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慶応義塾大学教授 樋口美雄
 
出生率が低く、地方からの人口の流出が続きますと、過疎化が進展し、存続の難しくなる地域が急増することが予想されます。政府はこの問題を重視し、それぞれの地域で住みやすい環境を確保し、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくことを目指し、「まち・ひと・しごと創生本部」を立ち上げ、いろいろな施策を講じようとしています。

個々人が結婚や子どもを持つことを希望しながらも、それを実現できない理由は地域によって異なっています。保育施設が不足し、待機児童の問題が深刻な地域もあれば、長時間労働で画一的な働き方を求められるために、希望を実現できない地域も多く存在します。
また、若者が安定した給与の高い仕事に就けないために、経済的理由から、希望出生率を実現できないといった地域もあります。
他方、地方から東京圏への人口の流出につきましても、地元に良好な雇用機会がないために、出て行こうとする人が多く、逆に東京の大学を終わって地元に帰ろうと思っても、魅力的な就職先がないために東京に残るといった若者も多く存在します。
 
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こちらの図は、東京圏への人口の流入と、東京圏とほかの地域の求職者に対する求人倍率の差を示しています。これら2本の線は、並行して同じように動いています。すなわち、地方の求人が減る一方、東京の求人が増えますと、東京に流入してくる人が増えることがわかります。
それだけ、人口の流出を止め、移住してくる人を増やすには、地方でたくさんの魅力ある雇用機会を創っていくことが必要であり、このことは出生率の引き上げにもつながります。
ところが、近年、地方の雇用にとって、好ましくない動きが見られます。
70年代、80年代に、大都市圏の人手不足から、工場を地方に移転した企業が、近年では、そこを閉じて、海外に移すといった動きが見られ、地方では雇用が失われています。
また地方の雇用は公共事業や医療・介護、年金の給付といった財政によって作られてきた割合が高かったのですが、近年、公共投資が削減され、雇用が失われています。
こうした動きは日本だけではなく、多くの先進国で起こっている現象です。しかし、国によって、人口移動の実態は異なります。
 
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こちらの図は、主要国の人口規模別の都市ごとに人口流出入を示しています。
日本では予想通り、人口の多い大都市で人口は流入しており、小都市で流出していることがわかります。
ドイツでも大都市に人口は流入する傾向がありますが、日本と違って一極集中ではなく、地方の中核都市に集まる多極化が起こっています。
 
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他方、イギリスやアメリカでは、日本とは逆に大都市で人口が流出し、小都市に流入する傾向が見られます。
こうした背景には、産業が大都市の一極に集中するのではなく、分散化が図られていることがあります。本社機能であっても、ロンドンやニューヨークではなく、地方に立地する企業も多数存在します。
また同時に、地域の特性を活かした製品やサービスを生産することで、地域の活性化が図られているところも多数見かけます。
日本でも近年、地域の特性を活かし、産業を活性化させ、人口が流入するようになった地域を見かけるようになりました。
たとえば、有名なのは島根県の離島、隠岐諸島の海士町では、10年前、財政が破綻し過疎化の危機に瀕しておりました。また島に市場がなかったために漁師さんたちも取った魚を漁協に渡し、漁協は1日がかりで本土に持っていき、魚は鮮度が落ち買い叩かれるという状況でした。
こうしたとき、民間の大手企業を定年退職した現町長が島に戻ってきて、選挙に当選して、自らの給与を下げるのと同時に、第三セクターを立ち上げ、魚の細胞組織を壊すことなく冷凍し、魚介の鮮度を保ったまま出荷できる新システムを作りました。さらに市場を通すことなく、直接、首都圏の外食チェーンや百貨店、スーパー、さらには海外にまで販路を広げていった結果、漁師の平均収入も急激に上昇するようになりました。
他方、これまで建設業だった企業も、島特有の黒毛和牛の生産に業種転換し、それがブランド化されるようになりました。今では人口約2,400人のうち、島外から移住してきた人が1割に及び、その多くは20代から40代の働き盛りで、住民が協力して、町づくりに努めています。
また長野県の飯田市では、市が中心になって、企業や経営者団体、域外の大学や金融機関、そしてシンクタンクと連携して、ものづくりの拠点「産業センター」を立ち上げ、航空宇宙クラスターや食農クラスターを形成しました。現場主義の徹底により地域ぐるみで施策を立案し、実施することによって、経済的自立を可能にしています。 
活力を取り戻した地域には、それを引っ張っていくリーダーがおり、またストーリーすなわち戦略が存在すると言われます。
そうしたリーダー人材が地域にいるのであれば、その人を中心に付加価値の取れる産業を創り、雇用を創出していくことも可能ですが、そうでなければ、外部人材を登用するのも一案です。
わが国でも、これまでにも何度となく、地方の活性化を狙った政策が実施されてきましたが、必ずしも十分成果が挙げられてきたとはいえません。
今回、「まち・ひと・しごと創生会議」では、基本政策検討チームを作り、これまでの政策を検証し、問題点を浮き彫りにしたうえで、その反省に立って、次のような手順で政策を進めることを提案しています。
まず、各自治体は産業や人口、社会などの現状や将来の動向に関し、必要なデータを分析し、各地域の課題を抽出して、それらを克服するための戦略を創ります。
客観的データに基づいた分析の結果を踏まえ、各自治体は「地方人口ビジョン」を作成するとともに、企業経営者や金融機関、大学や労働界、そして住民から成る地域のプラットフォームを設け、そこで5か年の「地方版総合戦略」を策定してはどうでしょうか。
各自治体は適切な短期・中期の政策目標を設定し、戦略を立て、実行し、成果を検証し、問題があれば取り組みを改善し、実施していく、いわゆるPDCAサイクルを回していくことを提案しています。
各市町村は地域間の広域連携を積極的に進め、「総合戦略」に反映させる。
国は、関係施策の目標、内容や条件等を関係省庁間で統一または整理し、パッケージ化し、ワンストップ型の執行体制を整備する必要があります。全国一律ではなく、各地域が必要な施策を選択できるように、支援施策をメニュー化するとともに、人材面におきましても、地域の要請に応じ、それぞれの専門家を派遣したり、紹介したりする制度を作り、地域を支援するようにしたらどうかということです。
このように、国と連携しながら、地域が主役となって、権限と責任を明確にしたうえで、戦略をもって雇用の創出に当たっていく必要があります。こうした取り組みが、まちを活性化させ、雇用を増やし、そして人口を増やすには欠かすことができません。
 

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