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女優 奥山眞佐子
 
皆様、ごきげんよう。連続テレビ小説「花子とアン」で山梨ことば指導を 担当いたしました甲府市出身の奥山眞佐子でございます。
セリフでよく出てきました「こぴっとしろ」とは、「ちゃんとしなさい」「しっかりしなさい」「気合をいれなさい」という意味で、教師が生徒を注意する時、先輩が後輩に檄を飛ばす時、親が子供を叱るときなどに、よく使われています。「こぴっとしちゃぁ」と表現して、「一緒にがんばろう」という励ましにも変化した魅力的な言葉です。また、「じゃん」もよく使っています。けれど、「じゃん」は、おしゃれな横浜のイメージが強いということで、当初、極力避けたいと、制作者側からの意見がありました。逆に「ずら」は、甲府では、そう多くは使いませんが、こちらのほうが地方の感じがするとの意見も多く出ました。けれど「ずら」は推量、「じゃん」は断定の言葉ですから、この両方が必要なのです。

また、主人公の花子をはじめ、彼女を取り囲む人たちは、甲府で過ごしています。ですから、甲府で使われている言葉だけで、まとめるのが良いのでしょうが、今回は「山梨ことば指導」の任を頂きましたので、山梨県内の各地域で使われている言葉を散りばめました。
山梨の言葉は、地域によって様々な言葉があります。「こぴっと」は、甲府では、よく使われますが、温泉地で有名な「石和」では、あまり使われていないようです。
「花子とアン」の物語は、明治33年から始まり、大正、昭和と変化していきます。花子の言葉も、子供時代、修和女学校に入りたての頃、甲府で教職につている頃、東京で活躍し始めて…との変化も考えました。地元を離れたことがない「リンさん」や「おじぃゃん」の言葉、行商でたまに帰って来る時の「おとう」の言葉、甲府での暮らしが長くなってからの「おとう」の言葉、それぞれの登場人物の年齢、共通語との関わり方、時代も考えました。
ですが、全国のみなさんの理解を得るためにドラマ用に変化した言葉や、演出上、推量の「ずら」を断定で使用した箇所もございます。ですから「花子とアン」の言葉は、現在、山梨で使われている言葉と全く同じではありません。きっと地元の皆さんは、「あれ、あんな言い方は、ここじゃしんじゃんねえ」とか、「あんなふうに言うらか?いまっと、ちごう言い方があるじゃんけ」とか「今じゃ使っちゃいんけんど、おばぁやんがよく言ってたよう。懐かしいじゃねぇ」などと、おしゃべりの花を咲かせていらしたのではないでしょうか…。
お国言葉は、その地元の文化であり、長い歴史の上に培われて変化してきた言葉です。
ある種のあいまいさを持った奥の深い言葉です。その言葉を大切にしながら、同時に、全国の皆さんにご理解、いただく為には、どうしたらよいか…。お国言葉を、どのようにドラマのセリフに生かせるか…を、制作者と共に試行錯誤した結果が今回のドラマで使われた言葉となりました。
例えば、
「あなたがたは、どうしてそんなことを言うの?私には理解できません。」

という台詞なら…

「おまんとうは、どういで、ほんなこん言うだあ?
オラにゃぁ、わきゃぁわからんじゃん。」

と、提案します。制作者側は、全国の人に理解しにくいと思われる箇所を修正して、

「おまんとう」は「おまんたち」になり、「どういで」は「どうして」になり、「ほんなこん」は「ほんなこと」になり、「言うだあ」は、「言うんだ」になり、「オラにゃぁ」は「オラには」になり、「わきゃぁわからんじゃん」は「理解できねぇ」と、連絡がきます。
これを再度検討して、相互の同意を得たものが完成台本のセリフとなります。
 
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「おまんたちは、どうして、ほんなことを言うだ?オラにゃあ理解できん。」

一言、一言のセリフは、この繰り返しで作られました。山梨の言葉を入れながらも内容を理解してもらえるようにと考え、同時に、共通語が持っているリズムと、山梨の言葉が持っているリズムを、どのように融合すれば、聞き心地の良い言葉になるか…。あれこれと検討を重ねて、共通語と山梨の言葉が混在した「ドラマ・花子とアン」のお国言葉がつくられたのです。
今振り返りますと、走馬灯のようにいろんな場面が思い浮かびあがってきます。その中で一つだけをとなると、第89回の朝市君が、花子の幸せを祈って、「あんたじゃなきゃぁダメどう」というセリフです。このシーンで、涙を流された方も多いと思います。
このシーンの、この部分は、「ダメだ」でもなく「ダメじゃん」でもなく「ダメどう」なのです。この言葉のみが、愛情深い甲州人のぼくとつさを表現できる唯一の言葉なのです。
主演の吉高さん、朝市役の窪田さんをはじめ、大半の出演者の方は、生まれて初めて、山梨の言葉に触れた人達ばかり。それは、それは、大変にご苦労なさいました。努力なさってくださいました。そして素晴らしい感動を、山梨の言葉を、視聴者の皆さんの心に届けてくださいました。

「赤毛のアン」のファンの方はとても多いと思います。私もその一人です。誕生日プレゼントに父から送られた本の一冊に『赤毛のアン』がありました。そして、何度も何度も読み返した大好きな本です。けれど、翻訳者の村岡花子さんが甲府出身でいらしたことをご存知の方は、そんなに多くはないと思います。今回のドラマで、中園ミホさんの魅力溢れる脚本のおかげで、村岡花子さんのことを、郷土の山梨の言葉を交えて、日本中の人に知っていただけたことを嬉しく思います。
村岡花子さんが訳された『赤毛のアン』には、山梨の言葉で表現する方が、原文の雰囲気を伝えられると、ご判断された箇所がございます。それは、

マリラ「まったく、よくもああ、しゃべれるものですよ。ちょっとも、とりえにはなりませんね」

≪ちょっとも≫は、≪少しも≫の意味です

アン「あんただって、でぶでぶふとって、ぶかっこうで、想像力なんて、ひとっかけもないん だろうといわれたら、どんな気持ちがして?」

≪ひとっかけ≫は、≪ひとかけら≫の意味です。

「マリラは、おどろきあわてて、それをひっつかみました。

≪それを、つかみ≫ではなく、≪ひっつかみ≫と、表現されています。

共通語では表現しきれない気持ちでも、お国言葉なら、素直に伝えられる事もあると思います。微妙な感情の機微が表現できる場合もあると思います。都会に来ていらっしゃる方は、お国言葉と共通語という垣根をはずして、ご自分の気持ちを表現する言葉を沢山持っていることを喜びとして、自慢していただきたいと思います。そして、地方の言葉をどんどん掘り起こして、うちにはこんな素敵な言葉があると、資料として集めていただけると「花子とアン」も、とても役立つと思います。

では、みなさん、ごきげんよう。こぴっと 頑張ってくりょうしね!

 

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