。
一般就労ができれば良いのですが、色々な事情でできない人たちが多くいます。一番難しい人間関係などの環境配慮について企業では限界があります。しかし環境設定のより厚い福祉的支援があれば、労働者として充分働くことのできる障害者が確実にいます。そのような人たちの受け入れ先が、非雇用型のB型で良いということにはならないはずです。
したがって「一般就労」と、「非雇用の福祉的就労」との間に、中間的就労の場として、「就労継続支援A型事業」が必要です。そこでは労働契約を結び、労働者としての身分保障がなされます。賃金をもとに人生設計を組立て、地域で自立して生活していくこと、そして納税者になり社会に貢献すること、何より労働者としてプライドをもって生きていくことです。福祉施策と労働施策にまたがる制度だからこそ、たとえ重度の障害があろうと「多様な働き方」を実現できる制度であると考えています。

今後、A型事業所には、様々な課題の克服が求められますが、工夫次第で克服できると考えます。
重要なのが、労働環境の整備です。「職業能力は環境が作り出すもの」だと考えるからです。
例えば、私が施設長として長年勤めるしんわルネッサンスでは大手メーカーの自動車部品を組立てていますが、重度の障害者でもできるように治工具を導入しています。写真はブレーキホースに金具を取り付けるものです。障害の度合いにあわせて、こうした工具をつかうことで、作業の幅も広がり、効率も上がります。また厳しい品質をクリアするため、生産現場の品質マネージメントシステムISO9001を取得しました。利用者が生産現場の主役であることから、障害者も組織員として取得しています。
 
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一方、最低賃金をクリアするためビジネスとして確立する必要もあります。障害特性、収益性、何より障害者にとってやりがいのある事業であることなどを検討する必要があります。しんわルネッサンスでは将来性のある作業種に重点的に投資するため、昨年農水省の6次産業化ネットワーク事業に取り組みました。農福連携のモデルとして、地元農家やJAとネットワークを組み、取組み始めています。主力製品のトマトジュースを、担当する障害者がメディアの取材に対し、将来輸出をしたいと抱負を語ってくれました。
 
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今回、A型事業の現状に危機感を持った多くの有志が、発起人となり、全国組織であるNPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会(略称:全Aネット)を立ち上げることになりました。2月28日設立総会を開催します。
当協議会は社会福祉法人・NPO・企業が協同していくことに意義があると考えています。社会福祉法人からは福祉の理念、また企業からはA型事業で特に必要なビジネスモデルを構築する経験を、情報交換をしながら、互いに刺激し合いながら、良いA型事業モデルを目指して行こうというものです。
フランスにも同じような制度があります。しかしこのA型事業を日本型の保護雇用として、ぜひ世界に発信していける一翼を担っていければと考えています。  

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